第20話 盗賊撲滅作戦・遂行中 ~B班~
前回のお話……ミシェル大暴れ
(ミ ゜Д゜)輪切りじゃー!
(盗 ゜Д゜)ギャー!?
(((エ;゜Д゜)))怖ッ
「ぉぉう……ッ」
唐突に悪寒が走った。
ブルブルッ。
「マスミくん、どうかしたの?」
「いや、なんか知らんけど急に悪寒が……」
風邪でも引いたか?
別に熱っぽくはないし、喉にも関節にも痛みは感じないけど、はて?
内心で首を捻っていると、何か柔らかくてひんやりとしたものが、いきなり額に押し当てられてビックリした。
「ぬぉぅ……ってローリエか」
体温でも測るつもりなのか、ローリエが自身の掌を俺の額に添えていた。
両の眉尻はこれでもかとばかりに下げられ、実に心配そうに俺のことを見詰めてくる。
そんなにマジマジと見ないで。
「本当に大丈夫ですか? マスミさんは何かと無茶をするから心配です」
「そんなにしょっちゅう無茶をしてるつもりはないんだけど。いやまぁ、多分大丈夫でしょ。ちょっとブルッとしただけだし」
「お願いですから、一人で危険なことはしないで下さいね。マスミさんはわたし達パーティの要なんですから」
「おやおや、初耳ですよ」
ここに来てまさかの新事実発覚。
いつの間にやら俺はパーティの要になっていたらしい。
別に俺が居なくなったところでパーティは問題なく機能すると思うんだけど、それを口に出すのは野暮というものだろう。
こんなアラサー男をそこまで信頼してくれるとは……照れるぜ。
「約束して下さい。もう一人で無茶はしないって。もっとわたし達を頼るって約束して下さい」
真剣な顔で詰め寄ってくるローリエ。近い近い近い。
別に年若い娘さんに接近されて恥ずかしがるような初心な性分でもないが、こうも相手が真剣だと対応に苦慮してしまう。
茶化すことも出来んではないか。
「あー、分かった分かった、約束する。してるつもりはないけど、今後は一人で無茶したりしないから」
だから少し離れて下さいお願いします。
ここ最近、俺のパーソナルスペースを侵略し過ぎですよ、お嬢さん。
そんな俺の心情などお構いなしにローリエは更に詰め寄ってくる。だから近ぇって!
「本当ですね? 約束ですよ? 絶対ですからね? 嘘ついたら槍千本刺して魔物の餌ですからね?」
「何それ超怖い」
針じゃねぇのかよ。
しかも槍千本も使って滅多刺しにするだけでは飽き足らず、その後魔物の餌にするのかよ。
幾らなんでも残酷過ぎるわ。
冗談にしたって笑えないぞ。
「いえ、冗談ではなく、過去に罪人に対して実際に行われた処刑方法の一つです」
「肉片一つ残らんな」
「ちなみにその罪人には百本程しか刺さらなかったそうです」
逆にどうやって百本も刺したのか。
誰だよ、そんな悍ましい処刑方法考えた奴。
そもそもなんで俺が処刑されるの?
「それくらいの覚悟は持って下さいという意味です。槍千本は言い過ぎにしても、ミシェルの鉄拳くらいは飛んでくると思いますよ」
「それはそれで……きっと死ぬんだろうなぁ」
最近ますますパワーアップしたミシェルの剛腕から繰り出される全力全開の鉄拳。
スイカ割りよろしく、頭を粉々に粉砕される光景が容易に想像出来てしまう。
槍千本も刺されてから魔物に食われるよりはまだマシなのかなぁと若干受け入れつつある時点で、俺はもう色々と手遅れなのかもしれない。
「あのぉ、フカミさん。こんな時にイチャつくのってどうかと思うんすけど」
「イチャついてねぇよ」
遠慮がちに口を挟んできたセントの発言を即座に否定する。
何故そう見えた。
イチャつくなと言われたローリエは、まるで火が付いたように顔面を真っ赤に染めると、俺から微妙に距離を置いてしまった。なんか納得いかない。
そしてニヤニヤと面白そうにこっちを眺めているトルムは、あとで絶対に殴る。
『なんじゃ、もう終わりかの?』
「喧しいわ」
余計な口を叩くんじゃない。
なんとも緊張感に欠けた現状に溜め息が漏れた。
俺達は今、背の高い茂みの付近に身を潜めている。
移動中、盗賊が接近しつつあることをニナが察知したので、こうして隠れてやり過ごそうとしている訳だ。
仮に出くわしたところでニナやローリエがいれば対処は可能だろうけど、無用な戦闘は極力控えるべきだろう。
俺達B班の役目は囚われた獣人達の救出。
勿論、最終的な目標は盗賊団の壊滅だが、それも救出を終えてA班と合流を果たしてからの話だ。
「ニナ、そろそろ動いても大丈夫そうか?」
「……うん、もう匂いはしない」
小さな鼻をひくつかせながら答えるニナに従い、俺達は移動を再開した。
匂いで他者の存在を察知することが可能とは、流石は獣人と言ったところか。
頭部の猫耳もさっきからピクピクと動いている辺り、何かしらの音も拾っているのだろう。
五感―――特に視覚、聴覚、嗅覚の鋭敏さが人間の比ではない。
「本当に獣染みてるなぁ。大したもんだ」
「確かに獣人は人間よりも優れた感覚を持っていますけど、良いことばかりでもないんですよ。人間であれば気付かないような音や匂いが気になっちゃうこともありますし……」
「あー、納得」
感覚器官が鋭敏であるということは、それによってもたらされる被害も大きくなるということだ。
例えば人間にとっては、これちょっと臭いなぁと不快に思う程度の代物であったとしても、嗅覚に優れた獣人にはとてつもない悪臭に感じられる場合も充分有り得るのだ。
嗅覚や聴覚等が優れてるだけならまだしも、万が一にもこれが触覚……痛覚が常人の何倍、あるいは何十倍も鋭敏であった場合、受ける痛みもそれだけ倍増することになる。
何事もメリットとデメリットが等しく存在するものだな。怖い怖い。
「まぁ、それでもやっぱりメリットの方が大きいんだろうけど」
本来ならこんな見通しの悪い森の中では、現在地を把握するだけでも一苦労の筈なのだ。
それが常に先んじて敵の接近を察知し、尚且つ迷子になる心配もないのだから、多少のデメリットには目を瞑るべきだろう。
「ニナ様様だな」
「むぅ」
隣を走るニナの頭に手を置き、ワシャワシャと撫でてやる。
恥ずかしいのか、それとも俺の撫で方が気に食わないのか。
ニナは少しだけ頬を赤く染めながら不満気な顔を浮かべた。
手を払わない辺り、撫でられるのが嫌な訳ではなさそうだ。
よし、このまま猫耳の感触を……。
「マスミさん、軽々しく女の子の髪に触れるのはどうかと思いますよ?」
「こりゃ失礼」
確かめようと思ったが、ローリエからジト目で苦言を呈されてしまったので、撫でるのを中断してニナの頭から手をどかした。残念。
ニナは撫でられた箇所を両手でペタペタと触っている。何もないよ?
