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第3話 異世界での初仕事 前編

 「やる気に満ちていますね。いい傾向です。できれば一人頑張ってもらいたのですが」


 「ふざけんな。おまえのせいでもうじき夕方だっていうのに金稼ぎしないといけないんだぞ!」


 ドラッジオ市から王都へと続く街道のそばに俺たちは居た。街道と言っても現代日本のようにアスファルトで舗装されているわけではなく、草原の中に砂利敷きの道がずっと続いているだけの簡素なものである。ドラッジオ市はなだらかな丘陵に建てられており、街道の先はどこまでも続く草原の大地であった。


 日本のようにコンクリートジャングルでなく、土と草の香りが満ちているこの場所には、できれば、討伐などではなくピクニックのような行楽でのんびりと過ごしたかった。


 「財布が空になるまでお前が食堂で馬鹿みたいに食べるからだよ!!せっかく節約するために受付のお姉さんから安い宿屋を聞いてそこに泊まろうと思っていたのに、宿賃もないよ!」


 「とりあえず、メニューの端から端までは食べてみようと思いまして……。味はそこそこでしたよ。値段を考えると割安かと思います」


 「へぇー、そうなんだ。じゃあ今度使ってみようかな。……じゃなくて、食い過ぎだ。馬鹿野郎」


 こいつが財布の中が空になるほども食べると思っていなかった。この世界の貨幣価値はまだ理解できていないが、伝票を渡してくれたウェイトレスさんが慌てた様子で、払えるのかな?みたいなひきつった笑顔をしていたとき、とんでもない大金なのかと察することはできた。


 文字通り財布をひっくり返して、大小金銀に輝く硬貨をほとんど渡すことで支払いはできたのだが、そのせいでほとんど無一文と言っても状態である。


 ちなみにこの王国では複数の貨幣が流通しており、金貨、新金貨、銀貨、銅貨の4種類が国で発行している王国貨幣。地方金貨、地方銅貨、の2種類が地方領主で発行している地方貨幣となっている。国王の直轄地や王都周辺の領土であれば王国貨幣の流通量が多くなるが、王都から離れれば離れる程、地方貨幣が流通の中心になる。ドラッジオ市は魔界との距離が近く、対魔王軍の最前線であったため、国王の直轄地となっている。


 「過ぎ去ったものは仕方ないじゃありませんか。冒険者登録は完了したのだから、これから稼げばよいのです。資金を稼ぐことも魔王様の復活に必要なことですから、むしろ0からスタートすることはキリが良いと考えるべきです」


 キリがいいかもしれないけど元手がなきゃ、宿も確保できないし装備もそろえることができないのだが。


 冒険者組合で冒険者に必要な装備やら何やらを聞いたところ、冒険者としてまっとうに活動しているパーティーとして認知してもらうために、必要な最低限の装備は戦士であれば短剣やこん棒などの武器と、皮鎧などの防具を中古でもいいからそろえなければならない。


 また、負傷したときや毒におかされた時などに対処できる医薬品の類は所持しておいたほうが良いとのことだった。他には日数かかる依頼を受けたとき用にキャンプ用具や外套など野宿を行うため用具もそろえたりする必要があり、それらをすべて中古で調達したとしても、銀貨2,3枚は必要と言っていた。


 道具はおいおいそれていくにしても、まずは拠点となるべき場所の確保が急務である。一番手ごろな拠点は組合が運営する宿で、泊賃は一人当たり銅貨3枚だという。つまり、本日中に最低でも銅貨6枚以上を稼ぐ必要がある。


 「とにかく、俺たちは今日を生きていくために金を稼がなきゃならん。しかし、俺には戦うための武器がない。そこで、しばらくの間はミストの魔法で稼いでもらいたい」


 「は?嫌ですけど」


 嫌そうな表情を浮かべるミストさん。なんでや。


 「魔法を使うのには魔力が必要なんです。魔力は空気中のマナを皮膚から取り込むことで回復しますが、人間界のマナ量は魔界に比べて少なく、ここでは私の魔力はほとんど回復しません。回復手段としてはマナを凝縮した水薬にて摂取するか、食物内に含まれているマナを食事によって取り込むかしかありません。前者は金貨何十枚の話なので論外ですし、後者でも金貨数枚の話になりますので私が活躍すれば大赤字になりますよ」


 「だから、あれだけ食べる必要があってってわけか?」


 「いえ、あれは別に魔力を回復するためでなく、私の興味によるものです。……あの時点では魔力はほぼ満タンでしたから、回復の意味はありませんね」


 ……うーん、頭が痛くなってきた。


 あてにしていたミストの魔法が、赤字を生み出すものであればおいそれとは使うことはできない。しかし、武器もない状態ではモンスターの討伐などできない。……野宿確定かな。


