第19話 人ならざる助っ人
前回のお話……霊獣通信
(ウ ゜Д゜)プヒプヒ(聞こえる?)
(真 ゜Д゜)野太い声が……
「ということがあった訳よ」
―――そちらの状況は把握した。
―――負傷した者は居ないのか?
「何人か怪我はしたけど、みんな軽傷で命に別状はないからそんなに心配要らないよ」
―――それは何よりだ。
音ではなく、頭の中に直接響く男の声―――思念による会話。
顔は見えずとも対話の相手が安堵する気配が伝わってきた。
声の主は俺の腕に抱かれたまま大人しくしているウリ坊……ではなく森に帰った筈のサングリエ。
眷属であるウリ坊を通すことで、たとえ離れていても俺達の言葉をサングリエに届けられるとは聞いていたけど、まさかリアルタイムで双方向のやり取りが可能だとは思わなかった。
迷宮の異変―――タイミング的に迷宮が暴走し始めた時―――を敏感に感じ取ったサングリエがウリ坊に思念を飛ばしてコンタクトを取ってきたという訳だ。
いきなりサングリエの声が頭に直接届いた時は流石に驚いたけど、彼なりに俺達の身を案じて連絡を寄越してくれたのだ。
相変わらず見た目に反して心優しい霊獣様よ。
風呂と焚き火で絶賛身体を温め中のメンバーはそのままに、それ以外の面子と一緒に指揮所へ移動した後、迷宮内で起きた異変と魔物の襲撃があった旨をサングリエにも伝えた。
情報共有を終えてサングリエが出した結論は、当面の間は勝手に動くことなく、俺達に迷宮の対応を任せてくれるとのことだった。
「取り敢えずこっちはそんな感じだからさ。もうちょい調査を続けてみるよ」
―――承知した。
「悪いね。サングリエの力を信用してない訳じゃないんだけど……」
―――いや、慎重な判断は間違っていない。
―――我の方こそ軽率が過ぎた。
―――反省している。
真面目くさった声と共に申し訳無さまで伝わってきた。
本当にクソ真面目な性格をしている。
サングリエの良いところではあるんだけど、気疲れしたりしないのかな?
「マスミくん、サングリエ殿は何と?」
「心配になったから連絡くれただけで、基本俺らに任せてくれるみたいです」
独自の技術でサングリエとの意思疎通を可能にする支部長だったが、どうやらウリ坊を介した場合だと指定した対象一人にしか思念は伝わらないらしい。
その為、改めて俺の口からみんなに説明し直さなければならないのだ。
正直ちょっと面倒臭い。
「調査を続けるのは構わんのだが、マスミと支部長についてはどうするつもりなのだ?」
当然と言えば当然なジュナの疑問に対して、支部長は然して考える素振りも見せずに「待機だろうね」と答えた。
「確定ではないけど、可能性が有るのは確かだ。様子見も兼ねて私とマスミくんは、調査メンバーから一旦抜こうと考えてる」
「そうなると編成も見直す必要が有りそうだな」
「いえ、それだけでは不充分でしょう」
厳しそうな表情を浮かべたミランダが「迷宮の異変に対抗する為の手段が必要です」と告げれば、ドナートも「そうですよね」と頷いた。
「僕達は実際に見てないから実感が湧きませんけど、報告にあったようなことがまた起きた場合、どうやって対処すればいいのか……」
僕達だけでは手に余ると思いますと不安げなドナートの頭を「そんな弱気でどうする」と引っ叩くジュナ。
ドナートが弱気なのは今に始まったことじゃないけど、彼の心配は尤もだ。
俺達が今もこうして無事でいられるのは、結局のところ支部長が同行してくれたからに他ならない。
無尽蔵に湧いて出て来る大量の蔓と魔物の大群。
果たして支部長抜きで対応出来るだろうか。
「アレを相手取るならぁ、火力が必要なの〜」
今の面子で魔術が使えるのはローリエ、エイル、ヴィオネ、ドナートの四人。
