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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第4章 アラサー警備員、ケモナーに目覚める?
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第3話 呑まされて、諸先輩

前回のお話……真澄くん、燃える(※髪)

(真 ゜Д゜)ファイヤー

「一ヶ月振りですか。お久し振りですね、ローグさん」


「おう、そっちも元気そうで何よりだ」


 ローグさん達と顔を会わせた後、俺達はギルド併設の酒場へ移動し、一緒に卓を囲んでいた。

 テーブルの上には人数分の飲み物―――ミシェルとローリエの分以外は全員酒―――と酒の肴として注文したチーズや腸詰肉(ソーセージ)の盛り合わせが乗った皿が置かれている。

 真っ昼間から飲酒をするのは如何なものだろうと思ったのだが、ローグさん曰く……。


「冒険者が酒呑まねぇで、いったい何呑むってんだよ?」


 それでいいのか冒険者。

 更にはトルムやヴィオネまでノリノリで……。


「昼から呑む酒も中々乙なもんだよー」


「さぁさぁ、ぐいっ、と」


 ―――なんて勧めるものだから、すっかり流されてしまった。

 ディーンさんに限っては「んっ」と相変わらずな無口っぷりで、誰よりも早くコップに口を付けていた。


「誘ったのはこっちだからなぁ。この場は俺の奢りだ。遠慮せずやってくれや」


「わ~い」


 何の遠慮もなく笑顔でエールを呑み出すエイル。

 グビグビとそれはもう豪快な呑みっぷりである。

 俺の知っているエルフという種族は、もっと高貴で神秘的な存在だと思っていたのだが……所詮、地球のファンタジー知識など当てにならんか。


「おー、いい呑みっぷりだなぁ、エルフの姉ちゃん」


「ありがと~。正確にはぁ、ハーフだけど~」


 ハーフ、それ即ち混血。


「えっ、そうだったの?」


「あれぇ、言ってなかった~?」


 そう言って首を傾げるエイル。初耳です。


 ハーフエルフとは、純血のエルフと人間との間に生まれた混血児で、エイルの場合は母親が人間だったそうだ。

 人間とエルフがどのような経緯で付き合うことになったのか、気になるところではあるものの、今は置いておこう。

 ハーフといっても外見的には普通のエルフと大きな違いはない。

 その代わりというか、エルフとしての才能や特性には偏りが出易いそうで、エイルが魔術を苦手―――端から見るとそうは思えない―――としている理由はここにあるらしい。

 また純血程ではないにせよ、人間よりも遥かに長命で老化が遅く、かなり長い間若々しい外見を保っていられるのだとか。


「長命っていうけど、じゃあエイルって今何歳なの?」


「えっとねぇ、今年で八十四歳~」


「ええっ!?」


 八十四歳って、俺の年齢の丁度三倍じゃねぇか。

 とっくに還暦を過ぎていらっしゃる。

 マジかよ、普通におばあ―――。


「マ~ス~ミ~く~ん~?」


「歳上の女性ってやっぱ素敵だよね」


 笑顔を浮かべたまま、エイルが不穏な空気を醸し出す。

 決してそのプレッシャーに気圧された訳ではない。

 だからお願いします。

 どうか俺の心を読まないで下さい。

 何故かミシェルとローリエまでもが、険しい目付きで俺を睨んできた。

 仲間達からの謎プレッシャーに晒されている俺を見て、トルムがケラケラと笑い声を上げた。あとで覚えておけよ。

 ディーンさんやヴィオネまでもが声を押し殺すようにクツクツと笑っている。

 いや、よく見たらヴィオネは表情を一切動かさず、口元だけに笑みを作っていた。ちょっと怖い。

 駄目だ。全然話が進まん。


「なんつーか、面子が増えてもいつも通りみたいで安心したわ」


「お見苦しいところを……」


 向かいの席に座ったローグさんが、エールを呑みながら苦笑している。

 これが日常だと思われても困るぞ。

 半分はおたくのパーティが原因なんですがね。

 微妙に釈然としない気持ちのまま、俺もエールを口にする。

 呑まずにやっていられるかい。


「ぷぅー。それでローグさん、俺達に話ってなんですか?」


 エールで喉を潤した後、ローグさんに要件を訊ねた。

 元々、ローグさんが俺達に話があるというから昼食がてらに酒場へ場所を移したのだ。

 決して酒盛りをするためではない筈、多分。


「なぁに、そう難しい話でもねぇさ。お前ら、明日以降の予定は決まってんのか?」


「予定ですか? いや、特に今のところは何の依頼も受けてませんけど」


「そうかそうか、そいつはちょうどよかったぜ」


 何やら嬉しそうに頷いているローグさん。

 一人で納得していないで、ちゃんと説明してほしい。


「いやな、お前らさえよけりゃあ、また一緒に仕事をしねぇかと思ってよ」


 ほほう、一緒に仕事とな?

