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第16話  弱者の戦い方

 いつもの近郊とは違い市から1時間ほど歩いて到着した丘陵地が、本日の狩場である。この丘は見晴らしがよく、晴天であればドラッジオ市の外壁がわずかに見ることが出来る眺めの良い場所だ。その見晴らしの良さから、過去にドラッジオ市周辺で戦争が起きたときに主戦場になったこともあるらしい。


 小高い山や丘というのは野戦では陣地を置くことが多い。元の世界でも有名な戦いでは高地の奪い合いが発生しているというのはよく聞いたことがある。


 そんな場所に来た理由は、戦場跡地であるため魔力が淀んでおり、魔物が集まりやすい場所だと、聞いたためである。少しでも討伐量を増やすために決断したことだった。


 「いきなりこんなに歩くとは思いませんでした……」


 街を出たときのやる気はどこにいったのかと聞きたくなるほど情けない声をあげるフィリカ。研究ばかりでろくに運動もしてこなかったということもあって、体力は人並み以下のようだ。


 「魔法の勉強だけでなく体力づくりをしたほうがよさそうだな。とりあえずランニングと筋トレを初めて足腰を強くしないと」


 「ええ……、運動は苦手で……」


 「魔法の勉強をするのであれば、体力作りは必要ですよ。私の師匠も最初は体力作りからということで指導されました。杖を握って魔道書を読み込み始めたのは師事してから1年以上経過してからです。健全な肉体にこそ健全な魔力が宿り、魔力の量は体力の量に比例するのです」


 フィリカの言葉を遮ってミストが自分の経験を語る。


 しかし、組合で見た魔法使いのほとんどは魔法使いは、イメージどおりにもやし体系が多かったような気がするが。まぁ、魔法も教える人によって考え方はいろいろあるのだろう。


「ああ、だからミストは魔法使いの割には筋力があるのか。しかし、ミストほど鍛えなくてもいいと思う。ミストみたいに凶暴になったら困るから」


 「喧嘩なら買いますよ。最近、魔法以外のことでサツキさんの役に立とうと関節技を勉強していまして、練習したいと思っておりまして」


 ミストがそう言いながら、軽やかなフットワークで接近した。


 「ちょ、冗談だから。ごめんって。やめなさい!首を絞めるな。それ関節技じゃない、ただの殺人だって!」


 首に伸びた手を抑え込みながら叫ぶ。討伐の前から殺さてたまるか。


 「ふふふ、サツキさんとミストさんは仲良しですね。私の緊張を解こうと冗談を言ってくれるなんて。ありがとうございます」


 俺とミストの喧嘩を見ていたフィリカが笑いながらのんきなことを言う。


 ただの仲間割れをスキンシップの一環だと思ったようだ。フィリカの言葉にミストも自分のやっていることが馬鹿らしくなったのかやめてくれた。


 「そうですね。それではフィリカさんの緊張もなくなったようですし、さっそく討伐を開始しましょう。幸いにもこの場所にはカルチョナが多く生息しているようですし、カルチョナは報酬がそれなりによいですから、狩れるだけ狩りましょう」


 「カルチョナ……ね。名前が随分とかわいらしいから簡単に倒せそうな気がするけど、あれじゃないよな。あの不気味な生き物じゃないよな」


 指で示す先には山羊と犬を足して割ったような四足獣が群れで生活していた。後ろから見ると俺の知っている電気羊に近いが、正面から見てみると犬の頭にひげが生えていて、長い耳がぴょこんと頭頂部から生えている。


 「すっげぇ、キモイデザインだな」


 何を思ってあの生き物が生まれてきたのだろうか。魔物だからと言って何でもありにしてしまうのはなんだか違う気もすんだが。しかし、電気羊のように毛があるわけでもなく採れる素材も無いように見える。


 「カルチョナは犬型の魔物の一種です。夜行性で、足が速く、夕闇に紛れて旅人の前に現れて、食料等の荷物をひったくる習性があります。また、理解はしていないようですが、人語を語ることが出来て、不気味な呟きで人や隊商の馬をおびえさせます。そう言った悪事を働くことから、行政が討伐報酬を高めに設定しているという事情があります」


 「わたしもこの街に来る途中にカルチョナにやられました……」


 フィリカが暗い顔で言った。出会った時空腹だった原因のようだ。身近なところに被害者がいると討伐の必要性が理解できる。


 「ちなみに、人語を呟くと言っていたけどどんな言葉を呟く?フィリカは聞いた?」


 人語をしゃべる動物は気になったので何気なしに二人に聞いた。するとフィリカの顔が赤く染まる。


 「セクハラですよ。年頃の娘に卑猥な言葉を言わせようなんて最低ですね」


 汚物を見るような目でミストがこちらを睨む。何気なく聞いただけなのに評価が下がってしまった。卑猥な言葉ってなんだよ、気になるよ。


 「ゴホン、素材集めではなく討伐報酬狙いか。確かに爆弾でふき飛ばしてしまえば解体できない。しかし、危険はないのか?初めての魔物に対処できる自信はないが」


 電気羊と戯れていたおかげで、足腰は強くなったが、あれよりも素早い魔物には対処できないだろう。


 「夜行性のため、昼間の動きは鈍いと聞いています」


 そうであれば、どうにかなるかと思う。実際に目先にいる群れは眠そうにぼんやりしている個体が多い。


 「また、カルチョナの習性として仲間の危機には集団で立ち向かうというものがあります。また、雑食性で場合によっては人間を食べる場合もありますので、敗北=餌になりますのでご注意を」


