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第33話 救出-4

 目的の場所に近づくにつれて警備の数は目に見えて多くなっている。侵入者から人質を守らなければならないのだから、人質周辺の警備を厚くするのは当然のことであると思うが。


 「まだ、あんなに居るのかよ……」


 ため息交じりにつぶやく。この場所にたどり着くために数十のゴーレムを打ち倒し、十数回以上の復活をしてようやくたどり着いたというのに、それ以上の困難が待ち受けているとは思いもよらなかった。視線の先にあるものを見て再びため息をつく。


 ゴーレムの一個中隊。それが今俺の目の前にいる最大の障害だった。100体を超えるゴーレムがきれいに整列して並んでおり、微動だにせず武器を構えて仁王立ちしている。


 自分の姿は見えているのに動く気配がないことから、近づいたらゴーレムの大群が襲ってくるのだろう。


 ほかに手段はないかとあたりを見渡すが、空でも飛ばなきゃ無理そうだ。


 覚悟を決める。ここを突破できればミストまではあと少しなのだ。ここからは派手に動き回ろう。ハンマーで戦闘するには自分が数百単位で犠牲になりかねない。爆弾を使用して片づけたほうが、犠牲になる回数は少なそうだ。それで増援が来たとしても仕方ない。


 それにこの状況であれば多名したいことがあった。それはリベイクにお願いしておいたことである。


 「武器創造」


 全身から力が抜ける。すさまじい倦怠感が体を襲う。今までの武器創造と違い魔力のあるものを創りだそうとしているため、負担が大きい。


 魔法が成功するかふあんではあったものの、上手く成功した。霞む視界には見慣れた人影が立っている。漆黒の鎧だ。


 「成功したのかな……?」


 見てくれだけはうまくいったと思う。細部は想像力が足りなくて適当になってしまったが、造形に気になるほども違いはない。ただ、グレートヘルムの隙間から見える赤色の瞳が弱弱しく点滅していることが気になった。なんとなく電池が切れかけたときの携帯ゲーム機の電源ランプを思い出す。


 「右手を挙げてみてくれ」


 動くことが出来るのか不安になったため、簡単な命令を投げかける。


 創りだした鎧はそれに答えるように、ノロノロとした動きで右腕を上げた。意思が伝わったことに安堵する。


 続けてほかの動きが出来るか確認するため指示を与えてみるが、鎧は言われたとおりに動いてくれた。もう少し敏捷であればいいのにと思いつつも、自分の魔法の技量ではこれが精一杯なのだろう。


 武器創造で創りだしたものはリベイクである。正確にいえばリベイクをもとに劣化させて複製した動く鎧というべきものである。


 武器創造の魔法の特徴として、武器だと思い込めば日用品でも創りだすことが出来るのは実験済みである。


 彼自身を武器、正確に言えばロボットの一種だと思い込むことで、武器としてリベイクを創造できるのではないかと思い。救出に赴く前に彼の体を隅々まで調べさせてもらった。


 当初はリベイクを複製し、鎧として着込むことで防御力の向上と戦闘中に助言をしてもらうことが目的だった。しかし創り出した鎧は、銅程度の強度と簡単な動きを行う程度の知能しかない失敗作だった。


 その程度のものであれば自分の少ない魔力でも創りだすことが出来ることが判明したが、一体創りだすだけで魔力のほとんどが枯渇してしまう。実戦であれば、ほとんど役に立たない。


 「リベイクに無理を言って創らせてもらったのだから失敗作とは言いたくはないけど……。しかし武器だと思えば何でも創り出すことが出来るというのはどうなのだろう?」


 自分の使っている魔法は武器だけを創り出す魔法なのだろうか。何でもありの状態になりつつあるのではないかと思う。ミストからそう教えてもらっているため、深く考えたことがなかった。救出に成功して落ち着いたら聞いてみようか。


 改めて鎧を見る。失敗作といえども歩いて突撃することが出来れば、使い道はいくつかある。


 懐からトゥーラからもらった薬を取り出した。黒に近い緑色と赤い斑点のある錠剤で、服用してはいけないと死角に訴える毒々しすぎる色であった。


 【効果は保証しますよ~。一瞬で効果が現れます~。味にも自信がありますよ~】


 トゥーラの言葉を思い出しながら、錠剤を手のひらで転がす。味にこだわるよりも、見た目を改善してほしいと思った。飲み込むのだから味なんて関係ないだろうに。


 ため息をつく。これでカウントが一つ増えるなと覚悟を決めて口の中にほうりこんだ。


 「ぶっへぇ! まずぅ」


 不気味な甘さが口の中に広がる。青臭さと砂糖水を何十倍に煮詰めたような強烈な甘さだ。吐き出しそうになるが掌で口を抑えて必死にこらえ、強引に喉に流し込んだ。


 トゥーラ特性の薬の効果は抜群だった。一瞬で力が抜け意識が途切れる。


 もらった薬の正体は毒薬である。


 俺の持っている復活スキルの特性として、死亡して復活することでどんな損傷を負っていても健全な状態に再生し、体力や魔力が回復するというものがある。俺にとっては即死できる毒薬は万能の治療薬に等しい。すべてが万全の状態に戻るのだ。 


 高位の魔法であれば怪我を一瞬で治療したり、体力を全回復させたりできるものはあるが、魔力の回復まで行うことのできる魔法はない。


 もちろん命のストックは一つなくなるため、できることなら使用したくはないのだが。


 回復した魔力で再びリベイクを召喚し、毒薬を飲むということを5回ほど繰り返す。最初に召喚した鎧の隣に同型の鎧が立ち並ぶ。鎧に反転するように指示を行い、塔の前にいるゴーレムと対峙させた。


 100体以上の敵に5体の鎧では数の上でも戦力差がありすぎて、まともな勝負にはならないだろう。おまけにこちらの鎧は歩くのがやっとな程度の能力しかない。


 少ない戦力を有効に活用するのは自爆特攻しかない。幼少のころに聞いた戦時中の話を思い出し、自分のやろうとしていることに嫌悪感を抱く。


 「本当に申し訳ないと思う」


 謝罪の言葉を口にする。彼らに感情があるのかわからなかったが、言わずにはいられなかった。


 鎧達に前進の命令を出す。ためらうことなく彼らは進む。目前にいるゴーレムたちも対峙している侵入者が自分たちのテリトリー内に入ったことに気が付き、迎撃するために動き始めた。


 鎧達と違い俊敏な動きができるゴーレムは一瞬でリベイク達を取り囲み攻撃を開始する。鉄よりも柔い金属で構成されている鎧たちは一瞬で穴だらけになった。


 広場に爆発音が響いた。鎧の一つが突然爆発したのだ。


 一つの爆発に誘われるようにして、鎧たちが次々と爆発し、ゴーレムを爆炎の中に巻き込んでいく。


 成果に歓声を上げたくなったが、犠牲になった鎧達のことを思うといたたまれない気持ちになる。


 鎧達の体にはフィリカの複数の爆弾を創り出して取り付けていた。フィリカの爆弾は衝撃が加わると爆発するようにできている。鎧の装甲は脆弱であるため、ゴーレムの武器は容易に貫通して爆弾に当たるだろう。


 その予想どおりに爆発は発生したのである。


 爆炎が収まり、煙が風によって四散すると100体以上いたゴーレムの集団は文字どおりばらばらとなっていた。五体満足で存在するゴーレムは片手で数えられるほどに減っている。


 あとはハンマーで一体ずつ潰していけばいい。随分と楽になった。散っていった鎧とリベイクには改めて感謝しよう。

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