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第36話 反撃 

 「なるほど。差支えなければ教えてくれないか」


 「もちろんです」


 ロミストフの要望に対して、笑みを浮かべて答える。といっても回答は言葉によるものではない。ロミストフがゆったりとした動きで剣を構えた。こちらも同じように構えを取りたかったが、折れた腕では上手く動かすことが出来ない。まずは回復する必要がある。


 しかし、なぜだろうな。


 毒薬を取り出しながら、頭の中に浮かんだ疑問の答えを探す。なぜ、自分は笑顔など浮かべたのだろうか。成功するかもわからない作戦を思いついただけで、余裕などはないはずなのに。


 作戦内容があまりにお粗末で陳腐だからか、それとも本当に自棄になっているからか、それとも危機的な状況を楽しむことができる程にメンタルが成長したからか。


 「どれも違う、な。強いて言うなら三番目の理由がいいけど、なんだか戦闘狂みたいだな」


 自分の疑問について答えを呟く。諧謔を含んだ自分の笑顔は対峙している男にどう映っているのだろう。


 思考を打ち切り、懐から取り出した毒薬を口の中に放り込む。意識が途絶え視界が暗転するが、それも一瞬で終わる。身体中の痛みと熱が嘘のように引いた。体力は回復し体は完全な状態へと戻る。


 「……回復手段はそれだったのか。ゴーレムたちとの戦闘中に不可思議な回復をしていると思ったが、自殺による復活回復だったのか」


 「そのとおりです。能力の副産物みたいなもので、俺はここまで来ることが出来ました」


 これで回復手段は相手に知られてしまった。相手からしてみれば回復手段など早急につぶさなくてはならないものの一つだろう。その考えは正解だった。


 「ならば腕を潰して、使用できないようにさせてもらう!」


 ロミストフが動く。先ほど同様に剣を構えながら、素早い動きで距離を詰める。しかし、先ほどとは違い、向こうがどの程度の速度で向かってくるかはわかっている。疾風のような動きであっても、同じ動きであれば対応する方法はある。


 「まずは足止めだ!!」


 武器創造の魔法を使用し、竹やりを地面から生やす。戦闘が終了、ひと段落するまでは魔力を回復する手段がないため、少しでも魔力消費を抑えることが出来るように。消費の少ない竹やりを創造する。強度は低いが足止めならそれで十分である。


