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第5話 彼は痛みを忘れない ~但し、都合の悪いことは除く~

 ミシェルと村長さんの口喧嘩はまだ続いていた。

 空気も居心地も悪いったらありゃしない。

 なんかもう帰りたいなぁ。

 帰っちゃ駄目かなぁ。

 帰り方分からないんだけど……。


「ふんっ、うるさい小娘だ。その様子じゃ男も碌に寄り付かんだろうな!」


「喧しいわ! 貴様に言われる筋合いではない!」


 村長さんそれセクハラ。

 実は俺、冒険者じゃないんです……などと言える雰囲気ではなくなってしまった。

 そしてローリエは相変わらずあたふたしている。


「大体なんだ。小娘共だけじゃなく、あの妙な恰好をした男は! 本当に冒険者か!?」


「あんな男は知らん! こっちが聞きたいくらいだ!」


 おっと、急に矛先が俺に向いてきたぞ。

 これはよろしくない。

 冒険者じゃないのは事実だけど、このタイミングでそれがバレてしまうのは流石に困る。

 もっとややこしい事態に発展すること間違いなしだ。

 人様のことをブン殴っておきながら、知らんとか言ってるミシェルには後で物申すとして……。

 面倒だが、一先ずこの場を収めなければなるまい。

 このままあの二人に任せていては、延々と口喧嘩を続けるだけで話など全く進められないのは目に見えている。

 不毛な争いを続けられても迷惑なだけだ。


「そもそも、なんだって村長さんはあんなに怒ってるんだ?」


 取り敢えずそこからはっきりさせよう。

 現状、判明している情報を纏めると、まず村長さんは冒険者ギルドとやらに依頼を出した。

 依頼内容はゴブリンの討伐。

 村長さんとギルドの間でどのようなやり取りがあったのか定かではないものの、ミシェルの言った通りだと仮定した場合、村長さんは依頼を出すに際して細かい条件を指定しなかった。

 そして今回の討伐依頼を引き受けたのがミシェルとローリエの二人。

 ここまではいいよな?

 よし、次に行こう。

 依頼を請け負った二人は、依頼主である村長さんに会うため、この村までやって来た。

 その途中で俺は拾われた訳だが、今それは関係ない。

 ところがいざ村に到着して挨拶をしてみるも、何故か村長さんはご立腹。

 村長さんに引き摺られるようにミシェルまでキレた。

 うーむ、分からん。

 小娘云々言ってたけど、女性が来るのは駄目だったとか?

 だとしても何故だ?

 あと銅級って何のことだろう?

 話の流れからして冒険者のランクっぽいけど。

 俺だけで考えても答えは出そうにないので、ここはもう一人の当事者に話を聞いてみるとしよう。


「おーい、ローリエさんやローリエさん」


「あぅぅ、わぅぅぅ……へっ? マスミさん?」


 未だにあたふたしているローリエさんから話を聞くことにした。


「お困りのところすまんのだが、ちょいと確認させてくれ。あのさぁ―――」


 実際に冒険者ギルドに出されていた依頼内容やランクの有無、その他のあれやこれやについてローリエに確認し、聞き出した内容を自分なりに纏めたところ……。


「あー、はいはいそういうことね。よく分かった」


 結論が出た。

 取り敢えずこの不毛過ぎる口喧嘩を止めるとしよう。

 ずっと背負っていたバックパックを床へ降ろし、未だ元気に口喧嘩―――もう馬鹿とかハゲしか言ってない―――を続けているミシェル(バカ)村長さん(ハゲ)の元へ向かう。


「あのマスミさん、一体何を?」


「何ってそりゃ……仲裁?」


 いつまでも付き合っていられないからな。

 こんなものは時間の無駄だ。


「仲裁……出来るんですか?」


「だってこれ、ちょっとした行き違いみたいなもんだろ? なんとかなるんでないの?」


「なんとかって……」


「なぁに、適当にやってみるさ」


 歩きながら、ローリエに向けてヒラヒラと手を振っておく。

 喧しい二人の方に近付くと見せ掛け、幾らか距離を置いてミシェルの後ろに立つ。


「バーカ!」


「ハーゲ!」


 口喧嘩に夢中なミシェルは目の前の村長さんしか見えておらず、彼女の後ろに移動した俺の存在には気付きもしなかった。

 これからやろうとしていることを考えれば実に好都合である。

 俺はその場で膝の屈伸を開始した。

 きっちり十回やったところで、今度は伸脚へと移る。

 お次は手足をブラブラ。おっと、アキレス腱もしっかり伸ばさなければ。

 ローリエが俺の体操風景を見ながら、頭に疑問符を浮かべているが、気にしてはいけない。

 暫し準備運動は続き……。


「準備完了」


 体操終了。

 距離の確保も充分。

 準備は万端だ。


「よーい……」


 ドンッと心の中で合図を出すと同時に全力で駆け出す。

 狙うはこちらに背を向けて無防備な姿を晒しているミシェルの足元。

 グングン加速し、すっかりお留守となっている彼女の足元目掛けて―――。


「そぉぉぉぉいッ!」


 ―――全力のスライディングをブチかました。


「ぬおッ!?」


 分厚いブーツの底がミシェルの足首を刈り取る。

 予期せぬ衝撃に彼女は驚きの声を上げると共に大きくバランスを崩し、ゆっくりと後ろへ倒れていく。

 当然、注意が散漫になっていたミシェルが今更体勢を立て直せる筈もなく「ゴンッ!」と鈍い音を響かせながら、後頭部を強かに床へ打ち付けることになった。


「ふぃー」


 イイ仕事したぜ。

 立ち上がった俺は、かいてもいない額の汗を拭った。

 そんな俺の姿を金魚みたいにパクパクと口を開閉させながら呆然と見ているローリエ。

 突然の展開に村長さんも唖然としている。

 そしね床に頭を強打したミシェルは……。


「ぃづッッ……ぉぉぅっ……ォォオ……ッッ!」


 頭を押さえながら、床の上で悶絶していた。

 全身を小刻みに震えさせ、強打した後頭部の痛みに耐えている。

 森の中で俺に襲い掛かってきたゴブリンを思い出させる光景だな。


「痛かろう痛かろう」


 存分に苦しむがいいわ。

 色々と話をややこしくしてくれた罰だ。

 あと殴られた仕返し。

 あれだけ派手に人のことをブン殴っておきながら流石に知らんはないだろうよ、お嬢さん。

 俺は痛みを忘れない。

 やられたら、きっちりやり返す男なのだ。

 よく覚えておくがいい。

 殴られた原因?

 セクハラ?


 …………そんなん知らん。

お読みいただきありがとうございます。

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