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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第11章 第2節 アラサー警備員、迷宮に潜る 〜攻略編〜
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第7話 豪胆にして激烈なる蜥蜴

前回のお話……腕白な蜥蜴さん

(ア ゜Д゜)第一球……投げました!(魔石)

(ミ ゜Д゜)!?

(エ ゜Д゜)腕白〜

 ―――side:ミシェル―――



 迷宮の第三階層に降りて、探索を開始してから三十分は経過しただろうか。

 規模の差は不明だが、構造そのものについては第二階層と大きく変わらないように思える。

 何度か闇の穴の出現もあったが、事前にルジェ殿が察知し、即座に応じたアルナウト殿が魔石を投げ付けることで、一匹も魔物を吐き出すことなく消滅した。

 抜群の連携によって、私を含めた他の者達の出番は一切無く、ヒトミ殿の魔力を温存出来たのも良かったのだが……。


「結果的にだけど、私やっぱり来る必要なかったんじゃない?」


 ヒトミ殿のやる気がどんどん失われていくのが心配でならない。

 魔石も有限だからと言って宥めてはいるのだが、困ったことにヒトミ殿の出番は暫く訪れそうになかった。

 というのも此処へ来るまでに私達はかなりの数の魔物を倒した。

 当然倒した数相当の魔石も転がっていた訳だが、生憎それらに気を払っている余裕も無かった為、勿体無いことに私達は大多数の魔石を放置してきた。

 ところがその放置した魔石、実は動物達が密かに回収してくれていたのだ。

 気が利き過ぎる。

 流石に一つ残らず拾うことは出来なかったようだが、それでも大きめの革袋がパンパンになる程の量だ。

 暫く底を尽きることはないだろう。


「まさか魔石を拾って困る日がやって来るとは……」


「きっと今だけなの〜」


 なんて贅沢な悩み……なのかこれは?

 ちなみに魔石による闇の穴への対処方法についてだが、第二階層(うえ)で使用した魔石は一個だけで済んだものの、第三階層では一度に十個以上もの魔石を消費することになっていた。

 どうやらただ魔石を投げればいいという訳でもないようで、闇の穴を消失させるには魔力が一定量以上込められていなければならないらしい。

 最初に使った魔石は、髑髏騎士(ボーンナイト)から入手した等級の高い魔石―――即ちより多くの魔力を内包していたおかげで、一個でも闇の穴を消失させることが出来たものの、以降に使った等級の低い魔石にはそれ程多くの魔力が籠められていなかった為、複数個纏めて消費する羽目になったという訳である。


「予め罅を入れて、魔力を漏れ易くしておくのがコツである」


 と言って、アルナウト殿は二本の指で摘んだ魔石を簡単に割ってみせてくれた。

 多分そのコツは迷宮(ここ)でしか役に立たない。

 そもそも魔石は普通の石よりも硬い為、そんな簡単に割れるものではないのだが……。


「エイル、割れそうか?」


「自信無〜い」


「僕も絶対に無理です」


「私はどうだろう。頑張れば出来そうな気もするが……ミランダとミシェルなら普通に割れるんじゃないか?」


「出来るとは思うが……」


「あそこまで簡単にはいかないと思います」


 蜥蜴人(リザードマン)としての身体能力の高さ故か、それともアルナウト殿が特別なだけなのか。


「どちらにしても指の力だけで魔石を割るなんて芸当、私には真似出来そうにないな」


「出来そうだけど〜」


「何か言ったか?」


「なんにも〜」


 ジロリとエイルを睨み付けてやったが、彼女はまたもや露骨に顔を逸らして私と目を合わせようとしなかった。

 何度も人をイジッて遊ぶな。


「あ、蜥蜴の旦那ぁ。そろそろ次のが来るかも」


「むっ、承知した。だが蜥蜴呼ばわりは止めてほしい」


 などと言っている間に通路の先に出現した闇の穴目掛けて、アルナウト殿が十数個もの魔石を一気に投げ付けた。

 一個一個投げるのが面倒臭くなったのだろう。

 魔石は外れることなく全て闇の穴に呑み込まれ、数秒と待たずに形状を激しく変化させた後に闇の穴は消失した。

 また出番が無かった。


「……」


「……」


 無言で見詰め合う私とジュナ殿。

 口には出さずとも、お互いの考えていることは分かる。

 次に鞘から剣を抜くのはいったいいつだろう、と。

 そんな私達を見て何かを察したのか、まるで取り成すように「ま、まぁまぁ、何が起きるかも分かりませんし、体力は温存しておきましょうよ」と言って、ドナート殿が間に入って来た。

 別に揉めてなんていないぞ。


「なんだか嫌な感じ」


「ヒトミちゃん?」


 私の少し後ろを歩くヒトミ殿が小さく漏らした声にエイルが耳聡く反応した。

 後ろを見やれば、ヒトミ殿は僅かに顔を顰めながら、周囲に視線を飛ばしていた。


「何かぁ、気になることでもあるの〜?」


「気になるって言うか、なんかお約束のパターンがありそうで」


「お約束とは何のことだ?」


「えっと、私や深見さんが元々住んでた世界の漫画やアニメ……ってか創作物? そういったお話の中だと、今みたいに楽勝な展開が来るのって、大体良くないことが起きる前触れみたいな場合が多いから嫌だなぁと思って」


