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第4話 鍛え合うかな訓練場 〜セント 対 ミランダ〜

前回のお話……王様からのおつかい達成

(真 ゜Д゜)お手紙です

(メ ゜Д゜)ヒェ……

(デ ゜Д゜)……お腹痛い

 依頼達成の手続きを終えて報酬も貰った後、俺達はギルドに併設された訓練場へと向かった。

 特に用事があった訳でもないのだが、知り合いの一人や二人くらいは居ないかなぁと思って足を伸ばしてみたのだ。

 結果として知り合いは居たのだが……。


「珍しい組み合わせだな」


 訓練場の一角で向かい合う一組の男女。

 男の方はセントという長身痩躯の若手冒険者。

 ある盗賊団の討伐に同行させて以来、すっかり俺のことを兄貴のように慕ってくれている。

 なんのかんの言いつつ、俺もあいつのことは手の掛かる弟みたいに思っているけど。

 元の世界じゃ一人っ子だったので不思議な感覚だ。

 そんなセントと向かい合っているのはミランダ。

 淑やかな外見とは裏腹に重量級の装備を全身に纏っても難無く動き回れる程の体力を有する肉体派冒険者だ。

 二人の手には長さ150センチ程の木製の棒が握られている。

 セントが普段扱っている長柄鎚矛(ロングボールメイス)と比べて短く、ミランダの武器にしては長い。


「丁度良いサイズが無かったんかね?」


「さてな……そろそろ動くぞ」


 果たしてミシェルの呟きが合図となったのか、直後にセントが大きく前に踏み込んだ。


「ラァアアアアアッ!」


 気合と共に放たれる上段からの振り下ろし。

 ミランダは両手で構えた棒を素早く振り上げ、真正面からセントの一撃を防いでみせた。

 棒同士がぶつかった瞬間、カァァンという硬質な音が響いた。

 二人が今使っている棒に限らず、ギルドに用意された訓練用の木製武器は、全てオラクと呼ばれる木材を加工して造られている。

 このオラクなのだが、俺の感覚としては樫の木以上に優れた強度や耐久性を有している。

 樫は加工し難く、乾燥にも時間を要するという欠点は有るものの、木材としては非常に優秀で、建築用材だけではなく様々な道具に利用されている。

 男の子に大人気なお土産―――木刀にも使われている。

 そう、あの木刀である。

 つまり何を言いたいのかといえば……当たると目茶苦茶痛いので取り扱いには注意しましょう。

 そんなオラク棒で模擬戦を行っているセントとミランダ。

 セントは力尽くで押し込もうとしているようだが、ミランダの方は微動だにしなかった。


「チッ」


 数秒の膠着後、セントは舌打ちと同時に後ろへ後退した。

 ミランダは逃げるセントを追うことなく、余裕を感じさせる動作で棒を構え直した。


「セントの攻撃を普通に受け止めてる……」


「腕力もそうだが、体幹の強さが尋常ではないぞ」


「力の逃がし方も見事ですね。腕だけではなく、全身で受け止めた衝撃を散らしています」


「膝の使い方がぁ、絶妙~」


「ただぶつかっただけではないのですか?」


 ユフィー以外の全員が感心している中、セントが再び大振りの攻撃を放つが、今度もミランダに難無く防がれてしまった。

 うぅむ、やはりビクともしていない。

 細めの体躯とは裏腹にセントはミシェルに勝るとも劣らない怪力の持ち主だ。

 そのセントが繰り出す打撃を受け止めても平然としている時点でミランダの方もお察しである。

 スピードはともかく素のパワーではミシェル以上かもしれない。


「腕相撲したらどっちが勝つかな?」


「私は負けん……と言い切れないのが悔しい」


 本当に悔しそうな顔を浮かべるミシェル。

 どうやら密かに対抗意識を燃やしていたらしい。

 離れた所では二人の模擬戦を見守っているパーティメンバーらの姿があったので、俺達もそちらに移動した。


「おっす、久し振り」


「む? マスミ、帰って来たのか。久し振りだな」


「ご無沙汰してます」


「マスミ、おかえり」


 久し振りに会ったジュナとドナートの姉弟、猫獣人のニナが気軽に挨拶をしてくれる中、イルナだけは更に離れた所に腰を下ろし、退屈そうに髪をイジっていた。

 模擬戦にも俺達にも興味はないって感じだな。

 別に構わんけど。


「セントとミランダが模擬戦なんて初めてじゃない?」


「いや、そうでもない。ここ最近は結構頻繁にやっているぞ」


「そうなん?」


「セントからお願いした。もっと強くなりたいからって」


「へぇ」


 向上心を持つのは良いことだ。