火力だけなら足りてるかもだが、支部長程の多彩な魔術は期待出来ないし、技術や魔力量に関しては雲泥の差が有る。
これは支部長が規格外過ぎるだけで、決して四人が未熟という訳ではない。
「一度や二度ならともかく、何度も防ぐのは厳しいよなぁ」
「おまけを言うならぁ、わたしとローリエちゃんはぁ、本職の魔術師じゃないの〜」
「撃てる弾数も限られてるか」
アルナウトの音波攻撃……は駄目だな。
敵だけではなく、味方にまで甚大な被害が及んでしまう。
遮蔽物の無い屋外ですら、一時的とはいえ聴覚が使い物にならなくなったのだ。
迷宮内でやられようものなら、まず間違いなく一発で鼓膜が破れるだろう。
「アルナウトは何があっても前衛に専念してくれ。それが一番有り難いし、何より安心出来るから」
「元よりそのつもりだが?」
怪訝そうに首を傾げるアルナウトの隣では、フェイムが恥じ入るように顔を俯かせながら「すみません。本当にすみません……」と小さく呟いていた。
俺が本当は何を言いたかったのか、当人には全く伝わらなかったものの、彼女にはしっかり伝わったらしい。
「前衛は充分足りてるから、やっぱり後衛だよな」
『こうして考えてみると純然たる魔術師というのは案外貴重なのやもしれぬな』
「他は知らんけど、冒険者にとってはそうかもな」
実際ギルドで見掛ける冒険者の約八割は、斥候や遊撃、前衛職ばかり。
後衛の、特に魔術を扱える者の数は驚く程に少ないのだ。
高望みだと分かってはいるが、何処かにヴィオネやドナートレベルの魔術師は居ないものだろうか。
「なんてそんな都合の良いこと―――」
有る筈がないと言い掛けたところで、俺は未だ気絶から目覚めない長瀬さんのことを思い出した。
都合の良い人物がすぐ近くに居たよ。
体力面に不安はあるものの、単純な魔力量なら支部長を除いた面々の中ではぶっちぎりのトップだ。
迷宮に潜るなんて彼女はきっと嫌がるだろうけど、割りと非常事態だからしょうがないよね。
「本人に確認は~?」
「知ってる? 世の中には事後承諾っていう素敵な言葉があるんだぜ」
「マスミくんったらぁ、悪い人~。でもそこに痺れる~。憧れる~」
「誉め言葉をどうもありがとう」
全然嬉しくないけど……。
「ごねるようなら支部長から命令してもらうとして……」
「私の意思は無視かな?」
支部長も割りと人の意思を無視する時があるので、お互い様である。
取り合えず一人は確保したけど、出来ればもう一人か二人くらい助っ人は欲しいところだな。
とはいえ流石にこれ以上は無理だろうと諦め掛けた時……。
―――マスミ。
サングリエの思念が届いた。
そういえばウリ坊を抱っこしたままだった。
「悪い。口に出してたかな?」
―――構わん。
―――してマスミよ、人手が足りぬのか?
「んー、まぁぶっちゃけ足りないかも」
サングリエに隠し事をしても意味が無いので正直に告白したところ、すぐに応答はなく、何故か考え込んでいるような気配が伝わって来た。
「サングリエ?」
―――それは人でなければ駄目か?
「ん、んん? 何のこと?」
―――何とかなるやもしれん。
―――暫し待たれよ。
「いやちょっとサングリエさん? さっきから何言ってんの?」
何度か呼び掛けるも応答の声は無く、サングリエとの交信は途絶えてしまった。
サングリエの意図が分からずに首を傾げる俺達だったが、その答えは最後の交信を終えてから二時間近く経った頃に判明した。
「マジでいったい何が起きてんだ……」
―――見知らぬ動物達が野営地の近くに集合していたのだ。
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