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第19話 抜け駆け・急転・事前の準備

前回のお話……真澄くんに絡み隊

(チ ゜Д゜)あぁん?

(真 ゜Д゜)ちょー怖ぇー


予定よりも早く更新出来ました。

 漠然とした不安というものは、案外現実になることが多いと個人的には思っている。


「やられたな」


 寝癖の付いた頭を掻きながら、疲れたように溜め息を漏らすローグさん。

 時刻は早朝。日の出からまだ一時間と経っていないが、現在野営地に居るのは俺、ミシェル、ローリエ、コレット。

 そしてローグさん達四人を合わせた計八人。


「まさかあいつらがここまで馬鹿だとは思わなかったぜ」


 ―――野営地からチンピラ達の姿が消えていたのだ。


 昨日チンピラ達と揉めた後、俺達はすぐに野営の準備に取り掛かった。

 といっても既に活動拠点として利用している場所なので、精々テントの張り直しや食事の用意をするくらいしかやることはなかった。

 迷惑を掛けたことに対するお詫び―――少しでも心証を良くしておこうという打算混じり―――のつもりで食料を提供したら、ローグさん達には大喜びされた。


「此処に居れば水には困らないけど、どうしても食料は干し肉や黒パンとかの日持ちするものばっかりになっちゃうからねぇ」


 とはトルムの言である。

 野営中なのだから現地調達はしないのかと質問したら、この周辺に生っている植物は食用に適していないのだとか。

 また、灰猟犬(グレイハウンド)の肉は筋張っててあまり美味しくないらしい。


「他の食える魔物や獣は全然出てこねぇからなぁ」


「んむっ……」


 そう言って、実に美味そうに肉串や腸詰肉(ソーセージ)を頬張るローグさんとディーンさん。

 ヴィオネには肉よりも果物を喜ばれた。


「甘い物は、重要。君は……偉い」


 全く抑揚のない声でお礼を言われたので分かり難いが、無表情でサムズアップをしている辺り、喜んでくれてはいるのだろう。

 ちなみにチンピラ達は、俺が持ち込んだ食料には一切手を付けなかった。

 食事を終え、夜間の見張りの順番を決める段階でチンピラ達が……。


「んなクソ素人と(つら)合わせてなんざいられねぇからな。オレらは最後にさせてもらうぜ」


 と一方的に告げ、さっさと自分達のテントに入ってしまったのだ。

 これに反応したミシェルがまたキレかけたため、俺とローリエの二人掛かりで羽交い絞めにした。

 言うだけ無駄だと判断したのだろう。

 処置無しとばかりにローグさんも(かぶり)を振り、連中のことは放っておくことにしたのだ。

 放っておいた結果が今の状況という訳である。

 二人一組で―――俺はトルムと組んだ―――見張りを担当し、ローグさんとディーンさんの組がチンピラ達と交代したのが、明け方まで残り二時間を切ったくらいの時間帯だった筈だ。

 ローグさん達が眠るまでは動けなかった筈だから、その点を考慮すると、まだそれ程遠くまでは移動していないと思うのだが……。


「テントがそのまんまですし、一足先に帰還したってことはないですよね?」


 流石に撤収作業をしていれば、物音で誰かしら気付くだろう。


「ああ、自分達だけで親玉を狩るつもりなんだろうよ」


 親玉?