 「だから、魔王様が戦ってください。死んだって復活するのですから、数の力でゴリ押しすれば問題ありません」


 「何を言っているのだ、お前は?武器なしで突っ込んだらただの自殺だよ。死ぬのっていうのは、死ぬほど痛いぞ」


 うーん、随分と幼稚な言い回しになってしまった。死んだときの痛みを人に伝えることが難しいな。


 「文句ばっかりですね。仕方ない。武器ぐらいなら何とかなるようにしましょうか」


 そう言ってミストは何もない空間をつかむような動作をする。すると、手の先から波紋のような揺れが空間に広がり、そこからゆっくりと鈍い色の両刃の剣を取り出した。


 「これは武器創造の魔法です。自分の魔力をもとにイメージする武器を具現化する魔法です。使い勝手はあまり良くないわりには、位階はなかなか高くて習得には時間のかかる厄介な魔法ですね」


 「おお、十分立派な剣じゃないか」


 この世界に来てから見た魔法は自分が吹き飛ばされた爆発魔法ぐらいしかないため、何もないところからものを作り出すことのできるといった、魔法らしい魔法をみて少し感動する。


 感動のままにミストが持っている剣を受け取ると、ずっしりとした鉄の重みはなく、羽のようにほとんど重さがない。よくよく見てみると刃にも金属の光沢がなく金属風の外見をしているだけだ。刃の触れてみると触れた個所からボロボロと崩れていく。


 「もろいな。発泡スチロールか何かで作ったのか?」


 「武器創造でまともな武器を創造するには、相応の魔力量と想像力が必要になります。私の場合、魔力量は十分ですが、剣など握ったこともないのでイメージをすることが出来ず、こんなものが出来てしまうのです。杖の類ならば十分実用品を創ることが出来ますが、自分の工房からいつでも杖を召喚することが出来ますので、使う必要がないのです」


 ミストの杖がいつのまにか出たり消えたりしているのに疑問を感じていたが、そう言う理由だったのか。ミストがほとんど無詠唱で魔法を使用しているため、いつのまにか魔法を使用していたことに気が付かなかった。


 「しかし、想像力があれば魔王様の少ない魔力でも単純な武器は作れるのです」


 「俺だって武器なんか使ったことないぞ。刃物なんて鉈とか鎌ぐらいだし。自分で創るよりもミストに先のとがった杖を創ってもらって、ポールウェポンとして扱ったほうが、間合いを取りながら戦えそうな気がするが」


 「魔法使いの使用する杖なんて軽い素材で作っていますから、武器としての使用は向かないと思いますよ。物干し竿のほうがよっぽど有効活用できます」


 「そうなのか。じゃあ物干し竿でもイメージするかな」


 武器を取り扱ったことはないので、何を渡されても戦いの自信はないがポールウェポンは世界各地で使われていたし、縄文時代の頃から存在していたと聞いたことがある。


 まぁ、ファンタジ―世界と言えば剣だし、そちらのほうが格好良い気もするが、使いやすさとしては槍のイメージがある。


 「しかし、作り出せるのはわかったがどうやってその?魔法を使えばいい?そんなに簡単に魔法を使えるようなものなのか?」


 先ほどミストが言っていた習得に時間がかかるという言葉を思い出しながら聞く。


 この世界の魔法には魔法の効力に応じて位階と呼ばれるクラスがあり、位階の多いものほど使用する魔力の量や詠唱に必要な節数が増えるのだという。


 「魔王様に知識を転送したのは私ですよ。たかだか第四位階の魔法を転送するぐらい朝飯前です」


 魔法の位階は第一位階から始まり第八位階まで存在する。第四位階の武器創造は全体から見れば中位の魔法というわけなのだ。中位の魔法と言ってもそこまでの位階に到達できる魔法使いの数は極めて限られているらしいが。


 「そうなのか。しかし簡単に魔法が使えるようになるのであれば、肉体労働メインの戦士よりも魔法使いとして登録したかったな。前世ではデスクワークばっかりだったから体を張るのは、ちょっとな」


 「馬鹿なこと言ってないで、さっさと手を出して私の手を握ってください」


 ミストが右手に持っていた杖を左手に持ち変え、自分の右手を俺の前に突き出した。向かい合って手を差し伸べているので、ちょうど握手をするような形になった。


 握ったミストの肌は自分の掌とちがい、ちゃんと女の子らしさを感じるやわらかさがあってそれを感じた途端、なんだか気恥ずかしくなり目を少し上にそらした。よくよく考えてみると女の子の手を握ったのはすごく久しぶりではなかろうか。そんな少しばかりの下心を膨らませていたが、不意にミストが物騒なことを呟く。


 「いまから、魔王様の脳みそに魔法を転送します。大した術式じゃないので大丈夫だと思いますが、パーになったら爆殺して元に戻しますので安心してください」


 「おい、待て。今パーになるって。爆殺するって言ったか?そんな危険なぁぁぁぁぁ!!」


 言い終わらないうちにミストがにっこりとほほ笑むと、握って右腕から大量の熱が流れ込んでいる。熱は頭のてっぺんを目指すように上がっており、頭にたどり着くと同時に激しい頭痛と目の前に太陽でもあらわれたような強烈な光に包まれる。


 「ふう、転送はうまく言い来ましたよ。魔王様。これで武器創造の魔法を使えるようになっていると思います。……魔王様?」


 「大きな星が点いたり消えたりしている。アハハ、アハハハハ」


 「ああ、こりゃ駄目だ。……仕方ない」


 ミストが右手に持っていた杖をくるくると回し準備運動を行うと、上段に杖を構えそのまま振り下ろした。

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