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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第11章 第1節 アラサー警備員、迷宮に潜る 〜探索編〜
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第10話 第二階層 ~異変と撤退~

前回のお話……蔓がワラワラ

(真 ゜Д゜)なんじゃこりゃ!?

 ―――side:ローグ―――



 第一階層を最短ルート―――つってもほぼ一本道―――で進みながら一時間以上も経った頃、俺達は第二階層へ降りる道に到着した。

 此処に来るまでに遭遇した魔物はゴブリン一匹だけ。

 罠の一つも無けりゃ、道に迷うような心配もねぇ。

 こりゃ確かに肩透かしもいいとこだわ。

 今なら不貞腐れてたジュナの気持ちがよく分かるぜ。

 おまけにこの道も入口と同じように階段になってやがる。


「ハッ、気が利くじゃねぇかよ」


「ま、歩き易い分には別にいいじゃないっすか」


 トルムが軽い調子で言えば、ヴィオネも同意するように「足場、悪いの嫌」と頷いた。


「だったらそんな踵の高いブーツ履くんじゃねぇよ」


「冒険者だって、お洒落は、大切」


「いや、冒険者ならお洒落より優先するもんがあんだろ」


 とはいえこれで不思議とコケたりはしねぇんだよなぁ。

 なんでヴィオネの奴は、こんな歩き難そうなの履いてて普通に動けるんだ?


「女子、力」


「ぜってぇ(ちげ)ぇだろ」


 ミシェル嬢ちゃん達みたいな女友達が増えて、前より活き活きしてんのは構わねぇんだが、なんか色々と間違ってるような気がするのは俺だけか?


