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第15話 彼にも迂闊な時はある

前回のお話……真澄くん、強くなる?

 宿に一泊した翌日、俺達は遺跡調査の報告をする為にギルドの宿場町出張所に顔を出した。

 かれこれ七日振りに訪れた出張所は―――。


「オイッ、なんで報酬がこんなに少ねぇんだよッ!」


「依頼票に書かれてる額と全然違うじゃねぇか!」


「ふざけんなゴラァ!」


 ―――荒れていた。

 どうも、精霊との出会いというイベントを終えた深見真澄です。

 可憐な精霊さんの助力により、身体の異常―――異世界への不適合―――を治してもらい、魔力操作の手解きを受け、更には武器も強化してもらいました。

 俺も少しは強くなれたのでしょうか。

 今後の深見真澄の活躍にご期待下さい……なんて言ってる場合ではなさそうだ。


「いったい何事だ?」


「さてねぇ」


 今来たばかりの俺に騒ぎの原因など分かろう筈もなく、訊かれたところで答えられない。

 原因は分からないけど、騒いでいる奴らは分かる。

 いつぞやの受付嬢が着席したカウンター前で喚いているのは、あまり身なりのよろしくない四人組。

 数日前にボコッて金銭を巻き上げたゴロツキ共だった。


「あいつら何を騒いでんだ?」


 前に見た時よりも更に一段小汚くなっているような気が……。


「オイッ、なんとか言えや! なんで買取額がこんなに低いんだよ!?」


 怒気と一緒に唾も吐き散らす小男。きっちゃない。

 受付嬢も嫌そうにしている。


「……先程から申し上げている通りです。貴方方が持ち込まれた魔物―――堅皮蜥蜴(ハードリザード)の遺体には傷が多過ぎるんです」


「それの何が悪いってんだよ!」


「……貴方方が請けられた依頼はなんですか?」


「あぁ? 『堅皮蜥蜴(ハードリザード)の納品』だろうがよ」


「違います。貴方方が請けられた依頼は『堅皮蜥蜴(ハードリザード)外皮(・・)の納品』。肝心の胴体部分に傷が多過ぎて納品可能な部位が少ないんです。これでは依頼主が望まれる規定量には届きません。当然、買取額もそれに見合った金額となっております」


「はぁ!? なんだそりゃッ、冗談じゃねぇぞ! ちゃんと買い取りやがれ!」


「冗談ではありませんから。むしろギルド(こちら)としては、失敗扱いにしないだけ感謝していただきたいくらいです。いずれにしてもこれ以上の対応は出来ませんので、どうぞお引き取り下さい」


 取り付く島も無いとはこのことか。

 毅然とした態度でゴロツキ共の要求を断る受付嬢。

 ゴロツキ共は更にヒートアップし、大声で怒鳴り散らす。

 小男に至っては怒り過ぎて口が回らないのか、はたまた頭が回っていないのか、「んごっ」とか「んが、ぎっ」といった全く意味を成さない言葉を吐き出していた。

 耳に届く会話内容で判断する限り、ゴロツキ共は堅皮蜥蜴(ハードリザード)と呼ばれる魔物―――知らない魔物だ―――の納品依頼を請けた。

 必要な部位は外皮。

 ところがその外皮に傷が多過ぎたため、納品するには不備が有る状態だった。

 結果、納品可能な部分だけを選んだら、必要な規定量に届かなかった。


「……普通じゃね?」


「まぁ、普通のことだな」


「普通ですねぇ」


「普通だね~」


「だよな」


 奴らは何をそんな当たり前のことで騒いでいるのやら。


堅皮蜥蜴(ハードリザード)ってそんなに強いの?」


「弱くはないが、特別強力な魔物という訳でもないな。外皮が頑丈で幾分厄介だが、単体の強さとしては灰猟犬(グレイハウンド)以上黒猟犬(ブラックハウンド)未満といったところだ」


 堅皮蜥蜴(ハードリザード)とは頑丈な外皮で全身を覆った蜥蜴型の魔物で、攻撃よりも防御に秀でているそうだ。

 成体の平均サイズとしては、尻尾を含めて全長2メートル以上。

 硬さと柔軟さを兼ね備えた自慢の皮は、鉄製の剣による攻撃でも簡単には刃が通らないそうで、冒険者の防具の素材としても重宝しているとか。


「軽くて丈夫で長持ちしますからね。駆け出し冒険者には特に人気ですよ」


「あとぉ、その皮を加工して作ったぁ、革財布なんかぉ、意外と人気~」


「蜥蜴の革財布……」


 蛇革とか鰐革みたいなもんかね?

