第8話 エイル先生の遺跡調査講座
前回のお話……お風呂でドッキリ?
(エ ゜Д゜)あら~
(真 ゜Д゜)ありがたやー
(ミ ゜Д゜)(ロ ゜Д゜)……怒
※ サブタイトルを変更しました。
疎らに生い茂った雑草や低木。
乾燥した土。
あちこちに転がっている大小様々な石。
荒地と評しても何ら違和感の無いこの場所に、それは静かに佇んでいた。
「此処か」
「今回調査すべきぃ、遺跡だね~」
半ば地面に埋まりながらも、それでも尚威容を誇る巨大な建造物。
眼前に聳え立つこの建造物こそが今回の依頼―――遺跡調査の目標。
宿場町を出発してから更に二日間掛けて、俺達はようやく目的地へと辿り着いたのだ。
さてさて、宿場町ではギルドでゴロツキをボコしたり、宿の風呂場で生乳を見たり、直後に溺死し掛けたりとかなり波乱でしたが、なんとか今日も生きています。
高級宿に一泊した翌日、物資の補充を終えてから早々に宿場町を出発。
馬車に揺られて数時間もすれば街道が途切れ、未開拓地域へ入ることになった。
流石に街道を進むのと同じように安全とはいかず、何度か魔物の襲撃を受けることになったのだが、この道中で俺達はエイルの実力を目の当たりにすることとなった。
まずエイルの感知能力だが、はっきり言って異常である。
まだかなりの距離があるにも関わらず、彼女は魔物の接近を常に誰よりも早く、そして正確に察知していた。
双眼鏡無しの俺の視力ではほんの豆粒程度にしか見えなくとも、エイルの目には敵の姿がちゃんと視認出来ているようだ。
ある時、魔物の接近を察知したエイルは傍らに置いてあった長弓を手に取ると、いきなり荷馬車の幌の縁を掴み、逆上がりの要領でその上に乗った。
「ちょっ、エイル!?」
驚く俺に構うことなく、幌の上で片膝立ちとなったエイルは、腰の矢筒から矢を一本引き抜き、長弓に番えて構える。
ただでさえ揺れる荷馬車の、更に足場も悪い幌の上にいるというのにエイルの姿勢は微塵もブレない。
いったいどんな体幹をしているんだ。
エイルは徐々に接近して来る相手をジッと見据え、矢を引き絞り……放った。
響く弓弦の音。大気を引き裂く鏃。
放たれた矢は、吸い込まれるように魔物へと飛んでいき、見事に突き刺さった。
ふらりと力無く倒れた魔物はそのまま動かなくなってしまった。
「うっそーん」
たった一射で魔物を仕留めてしまうという冗談のような光景。
双眼鏡でも確認したが、まだ300メートル以上もの距離が空いている。
弓矢ってそんなに遠くまで飛ばせるの?
矢を届かせただけでも驚愕に値するというのに、それを正確に標的―――それも動いている相手―――へと当ててみせる技量。
しかもこの距離で急所を射抜いてみせたのだ。
風の影響とてあろうに。
いったいどれだけの修練を積めば、これ程の技術を身に付けられるのだろう。
俺が驚嘆していることを知ってか知らずか、エイルは幌の上からひょっこりと顔を出し……。
「まだ矢が使えるかもしれないしぃ、食べられる魔物だからぁ、拾っていきましょ~」
勿体無いの~と笑いながら軽やかな動作で幌から降りてきた。
簡単そうに見えるけど、同じことをやれと言われても俺にはきっと真似出来ない。
弓術だけではなく、運動能力も相当なものだが、エルフって種族はみんなこうなのかね?
「彼らは自然と共に生きる生まれながらの狩人だからな。弓の名手ばかりと聞いたことがある」
「精霊の友人とも称されるエルフは、聡明な知識と高い魔力も有していますから、狩人であると同時に優れた魔術師でもあるんですよ」
何その万能種族。
エルフ凄い。
「エイルも魔術使えるの?」
「使えるけどぉ、わたしは苦手~」
例外も居るらしい。
このように敵が単独の場合は、エイルの先制攻撃でほぼ確実に仕留められてしまうので、俺を含めた他三名は数える程度しか出張っていないのだ。
一日だけ野営を挟んだものの、他には苦労らしい苦労をすることもなく、俺達は遺跡が発見された場所に到着したのだ。
それにしてもこの遺跡って……。
「多分、砦だよな?」
所々崩れている箇所が見受けられるも、外壁はそれなりに形を残している。
その外壁に沿って、一定間隔で設けられた複数の櫓。
先に説明した通り、半ば地面に埋まっている所為で、その全容を窺い知ることは出来ないものの、まず間違いなかろう。
「古代遺跡ってくらいだから、俺はてっきり神殿だとかそういった類いのものを想像してたんだが……」
「私もだ」
「同じくです」
なんだか意外だな。
ファンタジー世界の遺跡=神殿と勝手に思い込んでいた。
考えてみれば、大昔に建てられた建物は軒並み遺跡と呼べるのか。
「それではエイル先生、よろしくお願いします」
「お任せ~」
両手は腰に、脚は肩幅、そして主張の激しい胸を張り、自信満々に請け負うエイル。
重力に逆らい、ズンと突き出た巨大な双丘に自然と目が……。
「マスミ?」
「マスミさん?」
「何も見ていませんよ?」
ミシェルとローリエの視線が怖い。
ゲフンゲフンと空咳を何度かして誤魔化しておく。誤魔化せてるよね?