 確かに使用する武器やパーティでの役割的に見た場合、最も適任なのはミランダかもしれない。


「あれ? ジュナさん、その認識票ってもしかして……」


「ん? あぁ、これか」


 ジュナの首に掛けられている認識票がこれまでと違うことに目敏く気付いたローリエが指摘するも、返ってきた声は歯切れの悪いものだった。

 なんか妙にバツが悪そうだな。


「まぁ、一応……昇格した」


「凄ぇじゃん。これでジュナも白銀級の仲間入りか」


「おめでと〜」


「ありがとう……と素直に言えれば良かったのだが、私的には不甲斐無い結果だったから、正直納得がいかん」


「でも合格は合格だろ?」


「だからこそだ。まるでお情けで昇格させてもらったような気分なのだ」


 そう言って、悔しさと苛立ちが混じり合ったなんとも表現し難い顔で黙り込むジュナ。


「ずっとこんな調子なんです」


「お宅も大変だね」


 こっそり耳打ちしてくるドナートの苦労が偲ばれる。

 重要な昇格試験を幾ら何でもお情けで合格扱いにはしないだろうと思うのだが、きっと理屈じゃないんだろうね。

 折り合いが付くまでは、まだ時間が掛かりそうだ。

 こんな風に俺達が会話している間もセントとミランダの模擬戦は継続中で、最早何度目になるかも分からない攻撃をセントが放った。

 力強い踏み込みと腰の捻りが加えられた横薙ぎの一撃。

 見ていた面々の口から「お?」と感心するような声が漏れた。

 当たれば会心間違い無しだが……。


「良い攻撃です」


 相手が悪かった。

 ミランダはセントの攻撃を今度は真正面から受け止めるのではなく、角度を付けた棒の上を滑らせることで無効化してみせた。

 渾身の一撃を完璧に受け流されたセントは大きくバランスを崩し、更にはミランダの手にした棒で足元を払われ、地面に盛大に尻餅をつく羽目になった。


「いったぁ!?」


「勝負有り。まだまだ力押しが目立ちますね」


 打ち付けた尻を必死にさするセントにミランダが駄目出しをしているけど、多分聞こえてないと思うぞ。

 相当痛むんだろうなぁ。


「ですが最後の一撃は見事でした。まともに受けたらこちらの棒が折られていたでしょう。それに以前より反応も良くなっています。成長しましたね、セントくん」


「あ、ありがとう……ございます」


 何処まで伝わっているかも分からない総括を終えたミランダと未だに尻をさすっているセントがこちらにやって来た。


「二人共お疲れ」


「あ、お疲れっす……ってマスミさん!?」


「真澄さんですよー」


 俺達が居ることに気付いていなかったセントが腰を抜かしそうな勢いで仰天していた。

 そんな大袈裟に驚く程でもなかろうにと呆れていたら、今度は額がぶつかりそうなくらいの至近距離までセントが詰め寄ってきた。


「お、ぉぉおかえりなさい! あの俺、俺……!」


「ちょっ、近い近い」


「俺遂に鉄級に昇格しました! 約束果たしました!」


「分かったからちょっと離れろっての。興奮し過ぎだバカタレ」


 鼻息の荒くなった顔を押し退けてやれば、セントは「す、すんませんっ」と言って少し離れてくれた。

 改めてセントの認識票を見やれば、その胸元に飾られているのはこれまで目にしてきた銅製のものではなく、俺の首に下げられているのと同じ鉄の輝きを帯びていた。


「そういや俺らが帰って来るまでに昇格するって言ってたもんな。頑張ったじゃん」


「い、いえ、俺だけの力じゃ……いろんな人に助けてもらいました」


「それもお前が紡いだ縁だよ。一生懸命じゃない奴なんて誰も助けたりしないって」


 頑張ってきた証だと言ってやれば、セントは照れ臭そうに頭を搔いた。

 なんとなく微笑ましい気持ちになっていると、ニュッと脇から顔を覗かせたニナが「ちなみにニナも昇格した」と自身の認識票を見せてきたので、ヨシヨシと頭を撫でてやった。

 大変触り心地の好い毛並みである。


「セント、ケツ大丈夫か?」


「あー、まだちょっと痛みますけど、取り合えず大丈夫っす」


「そっか。体力は? 疲れてない?」


「少しは疲れてますけど、別にそこまででは」


「そっかそっか」


「あのぉ、マスミさん?」


 一頻りニナの頭を撫でた後、俺は困惑しているセントに向けて……。


「んじゃ、俺と一戦やってみるか」


 模擬戦を申し込んだ。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は8/28(月)頃を予定しております。

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