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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第4章 アラサー警備員、ケモナーに目覚める?
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第6話 失敗・嘆願・無情な判断

前回のお話……自己紹介からの~

(? ゜Д゜)あの!!

(真 ゜Д゜)(ビクッ)!?

「あ、あの!!」


 突然の大声。

 酒場に居合わせた全員が思わず「ビクッ」となってしまう程の声量に驚かされた。あとちょっとビビった。

 いったい誰だと顔を顰めながら声のした方を振り向けば、そこには見知らぬ一人の少年が立っていた。

 俺と同じような黒髪黒目の少年。

 190センチ近くは有りそうな長身痩躯。

 何処と無く日本人に近い顔立ちをしていた。


「い、いきなりすんません! おっ、俺は―――」


「ちょっとお静かに」


 再び大声を発しようとした少年の眼前にビシッと広げた掌を突き付け、次の言葉を遮る。


「緊張してんのは分かったから一旦落ち着け。お前さん、酒場中の注目集めてるから。あとそんなに大声出さんでも聞こえてるから」


 おかげで俺達まで注目される羽目になっていた。


「すっ……すんません」


 咄嗟にまた大声を出しそうになったのだろう。

 両手で自分の口を塞いだ後、今度は蚊の鳴くような声で謝ってきた。

 落差が激し過ぎる。

 そんな中でも指先をピクッと動かすだけのミシェル。まだまだ復活するには時間が掛かりそうだ。

 ローグさんやジュナ達は、気にしなくていいと周囲の連中に声を掛けている。

 ローリエは困惑顔で、エイルはいつも通りのおっとり笑顔のまま座っている。

 なんだかこのまま俺が対応しなければいけない流れになっている気がするけど、最近妙な役回りが多くないかな?


「別にいいんだけどさぁ、俺が一番近いし……」


『文句を言いつつも、結局やってしまうのがマスミらしいのう』


 うるさいよ。あと声を出すんじゃない。

 胸ポケットを指先で突っつきながら、空いている席に座るよう少年を促す。

 立ちっぱなしで話すのもなんだしね。


「改めてお訊ねするけども、君は何処の何方様かね?」


「は、はいっ。俺、セントって言います」


「セントくんね。俺はマスミ=フカミです。好きに呼んでちょうだい。それで俺達に何か用かな?」


「……」


 おいコラ待てや、いきなり黙るなし。

 それじゃお前、大声出して人を驚かせただけの迷惑少年だぞ。

 ……えっ、マジで何もないの?


「……お」


 ……お?


「お願いします!!」


「ぬおぅ!?」


 急に押し黙ったかと思えば、今度は勢いよく頭を下げてきた。

 だからいちいち大声出すんじゃねえよ!


「うっせぇな! さっきからなんなんだ、お前は!」


 おかげでまたもや注目の的ではないか。

 見世物じゃねえぞ。


「すすっ、すんません。つい……」


「ったく……んで、お願いって何ぞ?」


 用件も告げずにお願いだけされても困る。


「その、俺も……俺も一緒に連れて行って下さい」


「あん?」


 連れて行ってだと?


「どゆこと?」


「街道で暴れてる盗賊共を討伐しに行くんですよね?」


「聞いてたのか」


 今日はまだ依頼のことを話題に上げていないから、昨日の時点で聞かれていたのだろう。

 壁に耳あり。何処で誰が聞き耳を立てているのか、分からないものだ。

 別に隠してもいた訳じゃないけど。

 とはいえ……。


「あまり褒められたことじゃないわな」


「すんません。悪いとは思ったんですけど……でも俺、そのことを聞いたら、居ても立ってもいられなくなって。お願いです。俺も一緒に連れて行って下さい」


「一緒にってお前、簡単に言うけどさ。そもそもなんで一緒に行きたいんだよ?」


 お願いされたからはいどうぞ、なんて訳にはいかない。

 ちゃんと理由(わけ)を話しなさい、理由(わけ)を。


「それは……」


「俺が決めることじゃないけど、流石に理由も話せんような奴の同行なんて認められんよ」


 俺達だって遊びに行く訳ではないのだから、不要なリスクを負う訳にはいかない。

 ましてや腹に一物を抱えてるかもしれない輩の同行など認められる筈もない。


「……(かたき)を討ちたいんです」


「仇?」


 仇討ち。盗賊共に復讐したいってことか。

 理由としては確かに妥当なところだけど……待てよ。


「今、仇を討ちたいって言ったよな?」


「は、はい」


 見たところ、彼も冒険者だ。

 そして今回の依頼、俺達よりも先に引き受けて失敗した冒険者達がいる。

 まだ鉄級にも昇格していない五人の若者達。

 生き残ったのは一人だけ。


「殺された冒険者ってのは、お前の仲間か?」


「……はい」


「やっぱそうか」


 俺からの質問に呻くような声で苦し気に答えるセント。

 顔は伏せられているので、彼が今どのような表情をしているのかは分からない。

 だが、膝の上で固く握り締められた彼の手は、何かに耐えるように震えていた。

 その姿を見て、セントが何者なのか、みんなも気付いたのだろう。

 話を聞いているのかも怪しかったミシェルですら、ハッとしたように顔を上げていた。

 黙り込む一同を代表して、ローグさんが確認する。


「もしかしてお前……」


「はい、討伐を失敗したパーティの……生き残りです」


 ―――生き残り。

 彼はどんな想いで、その言葉を口にしたのだろうか。

 仲間を失った悲しみ。

 仲間の命を奪った盗賊共に対する怒りと憎しみ。

 自分一人が生き残ってしまった孤独感と罪悪感。

 家族や親しい友人を亡くした経験のない俺には、彼の心中を推し量ることなど出来やしない。

 それでも、文字にしてたった四文字のその言葉の中には、様々な感情が綯い交ぜになっていることだけは理解出来た。


「お願いです。荷物持ちでも雑用でもなんでもしますから、俺を同行させて下さい。仲間の仇を、盗賊共(あいつら)を……お願いします!」


 セントは椅子から降りると、その場に両手と両膝を突き、額を床に擦り付けた。

 恥や外聞などどうでもいい。仲間の仇を討てるのならと、そんな形振り構わない様相でセントは嘆願してきた。


「……」


 ミシェルとローリエの瞳が、俺とセントの間を何度も往復しているのが横目で見えた。

 きっと二人はセントに協力してやりたいのだろう。

 優しい娘さん達だから、基本的に困っている人は放っておけないのだ。

 俺とて手助けしてやりたい気持ちはあるものの、出会って数分にも満たない他人の仇討ちに手を貸すというのも……なんだかなぁ。

 うぅむ、どうしたものか。

 腕を組んだまま、無言で目を閉じているローグさんの方を振り仰ぐ。

 俺が一人で判断していいことでもないし、今回のリーダーはローグさんだ。

 人任せにするようで申し訳ないが、最終的な判断はやはり彼に委ねるべきだと思う。

 みんなも同じ考えなのか、ローグさんに注目していた。

 果たして彼のどのような判断を下すのか。

 やがてゆっくりと目蓋を開いたローグさんは―――。


「悪いが、同行は認められねぇ」


 ―――少年にとって、無情とも呼べる判断を下した。

お読みいただきありがとうございます。

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