「改めて……まずは何から始めましょうか、先生?」
「まずはぁ、周辺の探索~」
「探索? 先に野営の準備ではないのか?」
「この遺跡も含めてぇ、周辺一帯がぁ、ず~っと人の手が入ってない遺跡みたいなものだからぁ、どんな危険が潜んでいるのかぁ、分かりませ~ん。なのでぇ、危ない所がないかぁ、探索しましょ~」
「言われてみれば納得ですね」
遺跡自体の調査に付随して、その内外周辺の危険排除も仕事の内に含まれている。
早いところ仕事に取り掛かると―――。
「なのですがぁ、今回は日暮れも近いのでぇ、野営の準備も同時にやりま~す。よってぇ、マスミくんはお留守番~」
―――なん、だと……。
「なんで俺だけ?」
「荷物のほとんどはぁ、マスミくんが持ってるから~。あとぉ、安全が確認出来るまでぇ、誰か一人は馬を見てないと~」
正論過ぎて何も言えなかった。
ちなみにエイルには既に俺の〈顕能〉のことは話してある。というかバレた。
ネーテを出発する日の朝。
合流した俺達の姿を見たエイルが開口一番。
「もしかしてぇ、収納系の〈顕能〉とかぁ、魔道具持ってる~? 多分、マスミくぅん」
何故バレた。
一応、カモフラージュの意味も兼ねて、各々ある程度の荷物を背負ったり、手に持ったりしているのだが……。
「それじゃ少な過ぎ~。あとマスミくんはぁ、ナイフ一本以外にぃ、武器らしい武器がないのでぇ、正直不自然~」
曰く、遠出するには荷物が少な過ぎるとのこと。
そして俺のようにナイフを主武器とする冒険者も確かに存在するが―――トルムがそうだった―――そういった場合、複数本用意しているのが常識なのだとか。
成程。異世界生活にも慣れたつもりでいたが、俺もまだまだだったらしい。
それとエイルからの指摘を受けて感心しているところ悪いのだが、ミシェルとローリエよ。俺はともかく二人は知ってなきゃ駄目だろ。
便利な能力に頼ってきた弊害だな。反省。
一瞬どうやって誤魔化そうか考えつつも、今更手遅れだと諦めた俺は、空間収納という能力が有ることを白状した。
隠し事について怒られないか心配したのだが、エイルは特に気にした風もなく許してくれた。
「便利な能力をぉ、隠したくなるのはぁ、当然なの~。悪用されたら困るし~」
ご理解感謝します。
そのままエイルの分の荷物も収納し、全員が身軽な状態となって馬車に乗り込んだのだ。
馬への負担も大分軽くなったことだろう。
なんて数日前のちょっとした出来事を思い返している内に「出来るだけぇ、早く戻るからね~」と女性陣は周辺の探索へ向かってしまった。
行ってきますと手を振る三人に俺も手を振り返す。行ってらっしゃい。
一人取り残された俺の傍らには、ブルルッと鼻を鳴らす馬が一頭。
その仕草がなんだか「オレがついてるじゃないっスか」と励ましてくれているような気がした。
―――この時の俺には知る由もなかったが、馬がブルルッと鼻を鳴らすのは通称「鼻嵐」と言われる鼻詰まりを防ぐために行う仕草に過ぎないらしい。
「……野営の準備でもするか」
このまま黙っていても仕方がない。
三人が帰って来たらすぐに食事が取れるようにしておこう。
「その前にお前の餌が先だよな」
空間収納の中から底の深い木桶を二個取り出し、その中にそれぞれ水と乾草を入れる。
この乾草。詳しい種類は知らないけど、イネ科の植物を乾燥させたもので栄養価が高いとのこと。
馬の前に木桶を置いてやれば、頭を突っ込むようにしてモシャモシャと食べ始めた。たんとお食べ。
この間、食後のデザート用に林檎も用意しておく。
馬が好きな食べ物といえば人参と答える人も多いだろうが、馬は別段人参が好きなのではなく、単純に甘い物が好きなのだ。
日本では安価で手に入る人参をオヤツやご褒美としてよく与えていたことから、馬は人参好きと思われるようになったらしい。
実際、人参を拒否する馬もいるそうだ。
海外では俺が今手に持っている林檎などの果物を与える国もあれば、角砂糖を食べさせている国もあるそうだ。
糖分の摂り過ぎには注意しましょう。
まだ乾草を食べ終わるには時間が掛かりそうだな。
「寝床と竃も作りますかね」
こちらも大した手間ではない。
まずはスコップを使って浅い穴を掘り、地面に転がっている石を拾って、穴の周りに組み立てていけば……はい、竃の完成。
続いて寝床―――テントの設置。これも難しくはない。
元の世界から持ち込んだマイテントを取り出し、手早く組み立てる。
最近のテントは組み立ても随分簡単になったし、慣れた作業だからあっという間に終わってしまった。
テント内に毛布を敷いて、竃に火を入れれば……やることなくなっちゃった。
林檎片手に食事のメニューも考える。
前の依頼で入手した牛角猪の肉がまだ余ってるからそいつを焼くとして、あとスープは宿場町で購入した分がある。
空間収納に入れておけば冷める心配もなく、出来たて熱々の状態を維持出来るため、態々温め直す必要もない。
本当にやることがなくなってしまった。
さて、どうしようかと考えている途中、乾草を食べ終わった馬が俺の手にある林檎をジーッと見詰めているのに気付いた。
「……」
鼻先に差し出してやれば、馬は嬉しそうに林檎に食べ始めた。
シャクシャクと小気味良い咀嚼音が響く。
「ブラッシングでもしてやるか」
それから俺は黙々と馬の栗毛をブラッシングしてやりながら、みんなが帰って来るのを待ち続けた。
俺の遺跡調査初日はこうして終わったのだ。
ん?
そこじゃない?
もっと強く?
……慣れてないもんですみません。
馬も結構可愛いと思う作者です(´・∀・)
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は、木曜日を予定しております。




