第13話 寝ても待っても来ないもの
前回のお話……正体暴露
(シ ゜Д゜)待たねー
(真 ゜Д゜)こっち見んな
「何処かに行こう」
ギルドから水鳥亭に帰って早々、俺は先に戻って来ていたユフィー以外の女性陣にこう告げた。
突然の発言に驚いたのか、皆ポカンとしている。
「何処かに―――」
「あ、いえ、ちゃんと聞こえてます。はい」
もう一度告げようとしたらローリエに待ったを掛けられた。
「何処かとは……いったい何処にだ?」
「決めてない。何処でもいいからとにかく行こう」
「いや、突然行こうって言われても……」
さしものミシェルも困惑気味で、ローリエも困ったように両の眉を八の字にしていた。
「暫くはぁ、ゆっくりするってぇ、言ってたのに〜」
「そのつもりだったけど、厄介な奴に目を付けられた」
「厄介な奴、ですか?」
それはいったい誰だと首を傾げるみんなに、俺はギルドで起きたことを全て伝えた。
支部長名義で呼び出されたこと。
テッサルタ王国で起きた事件の全容を説明したこと。
そして支部長に自らの正体がバレており、それをディーナ女史の前で暴露されてしまったことを。
皆一様に驚きの声を上げたが、意外にも一番最初に応答したのはユフィ―だった。
「わたくしが気を失っている間にそのようなことが……実に驚きでございます」
「寝てただけだろ」
神妙な顔して頷くな。
俺はユフィーを放置して、他のみんなにどう思うと意見を求めた。
「まさかマスミの正体に気付いているとは……」
「確かに厄介な相手かもしれませんね」
「どうやってぇ、調べたのかな〜?」
「さぁな。正直調べた手段云々より、何考えてるのか全く分からんっていうのが嫌なんだよなぁ」
俺達に害意は無いと支部長は言っていたが、その言葉を鵜呑みにして安心することなど出来なかった。
害意が無いからといって、必ずしも味方であるとは限らないのだ。
何より思惑の知れない相手を信用することなど俺には出来ない。
「なので今すぐ何処かに行きたい。なんなら暫く雲隠れしたい」
「しかしだマスミよ、仮にも相手は支部長なのだろう? そんな人物から逃げ回るというのもマズい気が―――」
「ミシェル」
ミシェルの発言を遮ると同時に彼女の手を優しく、且つ程々の力加減で握り込む。
真っ直ぐミシェルの青い瞳を見詰めてやれば、途端にその頬には朱が差した。
「マ、マスミ?」
「ミシェル、お前は俺と一緒に来てくれないのか?」
「いや、私はマスミの行く所なら何処にでも付いて行くつもりだけど……」
「俺はこれからも冒険者として旅を続けたい。もっと色んなものを見てみたい。我儘だって分かってるけど、ミシェルにも俺の隣で同じ光景を見てほしいんだ。駄目か?」
「あ、駄目じゃないです。行きます。ずっと隣に居ます」
まるで夢現のようにとろんとした顔で素直に頷いてくれるミシェル。
見るからに正常な判断は出来ていないけど、説得完了としておこう。
グフフ、今なら何でも言うこと聞いてくれそうだぜぇ……なんて不埒な思考を読まれたのか、ローリエから「止めて下さい、マスミさん」と釘を刺された。
「ミシェルは割りとチョロいんです。マスミさんに歯の浮くような台詞を言われたら、すぐ駄目になっちゃいますよ、この子は」
「ローリエの言ってることも大概だよな?」
仮にも自分の主をチョロいって……。
「あとその手の台詞をミシェルだけに言うのは不公平なので、あとでちゃんとわたしにも同じ台詞を言って下さい。出来ればもっと情熱的に」
「えぇぇ……」
同じ台詞を、しかも若干ハードルを上げて要求された。
流石にもうあんなの素面で言える気がしないんですけど。
視線をエイルの方に移せば、何故か彼女はニッコリ笑って、「わたしにはぁ、もっと気楽でいいよ〜」とハードルを下げてくれた。
でも結局言わされることに変わりはないのね。
「ところでチトセ様とタクミ様のお姿が見えませんけど、お二人はどちらに?」
