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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第4章 アラサー警備員、ケモナーに目覚める?
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第14話 回る頭と回らぬ頭

前回のお話……真澄くん 対 猫娘

(真 ゜Д゜)フンッ(裸締め)

(ニ ゜Д゜)キュゥゥゥ……

「なぁマスミよぉ、こりゃいったいどうなってんだ?」


 ローグさんが欠伸を噛み殺しながら、漠然とした疑問を投げ掛けてきた。

 まだ少し眠そうだな。


「どうと言われましても、見ての通りな訳ですが」


 とローグさんに答えつつ、俺は目の前に転がっている恰幅の良い中年男と小柄な少女を見下ろした。

 どちらも身動き出来ないようにロープで身体を縛っており、男の方には猿轡も噛ませている。


「実は盗賊の一味だった自称行商人のギジーロ氏と自称その娘たるニナちゃん親子です」


 苦労の末、捕縛に成功した二人の盗賊―――ギジーロとニナの姿がそこにあった。

 深夜の攻防を終えた後、ギジーロとニナを拘束した俺達は、相手の馬車ごと自分達が泊まる宿に戻って来た。

 本当ならすぐにでもみんなに知らせたいところだったが、流石にこんな夜更けに起こすのは忍びないし、拘束しているとはいえ盗賊―――犯罪者を宿の中へ入れる訳にもいかない。

 仕方なく宿の裏手に建てられている厩舎の方に回ったのだ。

 此処は宿の利用客が自分の馬や馬車を置いておくための設備だが、今は俺達がレンタルした馬と馬車しかないので、人目を避けるには丁度良かった。

 交代で仮眠を取りながら、夜が明けるまで二人の監視を続け、早朝にみんなを起こして此処まで連れてきたのだ。

 この監視の最中、ギジーロには猿轡を噛ませた。

 ニナの方は終始大人しかったのだが、こいつは放っておくとギャアギャア喚いて喧しいことこの上なかったので、一発ブン殴って黙らせた後に処置した。


「ぅぅ、うぅぅぅ……折角宿に泊まってるのに、なんでベッドじゃなくて、馬車の荷台(こんなところ)で寝なきゃいけないんだろ……」


 荷台で横になりながら、さめざめと涙を流すトルムの姿を目にした時は本気で申し訳ないと思ったものの、こればかりは我慢してもらう他なかった。


「ふぁぁ……っ」


 欠伸が漏れる。

 幾らか眠れたといっても所詮は仮眠。

 疲労は全然抜けていない。

 早起きを強要されたみんなも眠そうにしているけど、俺達の方がもっと眠いのだ。


「サクサクいこうかね」


 本当に眠いので……。

 昨夜の経緯は既に説明してある。

 俺達はセントの記憶を頼りに幾つかの酒場を回って情報収集に努めた。

 最近の村の周辺に変わった様子はなかったか。

 妙な奴が村を出入りしていないか。

 今現在、盗賊に関する情報はどの程度集まっているのか等々。

 それ程有意義な情報は得られなかったものの、一つ気になる話を耳にした。

 その話とは、ギジーロとニナの二人に関するものだ。

 なんでもあの親子が―――この時点ではまだ親子だと思っていた―――この村を初めて訪れたのは、ほんの十日余り前のことで、行商人だという割りに商いらしい商いをしている姿を誰も見たことがないということだった。

 一日二日経つとふらりと何処かへ行き、同じくらいの日数が経つと村に戻ってくる。

 そしてまた一日二日で何処かへ行ってしまうらしい。


「メチャメチャ怪しいな」


「あからさまだね」


「っす」


 二人が利用している宿を知っている者が居たので、そいつから場所を聞き出した後、すぐにその宿へ向かった。

 あまり利用客がいない所為か、暇そうにしていた宿の主人に二人のことを訊ねてみた。

 最初は個人情報が云々と渋っていた主人だが、その手に一枚の銀貨をそっと握らせたところ、快く話を聞かせてくれた。プライバシーってなんだろう。

 主人曰く、二人は確かにこの宿をよく利用してはいるものの、一日二日くらいの頻度で泊まっては出て行き、また泊まっては出て行きと繰り返すだけで、食事すら取ったことがないらしい。

 酒場で聞いた話の裏が取れた。

 主人もこの奇妙な親子には何かあると薄々感付いていたようだが、ちゃんと金は払ってくれるので、まあ別にいいかと部屋を提供していたのだそうだ。


「なら二人は今も部屋に居るんですね?」


「いや、金は確かに払ってったけどな。今日に限っちゃ泊まりもしねぇで、暫く部屋で休んだ後にまたどっか行っちまったよ」

 

 あいつら何がしてぇんだと首を傾げる主人への礼もそこそこに、俺達は慌てて二人を探しに行った。

 そして村の出入口―――門と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい代物―――付近に張り込み、二人が来るのを待っていた次第である。


