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第24話 迷宮調査隊 〜集合〜

前回のお話……呑み比べ敗北

(真 ゜Д゜)ガクッ

(ル ゜Д゜)あっちー

 民主主義の大原則たる数の暴力―――多数決によって決定してしまった迷宮調査。

 参加させたいメンバーにアポを取るから連絡を待ってくれと支部長に言われて早三日。

 ようやく支部長からギルドに来てほしいとの連絡が届いた訳だが……。


「マスミ、本当に大丈夫なのか?」


「……正直だいじょばない」


「なんでそんなになるまで呑んじゃったんですか?」


「だから……初対面の目が悪い人に勝負を持ち掛けられて、全員仲良く潰されたんだって」


「意味不明なの〜」


「俺だってなんで勝負する羽目になったのか、未だによく分かってないよ」


 今まさにギルドへ向かっている最中なのだが、俺の体調と気分は最悪の一言だった。

 最悪の原因―――ルジェとの呑み比べ対決。

 結局、俺も含めた野郎四人はルジェに一矢報いること叶わず、全員酔い潰された。

 目が覚めた時には朝日が昇っており、店の人から起きたのなら早く出て行ってくれと言われてしまった。

 追い出されなかっただけ感謝しなければなるまい。

 ご迷惑をお掛けしてすみませんと謝りながら外に出るも、全員歩いて宿に帰れる程の体力も気力も残っておらず、揃って道端にへたり込んでいたところ、一晩経っても帰って来ない男共を心配したウチの女性陣とヴィオネが迎えに来てくれたのだ。

 呆れる女性陣の手を借りて水鳥亭まで帰って来た俺は、重度の二日酔いどころか三日酔いに苛まれ、丸二日間ベッドの上の住人と化していた。

 強化された肝臓と◯コンの力を以ってしても、一晩でアルコールを分解し切ることは出来なかったらしい。

 まあ、あんな馬鹿みたいな量を呑んだのだから、当然と言えば当然なのかもしれない。

 そうして快調には程遠いながらも起き上がれる程度には回復した今日、支部長からの呼び出しが掛かったのである。

 本音は無視して休んでいたかったけど、残念ながらそうもいかない。


「やっと着いた……」


 普段の倍以上の時間を費やして辿り着いた冒険者ギルドは本日も盛況であった。

 喧騒が頭に響く。


「マスミ様、先程よりも顔色が悪くなっております」


「早く支部長んとこ行こう。マジで辛い」


 このままロビーに留まっていると吐きそうだ。

 受付で忙しそうにしているメリーと絵里ちゃんの姿が見えたけど、お互いに挨拶をしているような余裕はない。

 足早にロビーを突っ切り、支部長の執務室目指して階段を上っていく訳だが、今の体調で五階まで上がるのは本当にしんどかった。

 階段を上がり切った時点でユフィ―と同じようにゼェゼェと乱れた呼吸を整えるのに必死だった。


『酒は飲むともなんとやらじゃな』


 態々俺の記憶を覗いて見付けてきたのだろう。

 嫌がらせのように日本の諺を引用してくるニースが実に小憎らしかったものの、囁くような声で「……喧しい」と言い返してやるのがやっとだった。


「まぁ、あっちよりはマシだと思いますよ」


 そう言ってローリエが指差した先には、俺よりも酷い有り様を晒している先輩パーティの姿があった。

 四人中三人―――ヴィオネ以外の男達が廊下にぐったりと座り込んでいた。


「……いよぉ、マスミ」


「……ん」


「……生きてる? 俺は死んでるぅ……」


「見れば分かるよ」


 ◯コンの力を飲んでいない所為だろうか。

 三人とも見るからに俺より体調が悪そうだった。

 最早、生きた屍も同然である。


「イイ年した、大人が、揃いも、揃って情け、ない」


 そんなパーティメンバーを見下ろしながら辛辣な言葉を浴びせるヴィオネ。

 ユフィーを除いたウチの女性陣もうんうんと頷いている。

 ……野郎共は何も言い返せなかった。

 肩身の狭さに耐えて数分、ローグさん達も立ち上がれる程度にまで回復したので、みんなで執務室に向かった。


「やあ、待ってたよ」


 定位置の執務机に着いたまま親し気―――でも声は相変わらず無感情―――に挨拶をしてくれるシャーナ支部長と彼女の傍らに背筋を伸ばして姿勢良く立つディーナ女史。

 この数日で彼女達とは何度顔を合わせたことだろう。

 そして今回室内に居たのは支部長とディーナ女史だけではなかった。

 まず壁際に並んで立つ三人組―――こちらもすっかり顔馴染みになったジュナ、ミランダ、ドナートのパーティ。

 どうやら三人も迷宮調査の為に召集されたらしい。

 三人から少しだけ距離を置いて待機しているのは異形の姿をした男女―――アルナウトとフェイムの蜥蜴人(リザードマン)兄妹だ。

 周りが普通の人間あるいは人に近しい姿をしている中、2メートル半ばにまで届きそうな巨体と二足歩行する恐竜の如き凶悪の姿を併せ持つアルナウトの迫力は凄まじいものがあった。

 中身は大変気の良い御仁なのだが。


「知ってる顔ばっかりだな」


 支部長が意図的にそういう面子を集めたのかね?

 よく知りもしない相手と一緒に仕事をするよりずっとマシだけど……なんて思っていたら、こちらに背を向けてソファーに座る人物が居ることに気付いた。

 その後ろを姿を目にした瞬間、俺は唐突な眩暈に襲われた。

 街中を歩いていても、あまり見掛けることのない色素の薄い灰色の髪。

 つい最近、そんな珍しい髪色の人物との面識が出来たばかりだった。

 座ったままこちらを振り返った人物の目蓋は、左右ともに下ろされていた。


「やぁやぁ、お兄さん達。先日振りだねぇ」


「ルジェ……」


 俺達の体調不良の原因とも言える盲目の女性―――ルジェが酒場で会った時と変わらぬフレンドリーな態度で手を振ってきた。

 彼女に酔い潰された者達は多分な驚きと若干の恐怖を露わにし、彼女を知らない者達は揃って首を傾げた。


「おや、君達知り合いだったのかい?」


 支部長の疑問に対してルジェが「呑み友達だよ」と即座に答えた為、俺も即座に「違います」と否定した。

 否定されたことがご不満だったのか、ルジェはふくれっ面でこちらを睨んできた。

 といっても目は閉じられたままなので全然怖くないけど。


「この間あんなに呑み明かした仲なのに」


「あれで呑み友になれると本気で思ってんなら片腹(いて)ぇわ」


 こっちゃ初対面で酔い潰された上に未だ体調不良を引き摺っているんだぞ。

 馬鹿な勝負に付き合った俺達も悪いけど、少しくらいは彼女にも責任を感じてほしい……という思いはこれっぽっちも伝わらず、当のルジェはブーブーと子供のように文句を垂れ流すだけだった。

 彼女の相手を一旦諦めた俺は、支部長に疑問をぶつけてみた。


「支部長、なんでルジェが此処に居るんですか?」


「なんでって彼女も調査隊の一員だからだよ?」


 予想外な返答に思わず、「え?」と声を上げたのは俺だけではなかった。

 支部長は室内に居る一同をぐるりと見回した後、あの感情の読めない微笑みを浮かべながら言った。


「ルジェは今回の迷宮調査の為に私が直接呼んだ一人だよ」


 みんな仲良くするようにと締め括られた言葉に応じた声は、一つだけだった。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は1/15(月)頃を予定しております。

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