 防具のためなのか、はたまた革財布製作のために必要だったのかは知らんけど、依頼主の要望に応えられなかったゴロツキ共は受付嬢の説明に未だ納得せず、ワーワーギャーギャーと騒いでいる。

 喧しいことこの上ない。

 出張所内にある数少ない受付窓口をいつまでも占領しているゴロツキ共のことを全員―――ギルド職員も他の冒険者達も迷惑そうに見ている。


「何故、誰も何も注意しようとしないんだ」


「そら関わりたくないからでしょうよ。質悪い連中だってことは、とっくに知れ渡ってるだろうし」


 このままでは俺達まで報告が出来ない。

 ゴロツキ共が受付前から離れる様子は皆無。

 誰かが行動せねばなるまい。

 よって俺は行動を起こすことにした。


「邪魔だボケオラァ!」


 具体的には小男の背中に全力の前蹴りをぶちかました。

 蹴り飛ばされた小男は、受付カウンターの下部に顔面をぶつけると鼻血を吹きながら崩れ落ちた。

 呆然とした顔で固まっている残りのゴロツキ共と他の冒険者達。

 受付嬢を始めとしたギルド職員達は、何故か全員がグッと親指を立てていた。

 取り敢えず俺も親指を立て―――サムズアップで応えておく。


「……本当にこういった時のマスミは容赦がないな」


 こういった時ってなんだよ。


「生きてる?」


「マスミさん、自分でやっておいてその質問は如何ものかと」


「マスミくんたらぁ、やっぱりワイルド~」


 ゴロツキ共から金銭を巻き上げた時と同様にドン引きしているミシェルとローリエ。

 そして顔を赤らめてくねくねしているエイル。

 相変わらずエイルの琴線が分からない。


「いっ、いきなり何しや―――テメェはッ!?」


「よぉ」


 おひさ~と手を振ってみる。


「取り敢えず邪魔」


「誰の所為でこうなったと思ってんだ!」


「知らんがな」


 俺の所為だとでも言いたいのか?

 今にも掴み掛かってきそうだが、出来ればあまり近付かないでほしい。臭いから。


「テメェが有り金全部持っていきやがったから、碌に飯は食えねし、宿にも泊まれやしねぇ。こんなんでまともに依頼なんざこなせるかよ!」


「だから知らんて」


 自業自得でしょうよ。


「そもそもお前らがウチの女性陣に余計なちょっかい掛けたのが原因だろうに。五体満足でいられただけでも有り難く思え。大体、今まで人様に散々迷惑掛けておきながらその言い種はなんだ。恥を知るがいいわ」


 俺の発言にうんうんと頷いている女性陣とギルド職員の皆さん。

 受付嬢に至っては小声で「もっと言え、もっと言え」と呟いている。相当ご立腹な様子。

 ゴロツキ共は真っ赤な顔で拳を震わせている。

 それは誰に対して振り上げるつもりなのかな?


「まぁ、おたくらに嫌われようと文句言われようと、正直どうでもいいんだけどさ。やろうってんならこっちも黙ってねぇぞ……ウチの女性陣がな」


「何故そこで自分と言わない」


「マスミさん、格好付けたいのかそうじゃないのかどっちなんですか」


「マスミくん、ビビり~」


 なんとでも言え。

 小男がダウンしたとはいえ、向こうはまだ三人もいるんだ。

 三対一の喧嘩なんて、普通にやったら勝負にならんわ。

 女性陣に一方的にボコられたことを思い出したのか、ゴロツキ共は悔しそうにこちらを睨むだけで、手を出してはこない。

 他人の威を借る俺。

 うん、実に格好悪い。でも知らん。


「分かったら失せろ。俺らも報告あるんだから、はよ退きなさい」


 シッシッと雑に手を払いながら、ゴロツキ共を退かして受付の前に進む。

 何処かホッとした様子の受付嬢。


「ありがとうございます。どれだけ説明しても納得していただけなくて困っていたんです」


 そう言って、受付嬢は俺達に頭を下げた。

 大変ですなぁ。


「ご苦労様です」


「あれらの相手をした後で申し訳ないが、遺跡調査の件について報告があるので聞いてほしい」


「承ります」


 パーティを代表してミシェルが報告を行い、ローリエとエイルがそれらを補足する。

 また手持ち無沙汰になってしまった。

 暇だなぁと思っていると、何やら背後から視線を感じた。

 振り向けば、仲間に助け起こされた小男が鼻血を拭うこともなく俺のことを睨んでいた。


「まだなんかあるの?」


「……テメェら遺跡調査に行ってたのか」


「だったらなんだよ?」


「……」


 俺の問いに答えることなく、ゴロツキ共はギルドを去って行った。


「なんだってんだよ」


 まあいいや、あんな連中は放っておこう。

 さて、報告終えたら何しようかね。


 ―――この時の俺は迂闊だった。


 依頼を終え、あとは報告するだけだと思って完全に気が抜けていた。

 普段なら払う注意を払っていなかった。

 小男が俺に対して向けていた目―――奴の憎悪にまみれた目に何故気付けなかったのか。

 後に後悔することになるとは、この時の俺には知る由もなかった。

お読みいただきありがとうございます。


ようやく更新出来ました……。

恐るべし、年末……。

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