第23話 探索難航
前回のお話……探索再開
(エ ゜Д゜)道が変わってる〜
(ル ゜Д゜)メンドくさ
―――side:エイル―――
新たなメンバーを加えて再開した迷宮探索。
潜ってからもう二時間は経過する筈だけど、進捗状況は決して順調と呼べるものではなかったの。
二日前までほぼ一本道だった第一階層の構造が大幅に変化してしまった所為で、改めて地道に探索を進めなければいけなくなったの。
道の分岐も増え、行き止まりになっている箇所も少なくなかったけど、幸いルジェちゃんが同行してくれているおかげで、マッピングに関してはかなり詳細に書き記すことが出来ているの。
そして探索の進行を妨げている、もう一つの要因が……。
「すみません! 一匹抜かれました!」
「フォローするの〜」
盾を正面に構えたミランダちゃんの脇を抜け、後衛の方に向かおうとした蝙蝠のような羽と尖った尻尾を持つ小型な悪魔―――インプを狙って、わたしは素早く矢を放ったの。
風を切り裂く鏃は額を射抜き、インプは地面に落下して動かなくなったの。
そう、変化したのは迷宮の構造だけではなく、魔物の出現と遭遇率もなの。
「あと何匹だ!?」
「残りは十匹足らずだ。一気に片付けるぞ!」
わたし達はインプの群れによる挟撃を受けているの。
分岐の無い道の前後を塞がれてしまった為、群れを蹴散らさなければ、この場から逃げることも出来ない。
ヒトミちゃん、ドナートくん、ルジェちゃんを中心に配置し、前方をミシェルちゃんとアルナウトさん。
後方をジュナちゃんとミランダちゃんに防いでもらいつつ、わたしがそれぞれのフォローに回る。
数が多い上にインプは空も飛べるから、さっきみたいに前衛が抜かれてしまうこともあるけど、そこはわたしの頑張りどころなの。
それに前衛を支える為に頑張っているのは、わたしだけではないの。
「GYAッ!?」
前衛の手が届かない天井スレスレを飛んできた一匹のインプだったけど、自身を遥かに上回る速度で飛行する鷹の鉤爪によって片方の羽を引き裂かれたの。
飛行する力を失って墜落するインプを待ち受けていたのは、牡鹿の枝角。
ミシェルちゃんの〈ロッソ・フラメール〉と打ち合っても傷一つ付かなかった強度は伊達ではなく、大きく振るわれた角の一閃は、インプの矮躯を真っ二つにしたの。
更にみんなの足元をすり抜けるようにして走る犬が別のインプの脚に噛み付き、動きを封じられたその個体を狙って、狸が圧縮された風を弾丸のように放ったの。
わたしが一番得意とする魔術―――〈風撃〉によく似た攻撃は悪魔の胴体に命中。
吹き飛ばされたインプは壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちてしまったの。
「す、凄いですね」
「なの〜」
ドナートくんの発言に同意するの。
このようにサングリエさんが応援に寄越してくれた動物さん達が大活躍しているの。
わたし達には及ばないくらいの実力だってサングリエさんが言ってたらしいけど、彼らメッチャ強いの。
個々の能力も充分高いんだけど、何より連携が上手くてインプ程度じゃ全く相手にならないの。
こっちが指示を出さなくても的確に動いてくれる。
前衛のみんなに言ったら怒られそうだから黙っておくけど、おかげでわたしはとってもラクチン……なんて動物さん達の働きに感心してる場合じゃないの。
「わたしもお仕事しなきゃ〜」
という訳でまたも上空から前衛を躱そうとしたインプを先んじて射落としてやったら、何故か鷲さんからジロッと睨まれたの。
自分で仕留めたかったのか、ちょっと不機嫌そう。
変なところで対抗意識を燃やされても困っちゃうの。
そんな感じでやる気満々の動物さん達の頑張りの甲斐もあり、程無くインプの群れは全滅。
十分程の小休止を取った後、探索を再開したんだけど……。
「んー?」
先頭を歩いていたルジェちゃんが訝しむような声と共に足を止め、地面や壁を杖の先端で叩き始めたの。
何度か叩いた後、ルジェちゃんは少し疲れた様子で「駄目。この先も行き止まりになってる。引き返そっか」と告げ、さっさと踵を返してしまったの。
ルジェちゃんの後を追うようにみんなも来た道を引き返したけど、誰も彼女に不満を訴えるような真似はしなかったの。
構造変化の影響で、さっきみたいに行き止まりに当たって引き返すことが増えたの。
でもルジェちゃんが居てくれるおかげで早い段階で気付き、いたずらに体力と時間を浪費せずに済んでいるの。
今一番頑張ってくれているのは間違いなく彼女だし、思うように探索が捗らなくて一番歯痒い思いをしているのもきっと彼女。
やる気の無さそうな言動とは裏腹に、ルジェちゃんは自分の役目を全うしてくれているの。
「少しだけぇ、マスミくんに似てるかも〜」
「……何処がだ?」
「やる時はやってぇ、やらない時はぁ、とことんやらな〜い」
「いや、そんなことは―――」
ないだろうと言い掛けたミシェルちゃんだったけど、途中で言葉に詰まってしまったの。
否定しようと思ったけど、思い当たる節があったんだよね。
マスミくんはオンとオフが激しいから。
―――その時の真澄―――
「は……はぁッ……はくしょい!」
「風邪ですか?」
ーーーーーー
ーーー
「や、やっぱり似てない。マスミはもっと……もうちょっとだけ真面目……の筈だ」
「フォローになってな〜い」
ちょっとじゃ大して変わらないと思うって指摘したら「喧しい!」って返されたの。
理不尽なの。
「そ、そんなことより今は探索だ。何が起こるか分からんのだから、目の前のことに集中―――」
「ルジェ!?」
誤魔化すように捲し立てようとしたミシェルちゃんの声をジュナちゃんが遮ったの。
強い焦りと驚きを含んだ声に振り向けば、先頭を歩いていたルジェちゃんが地面に膝を突いていたの。
慌てて駆け寄って見た彼女は呼吸を大きく乱し、額には玉のような汗が浮いていたの。
普段の飄々とした言動からはかけ離れた今の姿に、誰もが驚きを隠せなかったの。
「ルジェ、大丈夫か?」
「立てそうですか?」
ジュナちゃんとミランダちゃんが手を貸そうとしたけど、ルジェちゃんは「あー、平気平気。別に体調不良とかじゃないから」と言って断ったの。
確かに声音そのものは普段と変わりなさそうだけど……。
「クソッ、鬱陶しいなぁ……ったく」
煩わしそうに髪をかき上げて毒づいた後、ルジェちゃんは傍に落ちていた杖を拾い、自力で立ち上がったけど、少しフラフラしていたの。
やっぱり何処か悪いんじゃ……。
「ほら見たことか。無理をするな。今日はもう引き返そう」
「だから平気だって。多分もうちょいしたら慣れ―――ッ」
ミシェルちゃんの提案を固辞するルジェちゃんだったけど、今度は突然目を抑えて蹲ってしまったの。
食い縛った歯の隙間から漏れる微かな呻きは、苦痛に耐えている何よりの証。
どう見たってまともな状態じゃないの。
「ルジェちゃぁん、やっぱり無茶だよ〜。そんな状態で探索を続けるのはぁ、危険なの〜」
「ウ、チのことは……ッ……いいから、全員早く……構えて。もう―――」
囲まれてるとルジェちゃんが告げた直後、わたし達を取り囲むように大量の闇の穴が出現したの。
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