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第7話 懐かしき顔ぶれ 〜日本人〜

前回のお話……ご飯を食べて大きくなろう

(セ ゜Д゜)モグモグモグモグ

(ミ ゜Д゜)パクパクパクパク

(真 ゜Д゜)……うぷっ

 テッサルタ王国からネーテの街に帰って来た翌日。

 俺は長瀬さんと三上さん親子を伴い、街の大通り沿いにある喫茶店へやって来た。

 この店で絵里ちゃん達と会う約束をしているのだ。

 会うだけなら別にギルドでもよかったのだが、今日は丁度仕事が休みだそうで、折角なら何処かでゆっくりお茶でもしようと相成った。

 この場に居るのは俺も含めた日本人組だけ。

 我がパーティの女性陣―――ユフィ―は宿で寝てる―――は装備の修繕を依頼するため、ロゥルデスの姐さんの店に向かった。

 ボロボロになった俺の戦闘服(ACU)も預けてある。

 既に三度目の修繕依頼だが、果たしてケイはどんな顔をするだろう。

 ……受け取りも女性陣にお願いしようかな。


「俺達の方が先に着いちゃったか」


 店内に絵里ちゃんと菜津乃の姿は無かったため、一先ず入店して待つことにした。

 大きめの卓に座れば、店員の女性がすぐにメニューを持って来てくれた。


「好きなの頼んで下さい。匠海くんも遠慮しなくていいからな?」


「そんなの悪いですよ」


「まあまあ、本当に遠慮しなくていいですから」


 そもそもお金無いでしょと指摘すれば、三上さんは恥ずかしそうにしながらも「……お言葉に甘えます」とメニューを手に取り、匠海くんと一緒に選び始めた。

 人の厚意は素直に受け取りたまえ。


「深見さん、私もご馳走になっていいですか?」


「勿論。最初からそのつもりだよ」


「ありがとうございます」


 三上さん親子と同じようにメニューに目を通す長瀬さん。

 馬車旅からも解放され、一晩ぐっすり休んで体調を整えた彼女は妙に楽しげだった。

 はて、昨日の今日で何か良いことあったっけ?

 気になったので訊ねてみれば、「良いこと……言うのも変な感じですけど」と前置きしてから説明してくれた。


「肩の荷が下りたって言うんですかね。テッサルタ王国の外に出たばかりの頃はまだ不安の方が大きかったんですけど、この街に来てようやく自由になれたって実感が湧いてきたんです」


「まあ、日本でも異世界(こっち)でもブラック勤めだったしね」


「新しい仕事も見付かってませんし、まだ完全に不安が無くなった訳じゃありませんけど、気持ちがかなり楽になったのは本当です。あんなに熟睡したのなんて、もういつ以来なのかも思い出せませんよ。いつもなら一時間置きに目が覚めちゃうのに」


 どうやら長瀬さんは睡眠障害まで患っていたらしい。

 なんかもう不憫過ぎて俺の方が泣きたくなってきた。


「何でも好きなの頼みなさい。もう幾らでも頼みなさい」


「え? あの……ありがとうございます?」


「ほら三上さんや匠海くんも遠慮しないで。飲み物だけじゃなくて食べ物も選びなさい。クッキー? そんなんじゃ腹膨れねぇでしょ。育ち盛りなんだからもっと食え」


 結局、全員分の飲み物と軽食と言うには大分多い量を注文してしまった。

 そうして俺達が入店してから二十分近くも経った頃、ようやく絵里ちゃん達が店にやって来た。


「遅くなってすみません。なっちゃんが中々起きてくれなくて」


「だって折角の休みなのに……って何これ?」


 開口一番に謝ってくる絵里ちゃんとテーブル上に並べられた料理やお菓子の数に目を丸くする菜津乃。

 食が細い女性二人と小さな男の子では大した量も食べられず、必然的に俺が一人で頑張る羽目になった訳だが、とても食い切れる量ではなかった。

 もう満腹。腹がちょっと苦しい。


「待ってたよ。早速で悪いんだけど、ちょっと食うの手伝ってくれない?」


「オッサンの奢り?」


「勝手に頼んで金払えとは言わんよ。食えるなら好きに食ってくれ。あとオッサン言うな」


「やりぃ。朝食べてないからペコペコだったんだぁ」


 と言って早速卓上のサンドイッチを頬張る菜津乃。

 確かに食べていいとは言ったけど、食事を奢るために会う約束をした訳ではないのだが……。

 相変わらず遠慮というものがない少女である。

 当初の目的そっちのけで食事を堪能し始めた奴が居る一方、その幼馴染みの方は懐かしい顔ぶれとの再会を素直に喜んでいた。


「仁美さん! 千歳さんも! 本当に無事だったんですね」


「絵里ちゃんも久し振りね。元気そうで何よりだわ」


「絵里ちゃん、ごめんなさい。あの時、貴方の言葉を信じて上げられなくて……」


「そんな、謝るのはわたしの方です。結局自分達だけで逃げ出して……」


「二人はまだ良いわよ。私なんて結果的に悪事に加担しちゃってるから」


 三人それぞれ謝り合っている傍ら、菜津乃はもう二個目のサンドイッチに手を付けていた。

 食うの早いな。そんなに腹減ってたのか?


「これウマッ。匠海も食べれば?」


「もうお腹いっぱい」


 菜津乃にサンドイッチを勧められた匠海くんだったが、自身の腹をさすって満腹であることをアピールしていた。

 匠海くんは人見知りするタイプだと勝手に思っていたのだが、菜津乃に対してはそれが全然見られない。

 というか割りと懐いてる?

 解せん。

 俺は未だに壁を感じるというのに、何故あんな小娘の方が好かれるのだ。

 子供とはいえ匠海くんも所詮は男だったということか。


『くだらぬことを考えるでないわ』


 店に入ってから口を開くことのなかったニースから冷たい声でツッコまれた。

 だって誰も構ってくれないだもん。

 とはいえここで俺が余計な口を挟むのも野暮というもの。

 久し振りに顔を合わせたのだ。

 色々と積もる話もあるだろう。

 みんなの共通点が違法召喚の被害者同士というのはちょっとアレだけど……。


「まあ、だからこそ通じ合うものがあるんだろうけど」


 何と言っても異世界召喚だ。

 これ程濃厚でインパクトの有る経験は他にあるまい。


『人生で一度有るか無いかじゃな』


「二度もあってたまるかい」


 気付けばまた別の世界でしたなんて冗談じゃない。

 折角生活の基盤を築きつつあるのに、またゼロからスタートするのは御免だ。


「ネーテに来たのは三人だけなんですか?」


「ええ、安藤さんとかは向こうに残るって」


 まだまだ召喚組のお喋りは終わりそうにないと判断した俺は、絵里ちゃんと菜津乃の分を頼むついでに自分の飲み物のお代わりを追加で注文した。

 然して時間を置かずに運ばれてきたカフワ―――異世界版コーヒーのようなもの―――を啜りつつ、俺はみんながお喋りや食事に一頻り満足するのを大人しく待つことにした。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は9/18(月)頃を予定しております。

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