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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第11章 第2節 アラサー警備員、迷宮に潜る 〜攻略編〜
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第14話 任された留守

前回のお話……支部長激おこ

(シ ゜Д゜)シバく(迷宮主を)

(エ ゜Д゜)シバかれたくない(自分が)

 ―――side:ローリエ―――



 野営地から歩いて数分の場所にわたしはヴィオネさんと一緒に立っています。

 少し離れた所にはローグさん、ディーンさん、トルムさんが固まっており、後方には数人の護衛に守られたユフィーさんが控えています。

 サングリエさんが派遣してくれた動物さん達は各々好きに散らばってもらっています。


「本当に、来るかな?」


「あの支部長が仰るくらいです。きっと来ますよ」


 断言するわたしを見て、ヴィオネさんは微かに表情を曇らせました。


「無理、してない?」


「無理をしているように見えますか?」


 質問に質問で返せば、数秒考える素振りを見せた後、ヴィオネさんは「……少し、だけ」と答えました。

 自分だって心配事はあるでしょうに、わたしのことを気遣ってくれる。

 本当に優しい人です。


「ご心配をお掛けしてすみません。それとありがとうございます。わたしなら大丈夫ですから」


「本当、に?」


「はい、本当に無理はしていません。心配ではありますけど、今は支部長を信じます。それにミシェルもエイルさんもマスミさんだって……わたしの仲間はそう簡単にやられる程ヤワじゃありませんから」


 だから大丈夫ですと言って胸を張れば、ヴィオネさんはようやく表情を緩めてくれました。

 そうです。

 心配だからといって、いつまでも塞ぎ込んでいる場合ではありません。

 地上に残ったわたし達にもやるべきことがあるのですから。



 ―――

 ――――――



 迷宮の入口前に立ち、こちらを振り返ったシャーナ支部長が「それじゃあ留守を任せたよ」と言って、ツバの広いとんがり帽子を被りました。

 彼女はこれから一人で迷宮に潜り、先に潜った調査班、そして迷宮内に転移させられたであろうマスミさんとフェイムさんの救出に向かうのです。


「おう、そっちこそ任せたぜ。もうあんたに頼るしかねぇんだからよ」


「うん、自分で言い出したことだしね。ちゃんと全員無事に連れて帰って来るよ」


 険しい顔のローグさんに頷きを返した支部長は、軽やかな動作で宙に浮いている箒へ腰掛けました。

 一見すると何の変哲もない箒なのですが、普通の箒は勝手に動いたり宙に浮いたりしませんし、穂先から魔力の粒子を放出したりもしません。


「おやおや、みんな随分珍しそうにしているじゃないか。もしかして魔女の自在箒(ヘクセンベレ)を見るのは初めてかな?」


「確かに初めて見ましたけど……」


 珍しそうに見ている人は誰も居ません。

 箒に腰掛けたまま悠然と長い脚を組み、高くなった視点からわたし達を見下ろす支部長。

 たった一人で迷宮へ潜ろうというのに彼女からは一切の気負いが感じられません。

 ローグさん程ではありませんが、誰もが―――ユフィーさん以外―――険しそうな表情や心配そうな表情を浮かべている中、支部長は余裕を見せ付けるように脚を組み直しました。

 ゼフィル教団の幹部を名乗ったエレウ=カーガと対峙した時には冷静さを欠いていたようですけど、今ではすっかり元通りです。


「本当にお一人で向かわれるんですね」


「ごめんね。君達の気持ちは分かってるつもりだし、納得出来ないのも当然だとは思うけど……」


「いえ、仕方ありません」


 わたしだって本当は直接助けに行きたい。

 皆さんだって同じ気持ちの筈です。

 でもそれは許されない。

 だってわたし達では……力不足だから。

 そして力不足の現実をわたし達に教えたのは、他ならぬ支部長です。


 天幕の中で支部長が一人で救出に向かうと告げた際、感情を爆発させたローグさんは反射的に彼女へ手を上げようしました。

 ですが、その拳が振るわれることはありませんでした。

 何故なら―――。


「乱暴な真似をしてごめんね。でもこれが一番手っ取り早く理解してもらえると思ったから」


 ―――ローグさんは無数の火の玉に囲まれ、身動きを封じられていたのです。

 いえ、ローグさんだけではありません。

 ディーナさんとエミール先生を除いた全員が少なくない数の火の玉―――〈小火弾(ファイアショット)〉に取り囲まれていたのですから。


「い、いつの間に……!?」


「誰か一人でも気付けたかな?」


 支部長からの質問に答える声は無し。

 優れた魔術師であるヴィオネさんですら察知出来なかったものを、本職でもないわたし達が気付ける筈もありません。


「これが私と今の君達の差だ。そして迷宮の奥に待ち受けているのは私の同類(魔女)。厳しいようだけれど、今の君達が付いて来ても足手まといになるんだよ」


 どうか理解してほしいと厳かに告げる支部長に反論の声が挙がることはなく、現実を突き付けられたわたし達は内心の悔しさを押し殺し、彼女の指示に従わざるを得なかったのです。



 ――――――

 ―――



「中に潜ったら、私は救出と迷宮の攻略……いや、破壊に専念するから、魔物除けの結界は維持出来なくなると思う。まず間違いなく迷宮の魔力に当てられた魔物が押し寄せて来ると思うから、君達にはその対処を任せたいんだ」


 出発される前、支部長はこのように仰いました。

 わたし達が陣地の外で警戒をしている理由がこれです。

 支部長が迷宮に潜られてから凡そ一時間が経ちますけど、今のところ魔物が攻めて来る様子はありません。


「支部長はどの辺りまで進んでいるのでしょう」


「意外と、もう誰か見付けて、たりして」


「幾らなんでもこんなに早く見付かるなんて」


 有り得ないでしょう……とは言い切れませんね。

 何しろあの支部長です。

 マスミさんやミシェル達をあっさり発見・救出したついで迷宮を踏破し、何事もなかったようにひょっこり帰って来ても驚きません。


「ひょっこり帰って来てもすぐにお迎え出来るようにしておかなくちゃですね」


 左の掌に右の拳をパシッと音を立てて打ち付けるわたしを見て、ヴィオネさんも両の拳をグッと握り、「頑張、る」と気合をアピールしました。

 遮るものの存在しない平地。

 未だ矢も届かない遠くに見える黒い塊。

 土煙を上げながら迫る塊の正体は、迷宮の魔力に当てられた魔物の群れ。


「遂に来ましたね」


 魔物の接近に気付いた他の方々もそれぞれの武器を手に取って構え、緊急事態を告げる鐘の音が野営地に響きました。

 充分な戦力とは言い難いかもしれませんが、戦意は充分過ぎる程に高まっています。


「一匹たりとも通しません」


 皆さんの帰る場所は絶対に守ってみせる。

 決心と共にわたしは自らの手足を〈獣化〉させました。

お読みいただきありがとうございます。

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