第14話 二度目の呼び出し
前回のお話……何処かに行きたかった
(絵 ゜Д゜)深見さぁん
(真 ゜Д゜)……また?
「やぁ、待ってたよ。また呼び出して悪いね」
「ええ、本当に。少しはこっちの都合も考えてほしいもんですね」
こういう時に笑顔でお気になさらずと返すのが正しい大人の対応なんだろうけど、今更取り繕う気にもなれないし、おそらく相手もそんなことは気にしていないだろう。
案の定というか、二十四時間振りに会ったシャーナ支部長は気を悪くした様子もなく、その美しい顔に相変わらず感情の読めない微笑みを貼り付けていた。
執務机に着いた彼女の傍らにはディーナ女史が、ドアの脇には絵里ちゃんが立っている。
昨日と異なる点は、今日はパーティフルメンバーで支部長と相対していることだろうか。
「そんなに警戒しないでほしいなぁ」
「無理な相談ですね」
散々言い聞かせた甲斐も有り、ユフィー以外の全員が支部長に対して警戒を露わにしていた。
何より今の俺は腹も立っていた。
「また絵里ちゃんを使いに寄越すなんて、支部長も随分人が悪いですね」
「うん? どうせ使いに出すなら、お互い顔見知りの方が良いかと思っただけだよ?」
「とてもそれだけとは思えませんがね」
何しろ秘密を握られているのは、絵里ちゃんも同様なのだ。
またぞろ呼び出しの使いをやらされて、きっと彼女も気が気じゃなかったろうに。
部屋に入る前からずっと怯えた表情を浮かべており、ディーナ女史ですら心配そうに絵里ちゃんに何度も視線を送っていた。
支部長にそんな意図は無かったとしても、俺からすれば絵里ちゃんを人質に取られているような気分だった。
「それで今日は何の用です? テッサルタ王国に関する報告なら昨日で終わったと思いますけど?」
「うん、そっちは何も問題無いよ。封書も昨日の内に私が直接届けたしね」
「だったらこれ以上―――」
何の用があるんだと言い掛けた時、支部長が無言でこちらに手をかざし、俺の発言を遮った。
「今回はまったくの別件さ。それに用があるのは君だけにじゃなくて君達全員にだ」
「私達に?」
思わずといった感じで漏れたミシェルの呟きに支部長は小さく頷いた後、「みんな昇格するつもりはあるかな?」と言ってきた。
これまた予想外な提案にユフィー以外の全員が困惑したように眉を顰めた。
「現在の君達の等級はエイルくんのみが鋼鉄級で、他は鉄級。ユフィーくんに至ってはまだ銅級……で合ってたかな?」
何と答えればいいのか分からずにいる俺達に変わって、ディーナ女史が「はい、間違いありません」と答えてくれた。
それを聞いて、支部長はまたも小さく頷いた後、「君達全員の等級を一つずつ上げようと思ってるんだ」と話し始めた。
「エイルくんは白銀級。マスミくん、ミシェルくん、ローリエくんの三人は鋼鉄級。ユフィーくんは鉄級に―――」
「ちょっと待って下さい」
勝手にホイホイ話を進められても困る。
話を途中で止められた支部長は、特に嫌な顔をすることもなく「何か分からない点でもあったかな?」と首を傾げた。
「分からないことだらけですよ。説明無しに突然昇格と言われても……」
「理由は単純さ。君達には昇格に値するだけの実力と実績が有る。人格的にも問題無し。これ以上の説明が必要かい?」
「……ユフィーはともかく、普通鉄級が鋼鉄級に昇格するには一、二年。白銀級なら更に数年は掛かるものと聞いてますが?」
「普通ならそうだね。でも君達の実績は普通とは言い難いものだ。優秀な冒険者をいつまでも低位で遊ばせておくような余裕なんてギルドには無いからね。私の判断と権限において、君達を昇格させることにしたんだ」
「特例措置ってことですか?」
「そうなるね」
「断ることは?」
「悪いけどそれは認められない。元々冒険者の昇格についてはギルドの……支部長の裁量だ。私が昇格させると決めた以上、冒険者には従う義務がある」
だから拒否は認められないと念を押すように告げてくる支部長に対して、俺を苦々しい思いを抱かずにはいられなかった。
普通に考えれば、等級が上がることは冒険者として喜ばしいことだろう。
俺とて普段だったら素直に喜ぶところなのだが、生憎と今はそんな心境になれない。
特例による昇格。しかもそれが未だ思惑の知れない支部長の判断によるものとなれば、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。
胸元から『考え過ぎではないかの?』というニースの囁きが聞こえてきた。
別に俺の考え過ぎだったとしても構わない。
結果として実害が無ければそれでいいさ。
でも今はまだ、シャーナ支部長を信用することは出来なかった。
黙り込んでしまった俺の代わりにローリエが「では今この場で我々は全員昇格ということになるのでしょうか?」と話を引き継いでくれた。
「本当ならそのつもりだったんだけどね。こういった特例を良しとしない輩は常に一定数居るものなんだよ。まったく頭の固いジジイ共はこれだから困る」
「ギルドの幹部や後援者の方をジジイ呼ばわりするのは止めて下さい」
「いいんだよ。あんな奴らクソジジイで。無駄に歳を食っただけの老害なんて早くくたばればいいのに」
「ですからッ、そのように不適切な発言は控えて下さい!」
仮にも支部長でしょうとディーナ女史に苦言を呈されるもシャーナ支部長は何処吹く風だった。
クソジジイとやらが誰かは知らんけど、ここまで言うからには相当毛嫌いしているのだろう。
「まぁ、そんな訳でね。私としては手っ取り早く昇格の手続きを進めたいんだけど、そうもいかなくなっちゃってね。ユフィ―くん以外の四人には一応の試験を受けてもらわなきゃいけなくなった。面倒だろうけど我慢しておくれ」
「いえ、それは構わないのですが……」
「試験内容はぁ、みんなバラバラ~?」
「いや、試験はみんな一緒。いちいち個別にやるのも手間だからね。内容は模擬戦さ。さっきも言ったけど、実績も実力も充分なのは既に証明されているから、ほとんど形だけの試験と思ってもらって構わないよ」
「お願いですから形だけとか言わないで下さい……」
頭痛を堪えるように額に手を当て、深い深い溜め息を吐くディーナ女史。
それでもやはり支部長は何処吹く風だった。
今日までの彼女の苦労が偲ばれる。
「では我々は、ギルド側が用意した担当官と一対一の模擬戦を行うということだな」
模擬戦と聞いてやる気満々のミシェルが試験内容を改めて確認するも、返ってきたのは……。
「ん? 一対一の模擬戦なんてやらないよ?」
こいつマジで何言ってんの?
そう思ったのは決して俺だけではない筈。
「いや、試験は模擬戦だってあんたが―――」
「確かに試験内容は模擬戦だけど、一対一でやるなんて私は一言も言ってないよ。みんな一緒にって言ったよね?」
そう言って、俺達全員の顔をゆっくりと見回した後、支部長は微かに目を細め―――。
「君達全員、私が纏めて相手をしてあげる」
―――まさかの対戦相手を発表した。
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