 目線でミシェルとローリエに説明を求める。


「今回の灰猟犬(グレイハウンド)の大量発生だが、おそらくは上位種の存在が原因だ」


「複数の群れを統率する上位種が配下を使って他の魔物を狩り、縄張りを拡大しているとわたし達は考えています」


 完璧なアイコンタクトだ。

 説明ありがとう。


「昨日の時点で住処らしき場所の目星はつけてたからね」


「早めに探索を、切り上げて、翌日に……今日、全員でその住処を、調査する、予定だった」


 トルムとヴィオネが更に説明を引き継ぐ。


「要するに抜け駆けってことですか?」


「んっ」


 ディーンさんが頷いて肯定してくれた。

 なんとも分かり易い連中だ。

 しかし、今回は調査依頼の筈なのに抜け駆けするメリットとはいったい何なのか。

 そこまで俺とコレットがこの場に居ることが気に食わなかったのか、あるいは……。


「その親玉とやらから得られる利益を独り占めしたい、とか?」


「独り占めですか?」


 ここまで会話に参加せず、事態を見守っていたコレットが首を傾げる。


「複数のパーティによる合同調査だから、普通だったら利益の独占なんて考えられないけど……ローリエさんやローリエさん」


「なんですか?」


「質問。今回の件の原因と思われる魔物だけど、こいつを討伐した場合、報酬の支払いはどうなるんだ? 全員が受け取ることは可能?」


「依頼そのものは合同で受けていますから、誰が討伐しても報酬は参加した全員に等しく支払われます」


「成程。んじゃそれ以外の魔物は?」


「えっと、それはどういう意味ですか?」


 困ったように眉をハの字にするローリエ。


「きっと調査する間に少なくない数の灰猟犬(グレイハウンド)を討伐したと思うんだけど、それで得られた魔石や素材って誰の物になる?」


「それは勿論、討伐した方の物です」


「なぁ、マスミは何を言いたいのだ?」


 困惑気味に返してくるミシェル。

 他のメンバーも不思議そうにしている中、ヴィオネだけは俺の言いたいことに気付いたのか、「あ……」と小さく声を漏らした。


「要は昨日までと同じさ。調査してたら魔物が出たので討伐。魔石やら素材やらゲットだぜ。やったねっていう」


「それ、は……いや待て。原因の調査と排除に伴う報酬は全員に―――」


「……原因はまだ、特定出来て、いない」


 狼狽するミシェルの言葉を遮り、ヴィオネが淡々と告げる。

 そう、原因は特定出来ていない。

 ミシェルもローリエもおそらくという言葉を使い、原因についての断定はしていなかった。

 あの連中が原因らしき魔物を討伐したとしても、今の時点なら調査の途中で偶然討伐しただけという言い訳が通用するのだ。


「こんな状況じゃギルドへの途中報告も出来ないだろうし、目撃者も居ないならどうとでも言い繕える。ついでに原因特定には至らなかったと報告すれば、場合によっては依頼も失敗扱い。みんなには損させて、自分達だけ美味しい思いが出来るって寸法だ」


