第6話 ノリと勢いだけでも意外と場は仕切れるもの
最近早く投稿できている気がします。
頑張ろう。
現在の室内状況。
足元には後頭部を強打して悶絶する美少女。
離れたところで口をパクパクさせている美少女。
そして唖然としたまま硬直しているハゲ。
うむ、実にカオス。
どうも、前回スライディングで口喧嘩を中断させた深見真澄です。
喧嘩両成敗という言葉があります。
喧嘩した双方を等しく裁くというものですね。
争いの原因がなんであれ、喧嘩にまで発展したらどちらか一方ではなく両方とも悪い。
成程一理あるものの、個人的にはそれってどうなのかなぁって思います。
争いの原因が両方にあるならともかく、片方が原因の場合も両成敗というのは如何なものだろう。
そもそもの原因を作った奴が一番悪いのではなかろうかと思う次第です。
だからといって問答無用で暴力を振るうことが許されるとか言うつもりはありませんよ?
しかし、ある程度は振るわざるを得なかった理由や喧嘩に発展してしまった理由というものを考慮し、その上で判断するべきではないかと考えたりします。
さてさて、その辺りを踏まえた今回の口喧嘩。
村長さんには手を出さず、ミシェルのみを成敗した形になりましたが、じゃあ争いの原因が彼女にあったのかというと……いいえ、別に。
ローリエから聞いた話も纏めて考えてみるに、どっちもどっちだなというのが正直な感想。
では何故ミシェルだけを成敗したのかといえば、俺達は仕事―――俺が冒険者じゃない点は一先ず置いておく―――のためにこの村を訪れた。
つまり取引先に出向いているような状況となる。
そんな時、一緒に来た同僚が取引先のお偉いさんと突然口論を始めたらいったいどうするか。
止めるに決まっている。無論、同僚を。
だから止めた。ミシェルを。
喧嘩両成敗云々のくだりはなんだったんだよという疑問には、お答えし兼ねるので悪しからず。
……なんて色々と言い訳がましいことを並べ立てたが、正直に言おう。
ここまでするつもりはなかった。
最初はミシェルの肩にでも手を置いて、ちょっと落ち着き給えよと宥めるつもりだったのだ。
それが何故かミシェルにブン殴られたことを思い出した途端にムカッ腹が立ってきて、気付けば彼女から距離を取って屈伸を開始していた。
そして衝動の赴くままにスライディングをした結果が今の惨状である。
「どうしてこうなった」
普段の俺なら絶対にこんな真似はしない。
明らかに冷静からは程遠い行為だ。
やはり異世界転移という非現実的な体験をした所為か、未だ動転しているのかもしれない。
うん、そういうことにしておこう。
「マママッ、マスミさん! 何やってるんですか!?」
お口をパクパクさせていたローリエが慌てて寄って来た。
本当に何をやっているのだろう。
今更言い訳も出来ないし、このまま上手いこと丸め込もう。
「何って見ての通り仕返しを……じゃなかった成敗、でもなくてえっと……仲裁?」
「こんな仲裁の仕方見たことありません……って今仕返しって言いました!?」
「間違った。仲裁はこれからするんだった。やっぱり仕返しということで一つよろしく」
「だから仕返しってなんなんですかぁ!?」
両手をブンブンと激しく上下に振りながら喚くローリエ。
こんな駄々っ子みたいな姿でも可愛い。
随分とテンパっている様子なので、取り敢えず宥めておくとしよう。
「まあまあ、お嬢さん。そう喚きなさんな」
「誰の所為だと思って……」
「どっちにしても喧嘩は止めなきゃだろ。アレじゃまともな会話なんて出来なかっただろうし」
「それはそうですけどぉ」
言ってることは分かるが納得し兼ねるといった様子で眉根を寄せるローリエ。
ちょっと涙目になってる。