 「集団に囲まれるのか。食べられるのは嫌だなぁ。なんとか逃げながら戦って立ち回るか。フィリカはどうする?爆弾で後方支援か?」


 今までの戦いは基本的に一対一にしてから戦うようにしていた。


 集団で襲われる場合の立ち回りは慣れていないため、後ろから魔法なり道具なりで援護してもらえればありがたいのだが。


 しかし、ミストが首を横に振る。


 「いえ、最初から爆弾を使用すると赤字になってしまいますので、サツキさんがある程度討伐してから実用性を確認する意味で使用したいと考えています。カルチョナの討伐報酬が銅貨20枚ですので、11匹以上、銀貨3枚は得られる程度に討伐をしてください。爆弾で処理するのはそれからです。それに、サツキさんが楽をしてしまっては、本来の目的が達成できません」


 「了解」


 結局、本日の作戦もいつもと同じであった。


 「フィリカさんはわたしと一緒に待機してもらいます」


 「はい。でもサツキさん一人を戦わしてよいのですか?」


 「気にしなくていいよ。フィリカとミストには必要な時に働いてもらうから」


 単純な肉体労働で済むことは俺の仕事だと、フィリカに言う。


 一人で突っ込むのもなれたものだと思いながらカルチョナの群れに突貫する。冒険者を始めたころと違い全鉄製の槍を作り出すことが出来るようになってから、全力疾走からの攻撃を繰り出すことが俺の必勝パターンになっている。このやり方なら一撃で仕留められなかったとしても、全力疾走のままに武器を捨て置き距離を取れるのだ。


 とはいっても初めての魔物である。なるべくリスクの少なくして戦えるようにしたい。


 リスクを下げるには単独で活動しているカルチョナを狙い、各個撃破していくことが望ましいが先ほどミストが言っていたように群れで活動するため、一体を集中的に狙うことは難しいだろう。


 「とりあえず羊と同じように相手をしてみるか。『武器創造』」


 右腕に魔力を集中させることを脳でイメージし、詠唱を行う。召喚する武器はいつもと同じ竹やりである。フィリカがみているのだからもう少し格好良い武器を創りたかったが、慣れない武器で戦う自信はない。


 「概念創造の魔法!?サツキさん、第4位魔法が使えるのですか!?」


 フィリカが驚きの声を上げた。出したものが竹やりでもイメージを物体化させる魔法は高位の存在である。


 この世界の魔法には、1から7までの位階が存在し、数字が小さくなればなるほど高位魔法となる。標準的な才能をもつ人間が習得できるのは第6位階までの魔法であり、第4位階の魔法を習得できる人間は、国家に仕える宮廷魔導師等の一握りのエリート層だけである。


 フィリカが驚くのは当然のことだと言えるが、ミストはさらにその上の、第2位魔法まで使用できるということなので驚かれても微妙な気持ちである。


 「はっ!!」


 フィリカの言葉に答えるのも気恥ずかしかったので、掛け声でごまかし、ターゲットへ全力で駆け出した。


 「サツキさん、がんばってくださーい」


 フィリカの声援を背中に受ける。


 声援に対して右腕を上げて答えた。それから両腕で竹やりを抱えて、竹やりの柄の部分を肩に押し付けて走る。貫通力がないので突き刺す際は体重をかけて押し込まないと致命傷にならない。


 目の前のカルチョナは微睡の中にいるため、叫び声をあげて警戒されないように無言で突進する。聞こえる音は草原を撫でる風の音と自分の足音だけ。


 「やれる」突進をしながら心の中で呟く。ほとんど動かないカルチョナを見て一撃は必ず決まることを確信した。目標に近づき槍を突き出す。


 魔法で創りだした槍はカルチョナの胸に深々と突き刺さっており、手に柔らかくて重い感触が伝わる。それから生臭い臭いが周囲に広がった。狙いどおり致命傷を与えることが出来たのである。


 遠くのほうで歓声が聞こえた。一撃に成功したことで自分の格好いい姿を見せられたと安堵する。


 しかし、問題はこの後である。周囲のカルチョナが仲間を殺されたことにより、一斉に反応した。怒り心頭のようで全力でを追撃してくる。犬だけあってそのスピードは人間よりも早い。


 羊と違い俊敏のため、このまま逃げても追いつかれて背中から潰されてしまうだろう。しかし、そうされないための秘策は当然あるのだ。


 『武器創造』


 攻撃を仕掛ける前と同じように武器創造を再度使用するが、召喚するものは先ほどと同じく竹槍。それを全力疾走する俺の後方の地面に生やす。自分の駆けた後は竹やりによる障害物だらけとなった。


 そしてもくろみどおりに、カルチョナは大量の竹やりに足を取られ悲痛な叫び声とともに転んだ。


 こうなってしまえば突撃力を合わせた槍による刺突など必要なくなる。


 「我ながら完璧な戦い方だな。なんだか卑劣なような気もするけど!」


 立ち止まって新しい武器を想像する。先ほどまでの竹やりではなくパイプで出来た金属槍だ。それを動けなくなったカルチョナに突き刺した。

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