 俺の説明を聞いたミシェルがギリギリと音が鳴りそうなくらい奥歯を噛み締めている。

 考え過ぎと言われればそれまでだが、あの連中ならやり兼ねない気がする。


「同じ冒険者だぞ。どうして……!?」


「あいつらだったら、平気な(つら)してやるだろうよ」


 悔しそうにミシェルが呟けば、まるで吐き捨てるようにローグさんが俺と同じ意見を口にした。

 あとなんでか知らんけど、コレットとヴィオネが俺の顔を凝視している。

 片方は感心したように、片方は興味深そうにこちらを見ている。


「なに?」


「いえ、フカミさんって頭良いんだなぁと思いまして」


「優れた、状況判断。グー」


「ありがとう」


 なんか褒められた。

 そして何故か自慢気にえっへんと胸を張っているミシェルとローリエ。


「あいつの目的がハッキリしたところでだ。この後どうするかを決めようじゃねぇか。俺としちゃ早いとこ追いかけて、とっちめてやりてぇとこなんだがよ」


「とっちめるのはいいっすけど、一人二人はギルドへの報告に行った方がよくありません? マスミくんが言った通りの事態になったら最悪っすよ?」


「トルムに、賛成」


「だが今すぐ追えば、奴らに追い付けるかもしれんぞ?」


「ん……」


 このまま追跡するのか、それとも一度ギルドに戻って報告するのか。

 概ね意見は半々に割れているけど、どちらも間違っている訳ではないから決め兼ねているといったところかね。


「えぇい、埒が明かねぇ。マスミ、お前が決めろ」


 急に俺に判断をブン投げるローグさん。


「俺が決めちゃっていいんですか?」


「おう、多分こん中じゃお前が一番頭が切れる」


 頭が切れる云々は関係ない気もするけど、まあいいか。

 さて、俺の判断はというと……。


「じゃあ追跡する方向で」


「そうこなくちゃな」


 俺の判断を聞いて、ローグさんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。怖いから止めて。

 なんだか勘違いされていそうだけど、俺はあのチンピラ共の身を案じている訳でも手柄を奪われることを心配している訳でもない。

 俺が考えているような面倒な事態にならなければいいなぁと、ただそれだけを願っているだけ。


「他に心配事でもあるんですか?」


 顔に出ていたのか、みんなが出発の準備を急ぐ中、ローリエが心配そうに訊ねてきた。

 それに気付いたミシェルやコレットも傍に寄って来る。

 仕方ないので俺が懸念していることを彼女達にも説明した。


「ではマスミは、いったい何を心配しているのだ?」


「何っていうか、俺としてはあの連中が件の親玉とやらを討伐出来るならそれでもいいと思うのよ」


 少なくとも事態は終息する。

 そうならなかった場合―――。


「討伐に失敗した挙句、ちょっかい掛けられた親玉が怒って暴走しなきゃいいなぁって思ってるだけ」


 ―――こんな風にさ。

 突然、茂みを突き破って二匹の獣―――灰猟犬(グレイハウンド)がこちらに襲い掛かって来た。

 既に察知していたのだろう。

 ほぼ同時に動いたローグさんとディーンさんがそれぞれの得物を以って危なげなく仕留めてみせた。


「ちっ、そういうことかよ」


「そういうことです」


 どうやら俺の願いは通じなかったらしい。

 チンピラ共め、しくじりやがったな。


「呑気に荷物を片付けてる暇なんざねぇか。しゃあねぇ、このまま行くぞ。トルム!」


「あいよッ、道案内はお任せを」


「よしッ、俺とミシェル嬢ちゃんが前衛(まえ)だ。ディーンは後方(ケツ)を守れ!」


「分かった。だが嬢ちゃんと言うな!」


「んッ」


「他の奴も遅れるんじゃねぇぞ! 親玉狩りの大仕事だッ!」



 ―――side:コレット―――



 とんでもない状況に巻き込まれてしまった。

 だけどそれを嘆いていられるだけの余裕なんてなかった。

 だって……。


「オラァッ、邪魔だ犬っころ!」


「ハァ! 今の内に進めッ」


「ふん!」


「―――ッ、左からも二匹来ました!」


「……しつこい」


 前から、後ろから、左右から、あらゆる方向から魔物が―――灰猟犬(グレイハウンド)が襲い掛かってくる。


「ほれ、頑張れコレット」


「はぁっ、はっ……はいッ」


 励ましの言葉と共にフカミさんに背中を押されながら、止まりそうになる脚を懸命に動かす。

 そうだ。嘆いている暇なんてないんだ。

 碌に戦えないんだから、せめて遅れないように走れ。

 拠点が灰猟犬(グレイハウンド)に襲撃された後、あたし達はすぐに移動を始めた。

 トルムさんが先行し、ローグさんとミシェルさんが前方の敵を、後方から迫る敵はディーンさんが一人で対処している。

 時折側面を突こうと回り込んで来るのもいるけど、ローリエさんが防いだり、フカミさんが試験の時にも使っていたスリングショットとかいう道具で牽制していた。

 仕留めた灰猟犬(グレイハウンド)の数は、もう二十匹を越えている筈だけど、全く途切れる様子がない。

 いったいこの森には、何匹の灰猟犬(グレイハウンド)が生息しているの?


「だぁーッ、鬱陶しい! おいトルムッ、まだ着かねぇのか!?」


「もうちょいっすよ!」


 文句を言いながらも近付いてきた灰猟犬(グレイハウンド)を一撃で倒すローグさん。凄い。

 あたしだけ何もしていないのに、みんなから遅れそうになっている。

 喋る余裕なんか有る筈もない。

 なんで走りながら戦えるの?

 ヴィオネさんも何もしてないけど、この人は魔術師だからいざという時に備えて力を温存しているだけだし、あたしのように遅れそうになったりしてない。

 親玉―――灰猟犬グレイハウンドの上位種の住処と思われる場所まで、あと少しなのに。


「はっ、はぁ、ゲホッ、あぅ……ッ」


 もう体力が保たない。

 脚にも力が入らない。

 満足に呼吸も出来なくて苦しい。

 このままだと、あたし本当に……。


「ほれ、もうちょっとの辛抱だから頑張れ」


 フカミさんがあたしの背中を軽く叩いてくれた。

 もう駄目だ。走れない。

 そうやって諦めそうになる度、決まってフカミさんが励ましてくれる。

 汗だくで、自分だって疲れている筈なのに、どうしてこの人はここまでしてくれるんだろう?


