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第32話 準備-3

 「ほう、つまるところ殴り込みというわけですか」


 トゥーラの店で薬を調達した後に出向いた先は、リベイクが鎮座する墓場であった。自分の置かれている状況の説明と、戦闘になった場合に助力してもらえないかというお願いをするつもりで来たのである。


 ミストが誘拐されてこれから助けに行くのだと説明すると、先ほどと同様に楽しそうな声でリベイクは言った。リベイクが鎧兜だけの構成の存在でなければ、満面の笑顔を見せてくれたことだろう。


 「良いですな。女一人を取り戻すために、単身で敵の拠点に殴り込む。男なら誰しも夢見る血湧き肉躍る展開でしょう。ああ、肉体を失った私が言うのもおかしな言葉かもしれませんが」


 「ああ、そう言われてみれば御伽噺によくある展開かもしれないな。しかし、ヒロインがアレだと思うと、御伽噺のような展開にはならないのではないか。大人しく待っているような性格をしていない」


 囚われのお姫様と言う役どころはミストには似合わないと思う。助けが来る前に敵を殲滅し、屍の上で笑顔を浮かべながら救出を待つ姿しか思い浮かばない。


 「はっはっは、いやいや、意外と大人しく待っているかもしれませんぞ。婦女子にとっても自分を助けに来てくれるというのは憧れでありますからな」


 「そういうものかな?」


 自分の疑問に対してリベイクがゆっくりと頷づいた。


 リベイクの言葉に共感できるところもあるのだが、考え方が古いような気がする。個人的にはヒロインを助けに行くよりも、ヒロインとともに殴り込みに行く展開のほうが好きだ。リベイクとの温度差は、生まれ育った環境の違いというか、数百年単位で存在している者と若者の感性の違いなのだろうかと思う。


 「宮廷魔術師殿がどうしているかで悩むよりも、行動してしまうのが良いと思いますが」


 俺の悩みをばっさりと切り捨てるようにリベイクは言った。


 「私のような兵士の思考は単純でしてな。兵士は何も考えず、ただ敵を打ち倒せばいいものだと考えております。むしろ物事を考えすぎるのはよくない。くよくよと悩んでしまうと鬱屈とした感情が心にのしかかり、酒に逃げるだの奇矯な行動に出たりしてしまう。考えるよりもまず行動に移すことが大事なのです」


 リベイクの言葉は兵士としての自分の考えを述べただけである。自分の境遇には当てはまらない忠言ではあったが、悩むよりも行動に移すべしと言う部分には共感できる。


 後悔は全てが済んでからすればいい。


 「ところで、本当の要件なんですかな。悩み相談だけをしに来ただけではありますまい」


 俺がミストを助けに行くのだと決断したのを感じ取ったらしく、リベイクは言葉を切り出した。


 「初めてであった時に申し上げたとおり、今の私は戦闘に耐えるだけの魔力は有しておりません。サツキ様と共に戦いたい気持ちはありますが……」


 リベイクが両腕をガチャガチャと鳴らしながら動かす。金属がこすれるような音が室内にひびいた。関節部分が錆びつき始めているらしい。


 「このとおり、すでに体は崩壊を始めています。今日、明日に滅ぶようなことはないでしょうが、戦闘は不可能です。貴方の足手まといにしかなれない」


 「やはり難しいか」


 助けをお願いしても断られることは薄々とだが予想していた。出会ってから数か月しか経過していないが、出会うたびに鎧は輝きを失い、魔力は弱弱しくなっているのを感じていたからだ。


 リベイクを復活させることのできる魔力と実力を獲得しなければならないと心の中で改めて決意する。


 「ありがとうございます」


 リベイクが言った。自分の考えたことを察してくれたらしい。それから懐に仕舞っていた一振りの剣を取り出すと俺に向かって差し出した。


 「今の私にはこのぐらいしかできません。この剣の持つ能力は以前説明したとおりで大した武器ではありませんが、それでも魔力のある武器は通常の武器よりも強い。助けにはなるはずです」


 「いいのか」


 「武器は使ってこそですから。ここで錆びた鎧の支柱として使うよりも、必要としている者に使ってもらうべきなのです」


 そう言われてしまえば断るほうが野暮だというものだろう。お礼を言って差し出された剣を受け取る。昨日の修練の時に握っていたため、異様な軽さと剣から放出される魔力の波長は気にならない。


 正直なところ剣を貸してくれるとは思っていなかった。想定外の戦力増強である。しかし、本当にお願いしたいことは剣を貸してくれというものではなく、もっと別のことでありさらに頼みにくいことであった。


 「ありがとう。それと、申し訳ないけどもう一つお願いしてもいいかな」


 「可能な内容であれば、サツキ様」


 「うん、実は」


 そこで一度言葉を止める。可能な内容であればと言われたが、自分の頼もうとしているお願いは失礼なことにあたるのではないかと不安になった。


 リベイクの協力と武器創造の魔法を応用すれば、どんな場所であっても優位に戦闘することができるのではないか思う秘策が俺にはあるが、元の世界ではその戦い方は倫理に反しているとして強烈な批判されているものである。


 その秘策を実行してもリベイクに迷惑はかけないだろうとは思うがいい顔はしないだろう。


 しかし、敵陣へ殴り込みに行く以上は、少しでもできることを行うべきである。確実に助けられるように自分の戦力を向上させなければならない。


 「実は……」

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