「まあ、正直やり方がアレだってのは認めるけど、あの様子じゃ口で言うだけ無駄だったと思うぞ? 結果オーライということで許して下さいな」
ミシェルのことだから、あのまま放っておいたら本当に手が出ていた可能性もある。
経験者は語るのだ。
フォローになるかは微妙だが、ローリエの肩を軽く叩いて問題ないとアピールをしておく。
今度はセクハラじゃないぞ。
「いやぁ、突然すみませんねぇ、村長さん。ウチの馬鹿がご迷惑をお掛けして申し訳ない。ここからはそこで寝てる馬鹿に代わりまして、自分がお話をさせていただきます。でもその前にちょっと内々の話をさせてもらいますね」
床の上に横たわっているミシェルを笑顔で指差す俺を見て、村長さんは顔を引き攣らせながら「あ、ああ」と頷く。
言外にお前も同じ目に遭いたくないだろうというプレッシャーを込める。
本当にブチかますつもりはないが、話をややこしくしてくれた当事者の一人だ。
反省の意味も兼ねてこれくらいはしても許されるだろう。
「さて、横になって少しは頭も冷えたか?」
ニヤニヤと自分でも分かるくらいにイヤらしい笑みを浮かべながら、未だ復活出来ていないミシェルを見下ろす俺。
「ッッ……マスミ、貴様っ、よくもぉ……!」
痛みの引かない後頭部を押さえながら、食い殺さんばかりの目付きで睨んでくるミシェル。
相当痛かったのだろう。
目尻には涙が浮かんでいる。
「はっはっはー、寝転がったまま凄まれたって怖くもなんともないね」
そんな状態のミシェルを見ながら声を出して笑う。
そりゃあもう笑う。
嘲笑ってやる。
「きっ、貴様……ただで済むと思って……ッ」
「喧しいわ。仕事の話そっちのけで口喧嘩してたのは何処のどいつだ?」
「うぐっ、だ、だがあれは向こうがいきなり……」
「確かにいきなり怒鳴ってきた村長さんにも非はある。面食らうのも当然だ。だからってお前までキレてどうする。ますます話が拗れるわ」
「で、でも……」
「でもじゃない。そもそも依頼主に食って掛かるなんざ言語道断。社会人の風上にも置けん。恥を知れ、恥を」
「う、う゛ぅぅぅうぅぅぅぅ……ッッ」
事実を指摘されて何も言い返せないミシェル。
余程悔しいのだろう。
歯を食い縛りながらウーウー唸ることしか出来ずにいた。
してやったりな気分。勝った。
「ふんっ、まったく小娘が口答えしおって」
「はいそこっ、村長さんもちゃんと反省して下さい。最初に話を拗らせたのは貴方ですからね」
それ見たことかと言わんばかりな態度の村長さんにも釘を刺しておく。
マジで反省しろ。
「なっ!? ワ、ワシがなにを―――」
「結果的にキレちゃいますけど、少なくともミシェルは話し合おうと努力しました。対して貴方はどうですか? 理由も告げずに怒鳴り散らしただけですよね? 話し合いに応じようとすらしませんでしたよね?」
「ぬぅぅ、だがワシは……」
「確かに貴方は依頼主です。でもお金を払ってるからといって何をしても許される訳じゃありません。果たすべき義務がある筈です。説明責任なんてその最たるものの一つでは?」
「ぬ、うぅ……」
俯いて黙り込む村長さん。
急に老け込んだように見える。
年寄りを苛めているみたいで良い気はしないけど、流石に彼の態度は目に余った。
年長者を敬うことに反対はしないけど、敬って欲しいのならそれなりの態度を見せなさい。
ようやく痛みが引いてきたのか、ミシェルの方もローリエに助け起こされていた。
ちょっとべそかいてる。
意外と打たれ弱いな。
「さてお二方、お互い言いたいことはあるでしょうが、そこはグッと堪えてまずは情報の確認を。それから改めて仕事の話に移りましょう。ちなみに俺に対する苦情は受け付けませんので悪しからず」
あと何故俺が勝手に仕切っているのか……なんてツッコんではいけない。