「フカッ、ミさん。なんで―――」


 ―――あたしを助けてくれるんですか?


「あぁん? 仲間なんだから助けるのは当然だろ!」


 しんどいから喋らせんなと走りながら怒鳴るフカミさん。

 ……仲間。

 偶然、森の中で助けられて、足を引っ張ってばかりのあたしが仲間?


「一緒に飯を食った! 依頼を受けた! ついで言やぁ冒険者になった日も同じだ! それだけの理由がありゃ充分だろ!」


 その言葉を嬉しく感じると同時に助けられてばかりの自分が情けなくて……涙が零れた。


「だから……今度はお前が俺を助けろ!」


 ―――あたしがフカミさんを?


「俺が危ない時にお前の手が届くなら、その時はお前が俺を助けろ! そうすりゃ貸し借り無しだ!」


「―――ぅ、ぅぅ……ぅ、はいッ!」


 この人の助けになりたい。

 でもあたしにはそれだけの力が無い。

 だから今は走る。

 いつか必ずフカミさんに恩を返す為にも、この状況を生き延びてみせる。


「今度はあたしがフカミさんを助けます!」


「よっしゃ、その意気だぁ!」


「はっはぁー、若い奴らは元気があっていいなぁオイッ!」


 見れば、ローグさんが大声で笑いながら剣を振るっているけど、本当にこの人は出鱈目だと思う。


「おいマスミッ、私も! 私も今の台詞言ってほしい!」


「この状況で何お馬鹿なこと言ってるんですか!?」


 本気なのか冗談なのか、よく分からないことを口走っているミシェルさんをローリエさんが叱り付けた。

 みんな結構余裕なのかな?


「うぇぇ!? ちょっ、ヤバいっすよ!」


 狼狽したトルムさんの声に全員が首を向ける。

 前方から接近して来るのは……。


「なっ、黒猟犬(ブラックハウンド)だと!?」


「しかもこんなに沢山!?」


 全身真っ黒な体毛。革の鎧くらいなら簡単に引き裂き、噛み千切る爪と牙。

 灰猟犬(グレイハウンド)より二回り以上も大きな身体を有する上位種―――黒猟犬(ブラックハウンド)

 鉄級冒険者ですら、やられてしまい兼ねない危険な魔物。

 そんな魔物が全部で六匹。


「だぁー、こんな時に! ディーン、前衛(まえ)に上がれぇ! 俺とお前で二匹ずつだ! トルムッ、お前も一匹やれ!」


「んッ!」


「でぇぇッ、俺も!?」


「こっちも行くぞ! ローリエ、援護を頼む!」


「分かりました!」


「魔術、準備しておく」


 迫り来る六匹の黒猟犬(ブラックハウンド)にローグさん達が向かって行き、少し離れた後方に残るのは、あたしとフカミさんとヴィオネさんの三人だけとなった。

 ヴィオネさんが魔術の詠唱に入り、フカミさんが剣鉈を構えながら周囲を警戒する。

 あたしは蓄積された疲労と初めて目にした黒猟犬(ブラックハウンド)への恐怖によって、完全に膝が笑っていた。

 だからなのか……。


「ひぐッ!?」


 ガサッと横の茂みを掻き分けて別の黒猟犬(ブラックハウンド)が姿を現した時、満足に悲鳴を上げることすら出来なかった。

 そいつの狙いはヴィオネさん。

 だけど詠唱に集中している彼女は、自分が狙われていることに気付いていない。

 伝えなきゃ。伝えなきゃ。なのに―――。


「あ、だっ……に、げ……」


 ―――恐怖に引き攣ったあたしの喉からは、声が出なかった。


「ひっ……か、は」


 お願い気付いて。逃げて!

 地面を蹴った黒猟犬(ブラックハウンド)がヴィオネさん目掛けて飛び掛かり、その鋭い牙を彼女の身に突き立てようとした時……。


「やってて良かった事前の準備」


 まるで緊迫感の感じられない声と共にフカミさんの投げた物が黒猟犬(ブラックハウンド)の顔面を直撃した。


「――――――ッッッ!?」


 ―――直後、黒猟犬(ブラックハウンド)の悲痛な叫びが森に木霊した。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は、週明けの月曜日辺りを予定しております。

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