第33話 救出-2
『こんなに早く来ていただけるとは思いませんでしたよ。魔王様』
「ミスト?」
『はい。私の残した魔方陣が起動したようなので、魔王様がこちらに来たと思い、交信の魔法で連絡を行いました。交信が出来ているということは中庭付近に居るのですよね』
「ああ、転移した個所からほとんど動いていない。庭園のような場所にいる。それよりもお前は無事なのか?」
『ええと、無事ではあります。行動に制限はかけられていますが、五体満足で健康体ですよ』
無事であるという回答に安堵する。生きていたとしてもひどい目に遭わされているかもしれないという不安は心の片隅に存在していた。ミストを誘拐した連中は紳士的な存在らしい。
「無事なら良かった……。それで、今お前は何処にいる。あと、お前を誘拐した連中はどんな奴なのだ?やはり魔族なのか?先代の魔王とか近衛に関係がある人物の犯行なのか?誘拐犯の戦力は?お前以上に強いやつはいるのか?と、いうよりも置手紙を残すならこれぐらいの情報は残してくれよ」
ミストに質問と不満を投げかける。
『質問は一つずつお願いします。うーん、そうですね。私を誘拐した犯人は元魔王配下の将軍ですね。今は地方軍閥の一人として領地と軍をまとめています。軍務に対しては誠実で先代の魔王様と仲が良く、信頼は厚かったようです。軍人らしい固い性格をしていますが、軍務や政務以外に関することであれば……、まぁ、なんと言えばいいか、適当と言うか』
「ずいぶんと詳しいな」
尋ねたら余計な情報が返ってきた。誘拐犯の性格までは聞いていなかったのになぜ知っているのだろうか。誘拐犯はミストの知り合いなのだろうか。
『それは、まぁ、そうですね』
随分と歯切れの悪い返事だった。聞かれるとまずいことでもあるのだろうかと思うがミストの言葉に遮られる。
『この城に配置されている戦力は不明です。この部屋から外部の様子は見ることが出来ませんので、どのぐらいの警備がいるかはわかりません。ただ、警備は魔族が行っているのではなく、魔力で建造されたゴーレムが中心だと思われます』
「ゴーレム?」
『魔力を原動力として動く無機物の人形のことです。感情を持たない機械のような存在で、与えられた命令以外は行うことが出来ません。警備用のゴーレムであれば動きは単純で、視界に入った侵入者を腕力で排除するぐらいしかできないはずなので、上手く立ち回れば戦闘しなくても切り抜けられると思います』
「そうなのか」
『はい。私としては見つかってくれた方が、良い訓練になってよいのですが』
捕まっているというのにミストの調子はいつもと変わらない。予想していた通りではあるがもう少ししおらしく助けを求めてほしいものだと思う。
「助けに来たのに難易度を上げてようとするんじゃない。まぁ、いいや。とりあえず無事なら、ゆっくりと助けに行けばいいし。それで、お前は今どこにいるんだ?」
いつもと変わらない口調で会話するミストに影響を受けたせいで、俺も緊張感がどこかへ行ってしまったようだ。ここに来たときに比べて幾分か落ち着きを取り戻している。
『わたしの居場所の前に……。魔王様、助けに来てくれてありがとうございます』
意外な言葉がミストの口か出た。ミストが感謝を口にするなんて随分と珍しい。雨どころ槍でも降ってくるのだろうか。
『魔王様、今、とっても失礼なこと考えていませんか?』
相変わらずミストは目敏い。
『わたしだって素直に感謝する時ぐらいありますよ。ええと、そうではなくて私の居場所でしたね。私の居場所は塔の最上階です』
「東西南北に4か所あるのだけど、どれだ?」
東西南北にある塔を見渡しながらミストに聞いた。塔の形状は全て同じであり、見た目だけではどこにミストが居るかわからない。せめて。北とか東とか方位を示してもらいたい。
『うーん。そうですね。この部屋は窓が無いから……。日光も入ってこないから少しジメジメしているし、ちょっと寒いし、やっぱり改修しないとだめだなぁ』
ミストがブツブツと部屋の間取りに対して不満を言った。そういうことはそこに閉じ込めた本人に言ってほしいものである。
『ええと、あっ。そうだ』
何かを思いついたらしい。少し待っていてくださいとミストは言った。かすかな声で何かを呟いているようだった。気になったので耳を澄ませて何を言っているのか確認する。余計なことを思いついたのではないかと不安になる。
「何をする……」
俺の言葉よりも早くミストの準備が完了したらしい。俺の言葉を遮って大音量とともに北側にある塔の屋根を突き破って一本の光が飛んで行った。吹き飛ばされた屋根の破片が陽光を反射してキラキラと光りながら吹き飛んでいく。
「ここです」
「ここじゃねえ。派手にやりすぎだ。馬鹿野郎」
ミストの居場所はわかったが、開戦の狼煙を上げたようなものである。せっかく人がこっそりミストを探索しようと思っていたのに、なぜ台無しにしてしまうのか。くそっ。どうしていつもこんなことばかりなのだろうか。
どこからともなく大きな鐘の音が聞こえた。おそらくだが、敵襲を知らせる音だろう。先ほどまで静かだった庭園の空気が変わった。ミストの話していたゴーレムが向かってきているため、金属がぶつかるがしゃがしゃとした音が響く。
『がんばってください。待っています。無事に助けてくれたら、その時は――』
交信の途中でミストの声が途切れた。こちらから呼びかけても反応しない。妨害されたようだ。
居場所が分かった以上、この場所にとどまる理由はない。猫のように身をかがめて北の塔に向かって走り出す。
畜生め、どうしていつもこうなってしまうのだろう。俺に幸運がないの仕方がないとしても、せめて武運ぐらいはあってほしい。