「楽しそうにお喋りしてるところを邪魔して悪いんだけどさー。そろそろ降りてもいいかな?」


「別に楽んじゃいねぇが、分かった。トルムはルジェの後ろだ。ディーン、殿(ケツ)は任せるぜ?」


「あいよ」


「ん」


 階段を降り始めたルジェの後からトルム、俺、ヴィオネ、ディーンの順番で続く。

 入口の階段と同じくらいは降りたかもしれねぇ。

 辿り着いた第二階層は、如何にも洞窟然とした第一階層から大きく様変わり……してるなんてことはなかった。

 剥き出しの岩肌。所々に生えた光る茸や苔。

 強いて違いを挙げるとすりゃ、第一階層より幾らか道の幅が広くなったってくらいか。

 最後のディーンが階段を降り切ったところで、ルジェは杖の先で地面を二、三度軽く叩いた後、耳元でパチンと指を鳴らした。


「本当にそんなんで分かんのか?」


「シーッ、ちょっと黙ってて」


 少し苛立った感じで唇の前に人差し指を立てたルジェは、また杖の先で地面を何度か叩いた。

 音の反響で周囲の情報を拾ってるって話だったが、俺には未だにピンとこなかった。

 試しに目を閉じてみたって、すぐ近くに居る仲間達の気配以外、周りのことなんざ何も分かりゃしねぇ。


「……ん、こんなもんかな。それじゃ行くよー」


 ウチに付いて来たまえ諸君と言って勝手に歩き出したルジェの後ろを、階段を降りて来た時と同じ順番で付いて行く。

 デカい一本道を歩いて数分、風景は全く変わらなかった。


「また期待外れとか思ってます?」


「思っちゃ(わり)ぃかよ」


 ジュナ程じゃねぇが、俺だって初めての地下迷宮(ダンジョン)に結構期待してたんだよ。

 なのにいざ潜ってみりゃこの有り様だ。

 流石に不貞腐れたりはしねぇが、文句の一つくらいは言いたくなるってもんだ。


「何を期待してたのかは知らないけど、出来たばっかの迷宮なんて何処もこんな―――ッ」


 淡々と先頭を歩いていたルジェがいきなり足を止めて、何かを警戒するようにあちこちに視線を飛ばした。

 つっても目は閉じられてるから何も見えねぇ筈なんだけど。


「おいルジェ、何やってんだよ?」


「……ねぇ、お兄さん達の内の誰か、あるいは全員呪われてたりする?」


「はぁ? お前マジで何言ってんだ?」


 人から呪われる程の恨みなんざ……もしかしたら買ってるのかもしれねぇが、少なくとも今は呪われちゃいねぇ。

 俺以外の面子もそんな筈はないって首を横に振ってらぁ。


「呪われてるんじゃないとしたら、やっぱりこの迷宮がおかしいのか、それとも別に原因があるのか……はぁ、今考えたってしょうがないか」


「おい、さっきからなんなんだ。俺にも分かるように説明してくれや」


「説明するのは難しいっていうか、ぶっちやけウチにも何が起きてんのかは分かんない。だから取り敢えず全員武器構えといて」


 死にたくないならねとルジェが告げた直後、岩壁の一部が大きく開き、俺達の前に闇の穴が現れた。


「こいつが報告にあったヤツか……!?」


「ん!?」


 上の階層で遭遇したゴブリンは普通に徘徊してたのを倒しただけだったから、今初めて魔物が出て来るっていう穴を見たことになる。

 驚く俺達を余所に穴の中から一匹のゴブリンが耳障りな奇声を上げながら飛び出し、直ぐ様襲い掛かって来たが……。


「GI―――」


「うるさい」


 ルジェの前に立った次の瞬間、音も無く空中に銀閃が疾り、ゴブリンの首は宙を舞っていた。

 ゴブリンの首を刈り取った銀閃の正体は、ルジェの手に逆手で握られた鍔の無い細身の直剣。

 さっきまで無かったのに、あんなもん何処から出しやがったんだと思っていたら、ルジェは「ゴブリンの相手は耳が痛くなるから嫌いだよ」と言って、刃を鞘―――杖に納めた。


「アレ、ただの杖じゃなかったんすね」


「仕込み杖……剣杖(ソードケイン)ってヤツか。初めて見たぜ」


「ん」


 動いてる相手の首を正確に狙うのは、ましてや一発で斬り飛ばすなんて簡単なことじゃねぇ。

 盲目っていうデカいハンデを抱えてるにも関わらず、ルジェはそれを難無くやってのけた。


「ちょっと何ボサッとしてんのさ。まだ終わってないよ」


「悪ぃなルジェ。どうやら俺はあんたのことを見くびってらしい」


「そんなのどうでもいいから。ほら次来るよ」


 ルジェが指差した先、今度は二つの穴が出現するのを確認した瞬間、俺とディーンは同時に駆け出した。


「言われるまでも……ねぇ!」


「ぬぅ……ん!」


 二つの穴からまたゴブリンが出て来たが、俺とディーンは相手に反応する間を与えることなく、一撃で子鬼共を仕留めた。

 敵を倒したと一息つく間も無く、ルジェの口から「今度は後ろ!」という警告が飛んだ。

 振り向けば、後方には新たな二つの穴が既に出現し、今にもゴブリンが這い出て来ようとしてやがった。


「シッ!」


 誰よりも早く反応したのはトルムで、振り向き様に投擲したナイフが二匹のゴブリンの身体に刺さり、先手を封じることに成功した。


炎槍(フレイムジャベリン)!」


 トルムの牽制で稼いだ数秒の間に呪文の詠唱を終えたヴィオネがトドメの魔術を放つ。

 炎の槍に貫かれたゴブリンは呆気なく爆散して俺の前から姿を消したが、安心してる暇は無さそうだった。


「ルジェッ、こいつはどうなってんだ!」


「だからウチにも分かんないってば! そんなことよりまたすぐ次が来るよ!」


「チッ、しゃあねぇ。撤退するぞ!」


 碌に探索出来ちゃいねぇが、そんなことを気にしてる場合じゃねぇ。

 今は出て来る魔物がゴブリンだけだからなんとかなっちゃいるが、もっと強力な魔物が出て来たら、数に押されてすぐに対処出来なくなる。

 囲まれる前に逃げるしかねぇ。

 幸い反対するような命知らずは一人も居なかった。


「トルム、今度はお前が先に行け。その次にヴィオネとルジェだ。殿(ケツ)は俺とディーンでやる。後ろ振り返んなよ。とにかく走れぇ!」


 俺の声を合図に、全員来た道を全力で引き返した。

 マスミ達は無事か?

 脳裏をよぎった不安を振り払うように、俺は穴から出て来たゴブリンの脳天に剣の一撃を見舞った。

お読みいただきありがとうございます。

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