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第13話 募集の結果

 冒険者組合に着いたときに待ち合わせ時刻を少し遅れていた。待ち合わせの組合ロビーにはミストが先についており、不機嫌そうな表情を隠そうとせず座っている。


 遅れたことを詫びつつミストの前に立つと小言を言いながら力のない蹴りを何度も俺の脛に入れてくる。本気で怒っていれば魔力で強化した足で、関節を逆方向に曲げようとすはずなので、多少不機嫌ぐらいだろうか。


 お土産として持ってきた酒を見せると機嫌を直し食堂に行きましょうと立ち上がった。


 いい性格しているよなと心の中で呟く。もちろん言葉には出さないが。ちなみに、もう一つのお土産であるトゥーラの店で購入した花には見向きもしなかった。


 食事の前に募集はどうだったのかと尋ねると、俺が来るまでの間に志願者がいないか確認したが、ミストは首を横に振って0人でしたと返事をする。


 「案の定ですけど、やっぱり誰も来ないですね。特殊な技能を持っている職の人間なんて引く手あまたですから、特に実績もない弱小パーティーに、特殊な技能を持つ後衛職が訪ねてくるはずがないです」


 「じゃあ、ほかの冒険者たちは人材をどうやって集めている?」


 「そうですね、引き抜きがもっとも一般的ですね。別のパーティーに所属している冒険者を金銭で引き抜いたり、引き抜かれたり。この業界ではよくあることですが」


 「それってトラブルが起きそうだけど」


 外資系企業のヘッドハンティングみたいなものだろう。しかし自己都合で出たり入ったりを繰り返せば人間トラブルが起きそうな気がするものだが。


 「そのトラブルをうまく処理できて初めて一人前の世界ですから。できなければ一人前にならず、消えていくだけです」


 ミストが怖いことをさらりと言った。


 「有望そうな駆け出しの冒険者を仲間にして、必要な技能を教育して自前で特殊職の冒険者にさせるといった方法もありますよ。まぁ、そんなことが出来るのは、資金力やコネクションのある大手のパーティーだけですが」


 「そうなのか?あー、あそこにいる身振りのいい連中みたいなのか」


 俺たちの視線の先にいるベテランの冒険者の中に、場違い感のある若手のクレリックがいるのを見て、ミストが言っていることが理解できた。


 有効な方法だとは思う。しかし、俺自身が駆け出しなのに他人まで育てている余裕などない。もう少し俺が成長して余力が出たら考えるべきだろう。


 「……後衛職が来ないのなら、いっそのこと前衛を一人増やすっていうのはどうだ?俺が後衛職に転職すれば解決しそうだし、あんまりやりたくはないけどミストから補助魔法とか回復魔法とかを教えてもらえば、キャスターとかドルイドといった魔法職にすぐになれると思う」


 武器召喚の魔法を教えてもらったことを思いだしながらミストに提案する。そういえば、教えてもらったことは覚えているが、どうやって教えてもらったのか思い出すころが出来ない。なぜだろうか。


 「うーん。却下で。私としてはまず魔王様には肉体的に強くなってほしいのです。それに命のストックは無駄に減らしたくはないので」


 ミストが俺の意見を却下した。


 俺のほうが名目上の立場は上だが、実力やこの世界の知識はミストが圧倒的に上である。反対されてしまえば、それ以上言うことが出来ない情けない力関係のため、パーティーの編成権限もミストにあるのが現状である。


 「まぁ、来ないなら来ないであきらめましょうよ。今の状態でも討伐は問題なくできるわけですし、急ぐ必要もありません。しばらくはのんびりやりましょう」


 そう言ってミストは立ち上がった。目線の先にはやっぱり食堂を向いており、これ以上は待てないといった表情だった。


 まあ、それは俺も同じである。リベイクからもらった酒もあることだし、酒の続きを楽しみたい。ついでに、トゥーラとリベイクのことも報告したい。


 頷いて立ち上がろうとした時だった。袖を引っ張られるような感覚に気が付く。


 「あの、すみません。冒険者の募集をしている方ですよね。ひょっとして募集終わっちゃいましたか?」


 気弱そうな小さな声。自分よりも二回り以上小さな体躯の少女であった。


 魔法使いが身に着けるような、ゆったりとした黒いローブを着込んでいるため、体が余計に小さく見える。体躯と幼さの残る顔立ちから成人ではないことがわかった。


 ローブの隙間から見える頭髪は茶色でウェーブのかかったロングヘアーが少女のふらふらとした動きに合わせてちらちらと見えた。


 冒険者組合の事務所に入ることが出来るのは成人、この世界だと14歳からだが、その年齢から冒険者登録や依頼が可能になるため、少女がこの場にいることはきちんとした成人であることを証明している。


 成人したての冒険者がいないということは制度上存在しないことはないが、ちゃんとした親元にいる子供であれば、14歳からいきなり冒険者になるということはない。


 14歳でそんな職業に就かなければならないとすれば、保護者のいない孤児院出身者や親元からの家出人ぐらいである。


 しかし、少女の外観はそれに該当するようには見えない。地味目のローブであるが、絹のような高級繊維であるし、わずかに感じる魔力から魔力付与された防具であったからだ。魔力が付与された装備など、そのあたりの冒険者でもなかなか所有できない高級品である。


 少女の言動からすると応募しに来てくれたらしいが、どうみても訳あり風であった。唐突過ぎるし、どうしたものかと考える。


 そう思いながら、目の前の少女を見ると、視線に気が付いたのか、あわてた表情を浮かべた。


 「えと、私の名前はフィリカ・マルティリアと申します。今日冒険者になったばかりの新人です」


 新人の冒険者と聞くと少しばかり抵抗感が強くなる。先ほどの話でもあったように新人を育てる余裕などはないのである。それに少女の見た目は魔法使いのそれである。募集の相談をミストにした時、魔法使いの加入を否定していたため、少女が魔法使いであればきっとミストが否定するだろう。


 どうしたらいいものかと悩む。その感情はきっと表情に出ていたのだろう。少女が言葉を続ける。


 「冒険者になったばかりというか、この街に到着したのも今日でして、知り合いが全然いなくて、お金もなくて、それで、仲間を募集している人たちを頼りなさいって受付のお姉さんが教えてくれたから、それで……」


 フィリカと名乗った少女は泣きそうな表情を浮かべる。だめだ、こんな小さな子を泣かしたら変な目で見られる。とにかく話だけでも聞いておかないと。


 「ああ、大丈夫、大丈夫。募集はまだしているし、君以外に志願者もいないからたぶん君を採用することになるから。」


 「ほっ、ほんとですか!」


 安堵の表情を浮かべるフィリカ。頼りなさそうではあるがせっかく来た志願者である。志願者は一人でも採用したいが決定権はミストにあるため、どう思っているのだろうと、ちらりと横目で見てみる。殺意のこもった目で見てないだろうなと不安になる。


 そのミストは目を見開くというかというか、めったに見せることがない驚いた表情を浮かべていた。


 「さっそく採用の面接を始めていいよな?ミスト。……ミストさん?」


 ミストの顔に、俺が怯えながら質問する。だって怖いもの。


 俺の質問で我に返ったのか、瞬きをして俺と少女を交互に見た。それから溜息とともに質問に回答する。


 「いえ、来ないとおもっていた人材が来たので少々驚いただけです。面接は構いませんが、食事の後にしませんか」

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