 これが屋外であれば跳躍して進むということもできたのだろうが、ここは屋内でありその方法は使用できない。障害物をいちいち除去しなければならない。


 「これが君の作戦だとすると、拍子抜けだな。確かに足は止まるが、突破は容易だ」


 ロミストフが剣を振るうと、竹やりが四方に吹き飛ぶ。所詮は竹であるため強度などたかが知れている。簡単に切断され、折られてしまう。


 「安心してください。まだ手段はあります」


 竹やりは足止めだけが目的だ。


 再び武器創造の魔法を使用する。今度は造りだしたものは鉄パイプである。ただし、中には竹やりが入っている。


 「二つ重ねてどうしようというのかね。鉄の中にその植物を入れたところで何も強度は上がらないと思うのだが」


 あきれた口調でロミストフが言う。再び前進しようと剣を振るい足元の竹を排除する。


 確かに強度的には何の意味のないだろう。しかしこれは強度を強くすることが目的ではない。金属筒の中に、筒の直径と同径物を入れることに意味がある。


 鉄パイプ右肩に担ぐと、それを左手で押さえ、狙いをロミストフに定めて、鉄パイプの後部を殴る。


 部屋の中に炸裂音が響いた。


 「ぬおあっ!!」


 鉄パイプの先端から発火炎と竹やりが勢いよく吹き出し、ロミストフめがけて強烈なく速度で射出されたのだ。


 ロミストフは超高速で突然飛来した物体に対して回避したものの、飛翔中に分裂して散乱した竹やりの破片にあたったようで、情けない悲鳴を上げる。


 「何だ!それは!?」


 「携帯式の大砲……ですかね?思いつきで作ったものなので説明が難しい。竹やり射出機……、対空竹槍……、墳式竹槍……、名称はどうもイマイチですね」


 自分のネーミングセンスはないことを再確認しながら言った。そのあたりは、この戦いが終わったら仲間たちに相談するとしよう。


 「名称を聞いているのではない!これは、いったい」


 「爆発を利用して中の弾を射出する装置です。この世界は銃が開発されていないため、珍しいかもしれませんね」


 使用済みの鉄パイプを床に投げ捨てる。それから再度同じものを創造し、ロミストフに照準を定めて打ち出す。さすがに二度、三度では対応できる速度ではないため、必死になってロミストフは回避する。


 上手くいったことにホッとする。堂々と使用しているがこれ自体は失敗作なのである。超高速で飛来するため避けるは非常に困難で、威力もあるため武器としては優秀だと思ったのだが、命中率が極端に低い。口径が大きいため空気抵抗を受けやすいし、ライフリングがされていないため、すぐに左右にぶれてしまう。有効射程はせいぜい数m程度であり、この距離なら剣で切ったほうが早い。


 また射出方法が爆発による射出のため、鉄パイプ内は超高温になる。肩と手で支えて使用するため、当然のことながら火傷が発生する。一度の射出であっても相当の熱がパイプに伝わるため、ひどい火傷を負ってしまう。これは我慢すればどうとでもなるが。


 以上のようにデメリットばかりの武器ではあるが、せまい屋内で戦闘するという状況であれば十分にその威力が発揮できる。実際にロミストフに対して当初は有効であった。


 「なかなか、面白い、武器だ!」


 十数発目の竹やりを撃ったところでロミストフが言った。当初に比べて回避動作に無駄が無くなっている気がする。いや、気のせいではない。回避しながらじりじりとこちらとの距離を詰めてきている。


 「楽しんでもらえて何よりです」


 竹槍を撃ち続けながら答える。


 「そうだな。楽しかった。しかし、もう十分!!」


 一気にロミストフが距離を詰めた。まずいと一瞬思うがすでに手遅れである。ロミストフの剣戟の間合いに入ってしまっているため、避けることはできない。この状況で出来ることと言えば、相手の攻撃よりも早くこちらが仕掛けることだ。


 「くそっ!」


 「遅い!!」


 自分の右側が軽くなった気がした。いや違う、気のせいではない。そこにあるべきはずの感覚が全く無くなっている。


 鉄パイプが甲高い音を立てて地面に転がる。それから右腕がするり地面に落ち、どさりと鈍い音を立てて地面に転がった。右腕ごと切られたのだ。


 ロミストフが笑った。俺の攻撃手段を奪ったことからくる笑みだった。勝利を確信した笑みだった。後は俺の心が折れるまで嬲り続ければいいのだ。


 やはり自分よりもはるかに高みにある存在には勝てない。それは仕方ないことだ。どうしようもない。


 だけど、勝利する必要などはないのだ。


 ロミストフのように俺も笑った。今度は自棄から来るものではない。こちらも自分の作戦が成功したからだ。


 残された左腕をロミストフに向ける。距離は十分に接近することが出来た。


 「武器創造」


 魔法を唱えながら地面に倒れこむ。体のバランスが崩れたことによる転倒だった。


 倒れこみながら自分の右腕があった場所を見る。肩口からすっぱりと無くなっており。そこからは噴水のように血が噴き出ていた。痛みのあまり視界がかすみ、動くことが出来ない。


 それでもどうなったか、結末を確認しなければならない。必死に首を動かして、ロミストフが立っている位置を見上げる。

 

 「……成功っ!」


 苦痛により脂汗を浮かべ、苦悶の表情を浮かべながら俺は言った。


 先ほどまでいたはずロミストフの姿はどこにもない。代わりに彼が居た位置には、漆黒の鎧が仁王立ちで立っている。

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