 それって……。


「一緒にと言うと、以前にネーテの森で行った合同調査のようなものか?」


 無言で果実水を飲んでいたミシェルが質問をしてきた。

 約一ヶ月前、ネーテの森で起きた灰猟犬(グレイハウンド)の大量発生事件。

 それに関する原因調査の依頼をローグさん達と一緒に受けたのだ。

 まぁ、俺はコレットと二人で途中から乱入したようなものだけど。


「おう、それだそれ。つっても今回は調査依頼じゃねぇけどな」


 なんせ相手が魔物じゃねぇからなと言って、一枚の依頼票を差し出してくるローグさん。

 俺とミシェルとローリエの三人で額を寄せ合うようにしながら、受け取った依頼票に目を通す。

 エイルは……いいや、酒吞ましとけ。

 それより依頼の内容を確認せねば。

 えーっと、何々……。


「盗賊ですか?」


「おう。ちょっとばかり離れちゃいるが、ネーテ(ここ)から南東の方の街道周辺で、結構規模のデカい盗賊共が暴れてるみたいなんだわ。主に狙われてるのは、その道を利用する旅人や行商人なんかだな」


「幾つかの農村も被害に遭ったみたいなんだよねぇ」


「かなりの、人数が、犠牲になった」


 ローグさんからの説明をトルムとヴィオネが補足してくれる。

 なんとも穏やかではない話だ。


「おのれ、外道が……」


「落ち着いて下さい。討伐隊は編成されなかったんですか?」


 説明を聞いて、怒気を露にするミシェルを宥めながらローリエが質問する。

 ローグさんはエールを一口呷った後、ゆっくりと首を左右に振った。


「国の兵士は派遣されてねぇ。その代わりと言っちゃなんだが、俺らよりも前に何人かの冒険者が討伐に出向いたみてぇなんだが……そいつらがトチった」


「トチった?」


「まだ鉄級にも上がってねぇ若いの五人ばかりで依頼を受けたらしいんだが、まんまと盗賊共にやられちまった。生き残ったのは一人だけだとよ」


「その時に受付を担当した子も上司(うえ)から相当どやされたらしいよ。なんで止めなかったんだって」


 痛ましいとディーンさんがポツリと呟いた。

 そういえば酒が入ると喋るんだったな、この人。

 そのおかげでと言ったら不謹慎だが、若者達の犠牲によって盗賊団の規模が想像していたものより大きいことが判明したと、ふむ。

 手元の依頼票にもう一度目を通してみる。


「この依頼、条件に鉄級以上の冒険者を最低十人って記入されてますけど」


 俺達とローグさん達を合わせても、この場には八人しかいないので条件を満たせない。

 ローグさんに訊ねたら、足りない頭数は自分が揃えるので心配はいらないとのことだった。

 彼が紹介する人物なら信用も置ける。


「どうだ、一緒にやってくれるか?」


「俺個人としては構いませんけど……」


 さて我がパーティメンバーは如何だろうか。


「私は構わんぞ」


「わたしも問題ありません」


 エイルはずっと酒を呑んでいるから、ほっとこう。


「……だそうです」


 俺の言葉を聞いたローグさんは決まりだなと言って、残っていたエールを一気に吞み干すと、近くの女給に追加の酒を頼んだ。


「そうとくれば今日は呑むとしようぜ。遅まきながら、マスミの鉄級昇格の祝いも兼ねてな。オラ、嬢ちゃん達も呑め呑め」


 いつの間にやらミシェルとローリエの前には新しいコップが置かれており、すかさずトルムとヴィオネがそこに酒を注いだ。

 こちらもいつの間に仲良くなったのか、エイルとディーンさんが一気呑み対決を始めていた。

 身体に悪いから止めなさい。

 さっきまで真面目な話をしていた筈なのに、もうグダグダである。


「ローグさん、依頼の話をするために集まったんですよね?」


「あん? 当たり前じゃねぇか」


 そう言ったローグさんは豪快に酒を呷り、大口を開けて笑っている。

 絶対に嘘だ。何かしらの理由を付けて、酒盛りをしたかっただけだろう。

 頑なに飲酒を拒んでいたミシェル達も、やけっぱちに手元の酒を呑み始めてしまった。


「……俺も呑むか」


 追加で頼まれた酒に口を付ける。

 香りが良い。ブランデーかな?

 度数は高そうだが、そこまでキツくは感じない。

 盗賊討伐なんて初めてだから色々と気になるし、調べたいことも多いのだが、もう明日以降でいいや。

 そんな半ば諦めの気持ちを抱いたまま、俺はブランデーの味を楽しんだ。

 決して酒盛りをしたい訳ではない。ないったらない。

お読みいただきありがとうございます。

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