 そう言ってヒトミ殿が溜め息を吐いた直後、「あ、ヤベッ」という焦りを含んだルジェ殿の声が届いた。


「どうしたルジェ」


「あ、あぁぁ……っとねぇ」


 ジュナ殿からの問い掛けに暫し言い淀んだ後、ルジェ殿は「挟み撃ちされちゃった」と言って、手を合わせた。

 そうか、挟み撃ちに……って。


『挟み撃ち!?』


 私も含めた複数人の声が重なって迷宮内に反響した矢先、私達を挟み込むように大型の闇の穴が二つ同時に出現した。

 これまで目にしてきたものとは比較にならない程大きな闇の穴にアルナウト殿が魔石を、ヒトミ殿が魔術をそれぞれぶつけたものの、何の変化も見られなかった。

 どうやら生半可な魔力では打ち消すことが出来ないようだ。


「フンッ、丁度退屈していたところだ」


「姉さんはまたそんなことを……」


「大型の出現が予想されます。皆さん注意を」


 下がるルジェ殿と入れ替わるように大盾を前面に構えたミランダ殿が前に出れば、両手に双剣を握ったジュナ殿が彼女の斜め後ろに付いた。

 二人をフォローする為か、鹿と犬がジュナ殿の左右に並んだ。

 前の敵は一旦彼女達に任せて、私とアルナウト殿で後ろの敵を抑えよう。

 鞘から〈ロッソ・フラメール〉を抜く私の隣に狸が並び、上空を鷹が旋回する。

 エイルには遊撃で自由に動いてもらい、ルジェ殿と魔術師二人を中央に配置した陣形が完成したのとほぼ同時に闇の穴から魔物が出現した。

 穴のサイズに見合った巨大な姿。

 まるで這いずるように……否、文字通り這いずりながら現れた魔物の姿を目にした瞬間―――。


『イヤァァァァアアアアアアアアアア―――ッッ!!』


 ―――ルジェ殿を除く全女性達の悲鳴が響き渡った。

 まるで生き物の腸を思わせるような赤黒い胴体。

 目も耳も存在しない頭部には、大きく円形に広がった口が備わっており、口腔内には無数の牙が生え揃っている。

 万が一にも捕まれば、そのまま全身を擦り潰されてしまいそうだ。

 闇の穴から出現した巨大生物。

 その正体は巨大なミミズの如き姿をした魔物だった。


「も、もしかしてオルゴ・コルコイですか?」


「ふむ、普通はもっと乾燥した地域に生息しているものだが、珍しいな。実に食いでがありそうだ」


「あんなもの食うな!」


「どうかしてるの!」


 目の前の化け物を食料扱いするアルナウト殿の正気を疑ってしまう。

 オルゴ・コルコイと呼ばれた魔物はかなりの巨体だったが、単純なサイズだけなら、以前セクトンの街で戦った巨大蛇(フェルデランス)の半分にも満たないだろう。

 問題なのは奴の見た目……気持ち悪い!

 もう何がどうなっているとか形容すらしたくないし、そもそもおぞましくて口に出したくない。

 斬れるとは思う。

 でも絶対に近付きたくない!


「ちょっとッ、今まで蛇とか似たようなの相手にしたことあるでしょ!?」


「蛇と一緒にするな!」


「少しは乙女心を理解して下さい!」


「だからモテないのよ!」


 みんなを鼓舞するつもりで声を上げるドナート殿だったが、逆に物凄い反撃を喰らってしまった。

 普段ならばいざ知らず、今回ばかりは彼が悪い。

 それとこれとは別問題なのだ。

 しかしヒトミ殿は何を根拠にモテないと?


「いやー、これちょいマズくない? どうしよ蜥蜴の旦那」


「蜥蜴と言うのは止めてほしい。ふぅむ、女子(おなご)らが戦えそうにない以上、他が頑張るしかあるまい」


「他って旦那らと動物達?」


「なぁに、この程度なら自分一人で充分よ」


 久し振りにこいつも使ってやりたいしなと言って、アルナウト殿は懐から一本の牙を取り出した。

 ナイフというより最早山刀を思わせるような形状とサイズを有する大振りの牙。

 明らかに普通の獣ではなく、超常の生物より得られたと思しきその牙は、アルナウト殿の手の中で形を変えながら大きくなっていき、あっという間に彼の身の丈に匹敵する巨大な刀へと変化した。


「我らが祖竜より賜りし牙、その身でとくと味わうがいい」


 巨大化した牙―――牙刀(がとう)とでも称すべき武器を大上段に構えたアルナウト殿は、ズルズルと緩慢な動作でこちらに近付いて来るオルゴ・コルコイの一匹に向けて渾身の一撃を見舞った。


「カァァアアアアアアアアアアッ!!」


 獅子吼が如き叫びと共に振り下ろされる牙刀。

 大気は暴風のように激しくうねり、地面は斬撃の軌道に沿って地割れを起こしていく。

 剣閃と呼ぶには余りにも荒々しい破壊の波。

 激烈なる蜥蜴人(リザードマン)の牙は、ただの一太刀を以ってオルゴ・コルコイの巨体を真っ二つに両断せしめた。

お読みいただきありがとうございます。

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