「その結果、一戦やらかす羽目になったって訳か」


「そうなりますねぇ」


「また無茶したなぁ」


 程々にしとけって言ったろうがと大口を開けて欠伸をするローグさん。

 出来ることなら俺だって、あんな行き当たりばったりな真似なんかしたくなかったけど、何しろ昨夜は時間がなかった。

 もしもあのまま逃げられてしまった場合、間違いなく碌でもない事態に発展していただろうから、多少無茶をしてでも止めざるを得なかったのだ。

 まぁいざやってみたら、多少どころではない無茶をする羽目になったのだが、そこは結果オーライとしておこう。


「トルムだけ、ズルい」


「えー」


 トルムはヴィオネから一方的に文句を言われていた。

 夜のお誘いがなかったことに不満を抱いているようだが、折角の女子会を邪魔するのは流石に気が引ける。

 俺とてそこまで無粋ではないのだ。

 セントは緊張の糸が切れて睡魔に抗えなくなったのか、壁際に座り込んで眠っており、その傍らにはディーンさんが立っている。

 最初会った時は気弱そうに見えたセントもこうして堂々と寝入っている辺り、実は相当神経が図太いのかしれない。

 羨ましい。俺も早く眠りたい。

 そして何故かは知らんが、さっきからミシェルとローリエが頻りに俺の身体を触ってくる。

 なんだか怒ったような表情で、そりゃもうあちこちベタベタペタペタと。

 そんな二人の様子をニコニコと満面の笑みで眺めているエイル。見てないで止めてほしい。


「お二人さんよ、さっきから何をしとるんだね?」


「「……」」


「お願いですから何か答えて下さい」


「マスミくんがぁ、また一人で無茶をしたからぁ、二人とも心配してるの~。異常がないかぁ、確認中~」


 そんな頻繁に無茶をしているつもりはないのだが。

 あと一人ではなかったぞ。


「疲れちゃいるけど、見ての通り怪我らしい怪我なんて負っとらんぞ?」


「それでもぉ、心配なものは心配なの~。罰としてぇ、甘んじて受けなさ~い」


 罰ときたか。

 まぁ、美少女二人に心配されて悪い気はしないので、お嬢さん方が満足というか納得するまで好きにさせておこう。

 でも変なところ触らないでね?

 おかしな気分になっちゃうから。


『やらしい男じゃのう』


 喧しい。心を読むな。

 一言多いニースを黙らせるべく、いつもより強めに胸ポケットを指で押す。

 グリグリ押し込むと『ぐぇ~』という実に可愛らしくない呻き声が微かに漏れ聞こえた。


「詳しいことはまだ聞き出せてませんけど、まぁ十中八九、街道で襲われていたのも自作自演でしょうね」


「だろうなぁ」


 昨日のように襲われている姿を見せれば、自分達が盗賊の一味だと疑われる心配はまずなくなる。

 助けられて感謝する振りをしながら、仲間の盗賊に情報を流しておく。

 あとは冒険者なり国の兵士なり、何も知らずにノコノコとやって来た連中を待ち構えて返り討ちにすると。

 よくもまぁ考え付いたものだと感心が半分。

 よく実行に移せたものだと呆れが半分である。


「目の付け所は悪くなかったと思うけど……」


 如何せん計画としては杜撰さが目立つ。

 せめて実際に商売をして行商人らしさをアピールするとか、この村よりもっと先の街道周辺で襲われている振りをするとかあったろうに。

 盗賊の引き際も鮮やかというか、潔過ぎた。

 工夫が足りない。もっと頭を使いたまえ。

 おそらくセント達が来た時も似たようなことがあったのだろう。

 旅人にでも扮していたのかは知らんけど、盗賊の一味が村に入り込んで仲間の元に情報を渡していた。

 結果としてセント達は待ち伏せを食らい、パーティ壊滅の憂き目に遭ったという訳である。


「当たらずとも遠からずって気はするんだけど」


「お前寝不足なのによくそこまで頭が回るな」


 ようやく眠気がなくなったのか、幾分スッキリした顔のローグさんが壁際―――セントが寝てるのとは反対側―――を振り向いた。

 そこには腕を組んで気難しそうな表情を浮かべたジュナが壁に背中を預けて立っており、左右にはミランダとドナートの姿もあった。


「おいジュナ、お前いつまでむくれてるつもりだよ」


「むくれてなどいない」


「ふざけてるように見えても、マスミはこれで結構やる男なんだよ。言ったじゃねぇか、頭が切れるってよ」


「……そのようだな」


 何処となく不貞腐れたように目を逸らすジュナ。

 そんなジュナの様子をミランダは微苦笑しながら、ドナートは困ったように眉を八の字にしながら見ている。

 出発前のことをまだ気にしているのかね?

 俺は気にするどころか、今の今まで忘れていたぞ。


「ローグさん、俺ふざけてませんけど」


「そうだな。そういうことにしとくか」


 おい待てコラ。そういうことってなんだ。

 なんで先輩パーティみんなして、分かるわぁみたいな顔してんだよ。

 チクショウ、納得いかん。そして眠い。


「……俺、宿で寝ててもいいですか?」


「おう、聞くこと聞けたら起こすから、今の内に軽く寝てこい。トルムも行っていいぞ。(わり)ぃけどディーンは坊主を運んでやってくれや」


 憮然とした態度で告げる俺に気分を害した様子もなく、ローグさんはヒラヒラと手を振ってきた。

 ディーンさんは一度頷くと眠ったまま動かないセントを軽々と肩に担ぎ、ついでに覚束ない足取りで歩いていたトルムを小脇に抱え、さっさと宿に向かってしまった。

 何気なくやっているけど普通に凄いな。


「あふっ……」


 また欠伸が漏れた。

 目蓋は重いし、いい加減頭も回らなくなってきた。

 気になることはまだあるけど、今は睡眠欲の解消を優先させてもらおうと決めた俺は、ベッドが待っている宿へと向かった。

 だからミシェルとローリエよ、いい加減離してはくれないだろうか。

 ……部屋の中にまでついてくる気じゃないよね?

お読みいただきありがとうございます。

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