「唐突な話題変更をありがとう」
普段他人に興味を示さないユフィーが、珍しく二人を探すようにキョロキョロしていた。
そういえばこいつ子供好きっぽいもんな。
「チトセさんとタクミくんなら部屋に居ますよ」
「お店の人からぁ、是非売らせてほしいってお願いされてぇ、張り切ってる〜」
どうやら三上さんの手作り刺繍は店の人のお眼鏡にかなったようで、数さえ揃っているならいつでも売りに出していいとまで言われたらしい。
その言葉に奮起した三上さんは、帰って来るなり部屋に籠って新たな刺繡作成に取り掛かっているという訳だ。
「まぁ、三上さんは三上さんで頑張ってもらうとしよう」
「あんまり興味無さそうですね?」
「興味が無い訳じゃないんだけど、自分のことで手一杯になりそうだからなぁ」
「でもぉ、同じ〈異邦人〉なんだしぃ、ヒトミちゃんやチトセちゃんもぉ、狙われるんじゃないの〜?」
「いや、多分だけど、そっちは心配いらないと思う」
確証はないけど、支部長の関心は明らかに俺だけに向けられていた。
万が一にも絵里ちゃん達に手を出せば、俺が黙っていないことも分かる筈だ。
あの如何にも切れ者っぽい支部長がそこまで考え無しだとは思えない。
「という訳で多分他のみんなは大丈夫。俺は自分のことに集中したい」
「まぁ、マスミさんがどうしてもと仰るなら、暫く旅に出るのも吝かではありませんけど……」
「ずっと逃げ回る訳にもぉ、いかないの〜」
「……う」
「それに何処かで依頼を請けたら、ギルドのネットワークに記録が残っちゃいますよ?」
「居場所がバレちゃうの〜」
「……うぅ」
正論にぐうの音も出なかった。
『ぐうの音も出んのう』
「喧しいわ」
いちいち口に出さんでもいい。
「正体がバレていたのは確かに驚きですけど、まだ実害があった訳じゃないんですよね?」
「実害はないけど、赤の他人に自分の秘密を知られているって、なんかこう……心情的に嫌じゃない?」
相手が実際に何を考えているのかは関係無く、俺はもう支部長に対して疑念しか抱けなくなっている。
あの支部長がわざとそういう風に仕向けたような気がしないでもないけど……。
「あー、もうヤダヤダ。ほんとヤダ。ようやっとテッサルタから帰って来たと思ったら、また変なのに目ぇ付けられるし。なんでみんな俺のことほっといてくれないの? 少しはゆっくりさせてくれよぉ、マジで」
盛大に溜め息を吐きながらテーブルに突っ伏した俺の背中をローリエとエイルが労わるようにさすってくれた。
人の優しさが身に沁みる。
「まぁまぁ、まだ何か起きると決まった訳じゃありませんから。一先ず様子を見ましょう」
「悲観的になってもぉ、しょうがないの~」
「だといいんだけどねぇ」
マイナス思考が駄々漏れの俺と違って、ローリエとエイルは楽観的だった。
まぁ、彼女らは実物を見てないから仕方ないのかもしれん。
同席していたユフィ―が歯牙にも掛けていないのは若干気に食わんけど。
「お前寝てただけだもんな」
「これからまた寝ますよ?」
「寝過ぎだよ」
彼女の神経の太さが羨ましい。
だからといって見習おうとは微塵も思わない。
「取り合えずこれ以上難しく考えるのは止めとくか」
「そうしましょう。お疲れでしょうし、今日は早めにお休みした方が良いかもしれませんね」
「あぁ、そうするわ」
ローリエの勧め通りに俺は珍しく飲酒も控え、夕食を終えて早々休むことにした。
そうして一晩明け、少しは頭も気分も晴れたのだが……。
「深見さぁん」
今にも泣き出しそうな情けない顔で絵里ちゃんが再び水鳥亭を訪れた。
理由など態々聞くまでもない。
また支部長の呼び出しだろう。
残念ながら寝ても果報はやって来なかったらしい。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10/30(月)頃を予定しております。




