第33話 救出-3
人質となっているミストの号砲で開始された救出作戦は順調とは言い難いものの、着実に進行していると思う。
目的の場所に進むため、庭園を抜け、扉を壊し、窓から出て、階段を昇降し、壁を突き破って進む。平時であれば人の動線として整備された箇所を進めるのだろうが、今は警備のために配置されたゴーレムや侵入者を撃退するための罠が配備されているため、それを避けながら進むしかない。
ミストを助けに来ているのか、建物を破壊しに来ているのか、どちらが目的なのかわからなくなってくる。
「ああ、畜生。疲れたな……」
壁に耳を押し当てながらつぶやく。先ほどから自分を執拗に追いかけてきたゴーレムの足音が遠くに行ったことを確認すると、息を吹いてその場に座り込んだ。疲労のため無意識のうちに額を拭ってしまったようで、腕にはピンク色の体液がべったりと付いていた。ゴーレムの持つ斧で頭をかち割られたため、脳漿と血液が混じったものだった。
「5,6回ぐらいは死んだかな。ある程度の犠牲は仕方ないと思っていたけど、きついなぁ。……即死だと記憶が混乱するから、もっと死んでいるかもしれないけど」
不意打ちで即死すると記憶が少し飛んで生き返ることになるため、死んだという実感が薄い。復活回数が有限である以上、正確な死亡回数がカウント出来ないと、残りの命のストック数がわからなくなって、後々に困る事態になりそうである。冒険者生活だけをやっていればそれほど気にならないが、魔界の統一に向けて動き出せば、今回のような激戦は多く発生するだろう。命を犠牲にするゴリ押し戦法ではすぐに消耗してしまう。そのため残り回数は正しく把握し、節約できるときはしなくてはならない。即死はなるべく避けなくては。
「あー、違う。違うな。即死じゃなくて死なないようにしなくてはならないだな」
苦笑しながら自分の考えを否定する。死に過ぎているせいで、死に対する感覚がおかしくなっている。死に対する忌避が無くなってしまうと人間を心から人間を止めてしまうようで嫌だ。
余計なことを考えないようにするため、手に持っている武器を握りしめる。使い慣れない武器のため握り心地に違和感があるが、ゴーレムのような硬度のある敵に対しては有効であった。
鎚。いわゆるハンマーと呼ばれる武器である。俺に技量があれば普段の討伐で使用している剣や槍でも問題なく切断することはできるのだろうが、残念ながら武器をぶつけることしかできない自分の実力では無理である。
「そんな技術があれば、苦労し……」
遠くに行ったゴーレムたちが戻ってきたのか、足音がそばまでやってきた。人間の足音とは違い、金属を叩くような音が聞こえるため何体の敵がいるのかわかりづらい。それでも近づけばおおよその数はわかる。
「2体かな」
足音を立てないように扉から離れて、物陰に隠れる。隠れてやり過ごそうとするが、残念ながら、回避することはできず扉を開けてゴーレムたちが入ってくる。
戦う覚悟を決める。幸いなことにゴーレムには感情が無い。警戒して動くということがなく、雑に歩き回り侵入者を探すだけだ。そしてよく観察すると行動派パターン化されていることに気が付く。捜索から戦闘に行動パターンが切り替わる際に武器を上段に構えるため、隙が出来る。
その隙の内に攻撃するのだ。この状態で爆弾を投げることが出来れば一網打尽に倒せるのだが、他のゴーレムを呼び寄せてしまうためなるべく静か倒す必要がある。
一番手近にいたゴーレムの足関節に、ハンマーを叩きこむ。弱点である頭よりも足の関節部の方が柔らかい。殺すことはできないが、動きを止めるだけでいい。
奇襲は成功したが、残る1体は万全な状態でこちらに反応する。しかし気にせず襲いかかる。今度は敵の弱点である額部分に叩き込む。金属がひしゃげる甲高い音が室内にひびく。
しっかりとした手ごたえがあった。弱点であるゴーレムを制御する核の部分に命中したようでゴーレムは崩れ落ちた。それを確認すると、先ほど足止めしたゴーレムに駆け寄りハンマーで頭を砕く。
二度の使用でハンマーの柄が根元で折れる。硬度の高い敵に対峙して初めて気が付いたのだが、自分の創造で作った武器は耐久力があまり強くないらしい。魔力がある限り武器などいくらでも創りだせるのだが、複数回使用するだけで壊れる武器しか扱えないというのはいささか不安である。
新しいハンマーを魔法で創りだし、握りしめて廊下に出る。廊下の左右を確認し増援が来ていないか確認する。何かが動く音は聞こえるが、視界の中に人影はない。今のうちであれば見つからずに移動できそうだ。