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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第11章 第1節 アラサー警備員、迷宮に潜る 〜探索編〜
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第36話 夢で聞いた声

前回のお話……最深部に向かう謎の魔力

(ル ゜Д゜)なんか変なの見えた

(ミ ゜Д゜)ドキドキ

 開長50センチを超える蛾の魔物―――毒粉蛾(ポイズンモス)が大きく羽ばたきながら上空を旋回している。

 巨大蛾の翅が動く度にキラキラした白い鱗粉が、まるで粉雪のように降り注いできた。


「その鱗粉は猛毒です! 絶対に吸い込んではいけません!」


「分かってる!」


 フェイムからの警告を待つまでもなく地面を蹴って毒鱗粉を回避した俺は、構えていた散弾銃(ショットガン)の銃口を素早く上空に向け、鱗粉を降らせてくれた毒粉蛾(ポイズンモス)を狙って発砲した。

 点ではなく面のように広がった球形の散弾が着弾し、毒粉蛾(ポイズンモス)の全身が穴だらけになった。

 力を失い、落下しながら魔力の粒子へと還っていく毒粉蛾(ポイズンモス)には目もくれず、俺は次なる個体に狙いを定めて引き金を引いた。

 その名が示す通り毒粉蛾(ポイズンモス)の武器は、強い毒性を秘めた鱗粉。

 奴らが撒き散らす鱗粉は、肌に触れただけでも焼けるような痛みに襲われ、痛みが引いた後も暫くの間は強い痺れに苛まれる。

 当然、体内に入ればもっと危険で、少量でも一定時間は体の自由が利かなくなる。

 誤って大量に吸い込もうものなら命を落とし兼ねない程に危険だが、逆を言えば唯一の攻撃手段である毒鱗粉にさえ気を付ければ、毒粉蛾(ポイズンモス)は然したる脅威ではない。

 何しろ鱗粉に毒が有ることを除けば、普通の蛾と殆ど変わらないのだ。

 むしろ胴体や翅がデカい分だけ狙い易い為、俺から見れば良い的でしかなかった。


「有り難いこった!」


 続けて三匹、四匹目にも散弾を喰らわせてやれば、ショットガンはすぐに弾切れとなった。

 素早く実包の再装填に取り掛かる俺の横を一陣の風が吹き抜けた。

 風の正体は、大小二振りの剣を握ったフェイム。

 ほんの一瞬だけ左右の剣がブレたように見えた直後、周囲を飛び交っていた毒粉蛾(ポイズンモス)が全てバラバラに斬り刻まれていた。

 相変わらず速過ぎて剣の軌道が見えない。


「もう俺の出番無し?」


『というか最初から必要無かったやもしれん』


「思ってても言ってくれるな」


 戦闘中に何を馬鹿な会話をと思われるやもしれんが、フェイムの動きに合わせて次々と蛾の細切れ死骸が生み出されていく光景を目にすれば、そんなことも言いたくなるだろう。

 俺がこれ以上実包を消費する必要は無さそうだ。

 フェイムの斬撃は毒粉蛾(ポイズンモス)だけに留まらず、供給源たる闇の穴にも及び、通常の物質とは異なる存在を苦も無く斬り裂いてみせた。

 魔力を直接ぶつければ、闇の穴にも干渉出来ると支部長は言っていた。

 蜥蜴人(リザードマン)の祖竜―――猛勇なる地の竜(ジュラディノス)の牙が変化した剣には魔力が宿っている為、闇の穴を直接攻撃することが可能なのかもしれない。

 程無くして蛾の群れを全滅させたフェイムが戻って来た。


「お疲れ様。フェイムも剣もキレッキレだな」


「キレッキレ……ですか?」


 動きはキレッキレだし、刃も斬れッ斬れという謎掛け的な意味合いを込めたつもりだったのだが、全然伝わらなかったどころか、怪訝そうにされる始末。

 なんだか急に恥ずかしくなってきた。

 胸元からニースの『出来もせんのに上手いことを言おうとするからじゃ』という多分に呆れを含んだ声が届いた。

 グゥの音も出ない。

 でもそこまで言わなくてもよくない?


「これ以上の出現は無さそうですね。今の内に移動しましょう」


「あいよ」


 実包の装填を終えたショットガンを空間収納の中へしまい、フェイムと共に移動を再開する。

 俺とフェイムが合流してから既に一時間以上経過しているが、未だに上の階層へ続く階段を見付けられずにいた。

 その間に起きた戦闘は全部で三度。

 最初と二度目は百足の魔物。

 そして三度目は先程の毒粉蛾(ポイズンモス)の群れだったが、その殆どはフェイムの手によって倒されている。


「フェイムが一緒に居てくれて本当に助かったよ。俺一人じゃ今頃どうなってたことか」


「そんなことはないと思いますけど」


 そんなことがあるから言っているのだ。

 現にフェイムと合流する前の俺は、かなり危険な状況に追い込まれていた。

 彼女の介入が無ければ、本当に魔物に餌になっていたかもしれないのだ。

 どれだけ感謝しても足りないくらいだろう。

 何より心細くない。


「喉渇いてない? あ、それか甘い物いる? ドライフルーツならすぐ出せるけど」


「い、いえ。そこまで気を遣っていただかなくても大丈夫ですから」


 おかしい。

 どうにも感謝の念が伝わらない。

 というかさっきから全然コミュケーションが上手くいかないぞ。


「何故だ?」


『露骨に擦り寄るからじゃろ』


「言葉だけじゃ伝わらないと思って」


 取り敢えずフェイムに受け取ってもらえなかったドライフルーツは、肩の上のレイヴンくんとシマリスに上げた。

 それぞれクランベリーとブルーベリーによく似たものを美味そうに囓っている。


『我には?』


「はいはい、好きなのどうぞ」


 掌の上に幾つかのドライフルーツを乗せ、胸ポケットから顔を出したニースの前に差し出してやる。


『うーむ……これじゃ』


 と言ってニースがキウイに似たドライフルーツを手に取るのと……。


 ―――あーあー、聞こえてますかー?


 という呼び掛けが聞こえたのは同時だった。

 フェイムではない。

 彼女は急に足を止めた俺を不思議そうに見ている。

 現実で耳にした訳ではない。

 だが確かに聞き覚えのある女性の声。

 頭の中に直接響いてきた今の声の主は……。


「まさかお前……不審者か?」


 ―――だからいい加減不審者呼ばわりは止めて下さい。


 やはり頭の中に直接不満を訴えてきた声は、夢の中で俺に干渉し、警告を与えてきた人物。

 顔も名前も未だに知らない正体不明な女の声だった。

お読みいただきありがとうございます。

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