そしてその間も忙しなく動き続けている猫耳と尻尾。
触りたい。凄く触りたい。全部終わったら触らせてもらうようにお願いしよう。
密かにそのような決意を固めていると、先程よりも木々の数が減ってきていることに気付いた。
そのまま進み続ければ、生い茂った木立の向こうに開けた空間が見えてきた。
一旦前進するのを止め、近くの茂みや木立の影に隠れるようみんなに指示を出す。
「もしかしてあそこが……」
「そう、ニナ達の集落」
「ようやくか」
木立の影に身を隠したまま、双眼鏡で前方の様子を確認する。
丸太を組んで建てられた複数の家屋や倉庫らしき建物。
それらを囲むように張り巡らされた木製の柵。
随分と頑丈そうな作りの柵だ。
高さに至っては俺の背丈を越えているかもしれない。
「魔物や凶暴な獣が何処から出てくるか分からないから」
「それもそうか」
こんな森の奥深くで生活しているのだ。
外敵対策はやり過ぎなくらいで丁度いいのかもしれない。
そして柵の周辺や入口の所に立っている武装した男達―――盗賊共。
「ひぃ、ふぅ、みぃ……確認出来るだけでも見張りは十一人か」
無論、これで全員の筈がない。
集落の中には、この見張り以上の数の盗賊共がいることだろう。
「ミシェル達は、上手くやってくれてるでしょうか」
「さてねぇ。結構な数を釣ってくれてるとは思いたいけど」
こうして遠目から確認している限りでは、なんとも言えんな。
見張りこそ立ててはいるものの、百人規模の盗賊団が利用するアジトにしては、いささか静か過ぎるようにも思える。
「見張りであの数だから、最低でもその倍は……いや、三倍は残ってると考えるべきだろうなぁ」
最初から全員を引き摺り出せるとは考えていなかったので、こればかりは致し方ない。
さてここからどうしよう。
最優先は囚われている獣人達の救出だが……。
「オーソドックスに行くなら、何人かが囮になって盗賊を引き付けてる間に、ニナともう一人くらいが人質解放に向かうってとこだけど」
「それで何か問題あるの?」
「問題はないけど」
心配はある。というか心配が尽きない。
果たして何人の盗賊が引っ掛かってくれるのか。
その間に獣人達を全員救出可能なのか等々。
何しろこちらの方が圧倒的に数で劣っているのだ。
出来ればA班と合流してから行動に移りたいのが本音だが、いつ来るかも分からない増援を期待して待つ程の時間的余裕もない。
「俺らだけで敵を全部倒すのは駄目なんすか?」
好戦的な意見を口にするセントに却下を告げる。
「確実に出来るってんならそれも有りだけど、この戦力差じゃ流石に厳しい。何より―――」
「万が一にも獣人達を盾にされたら、もうわたし達何も手出し出来ませんからね」
「そゆこと」
だから理想としては囚われた獣人達を救出後、一旦この場を離脱し、彼らを安全な場所まで避難させる。
その後、A班と合流してから改めて攻撃を仕掛けたいところだが、そんなに都合良くはいかないだろうな。
「でもさぁマスミくん、他になんか手があるの?」
「それを言われるとなぁ」
ここでウダウダ悩んでいたところで何も事態は好転しない。
そんなことは百も承知だが……。
「俺的にどうしても捨て置くことの出来ない懸念があってねぇ」
「懸念ですか?」
「うん、ニナさんや、ちょっと教えて下さいな」
「なに?」
「ニナ以外に盗賊の活動に協力させられてる人っている?」
「いる」
「あー、やっぱいたかぁ。何人か分かる?」
「えっと……ニナも入れて六人だったと思う」
嫌な予感や悪い想像ほどよく当たり、現実となり易い。
全く嬉しくないその事実に俺は頭を抱え、そんな俺の姿を見て首を傾げる仲間達。
「マスミくん、どしたの?」
「フカミさん?」
「いやその、どうしたっていうか―――」
俺が憂慮している事態について、みんなにも話そうとした時―――。
「マスミさん、上ッ!」
―――ローリエの悲鳴染みた警告が上がった。
お読みいただきありがとうございます。




