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第16話 若手パーティの奮闘劇 〜成長の証〜

前回のお話……ジドに認められる

(ジ ̄ー ̄)ニヤリ

(セ ゜Д゜)……こわ

 ―――side :セント―――



「今回は色々とごめんねぇ。感じ悪かったでしょ、俺?」


 卓を挟んで向かいの席に座ったトルムさんが曖昧な笑みを浮かべながら謝ってきた。


「あ、いえ。そんな感じ悪かったなんてことは……」


「あはは、いいよいいよ。自覚あるから」


 カロムからネーテに帰還し、俺達は無事に護衛の依頼を果たした。

 まだ日が暮れる前に帰ってこれたので、ルゴーム達と別れた後、すぐにギルドへ依頼達成の報告に向かった。

 そうして報告も終えて報酬を貰った後、トルムさんから晩飯ついでに少し話をしたいと言われたため、俺とトルムさんはギルドの酒場で一緒の卓についているのだ。

 ちなみにニナとイルナはこの場に居ない。


「女子会、楽しみ」


 と言って妙にウキウキしている―――表情は全然変わってなかったけど―――ヴィオネさんに二人は連れて行かれた。

 ミランダさんも同行してるから変なことにはならないと思うけど、女子会ってなんだろ?


「正直、なんで俺らなんだろって思ってました。トルムさん達なら他にも沢山知り合い居るのにって」


「んー、そだねぇ。まあ確かに一緒に依頼請けてくれそうな奴なら他にも居るね」


「俺ら……ってか、俺のためですよね。今回の依頼」


「ありゃ? バレてた?」


「途中からですけど」


 依頼中、トルムさんが俺に対して妙に厳しかったり、突き放すような物言いをすることが何度かあったけど、それも今思えばわざとそういう風に振る舞っていたんだと思う。


「良く悪くも君は性根が真っ直ぐだからねぇ。奴隷とか絡むときっと過剰に反応するって思ってたけど、案の定だったね」


「そう……ですね。色々(こた)えたし、考えさせられました」


「ごめんね。お節介だって分かっちゃいたけど、冒険者も綺麗事ばかりじゃないからさ」


「綺麗事ですか?」


「今はまだいいかもしれない。でもいつか必ず今回のように望まぬ依頼を引き受けなきゃいけない時がやって来る。その時、君はちゃんとやれる?」


 静かな、だけど強く真剣な眼差しを向けてくるトルムさん。

 別にやましいことがある訳じゃないけど、心の内を覗かれているようで、微妙に居心地が悪かった。


「イルナちゃんは問題無い。多分だけど、ニナも仕事と感情は切り分けられる。セントくんはどう?」


「俺は……」


 すぐに返事はせず、今回の依頼を通じて見聞きしたことをよく思い返してみる。

 果たしてニナやイルナのように感情を排した判断が俺に出来るだろうか。


「多分……いや、やっぱ微妙です」


 正直だが情けないその答えにトルムさんは数秒だけキョトンとした後、すぐに苦笑いを浮かべた。

 だって嘘ついたってしょうがないし。


「勿論、依頼を請ける努力はします。今回みたいに変な先入観とか偏見とか持たずにちゃんと考えるつもりです。でもきっと……俺は最後まで割り切ることは出来ないと思います」


 感情に流されず、物事を合理的に判断出来るのが大人で、一人前の冒険者なんだと思う。

 でも俺にはそれが出来ない。

 こんな時、自分はまだまだ子供なんだと嫌でも痛感させられる。

 そりゃジドにクソガキ呼ばわりされるのも当然だよなと俯き、一人で勝手に落ち込み始める俺。

 きっとトルムさんも呆れてるよな。

 申し訳無さで顔を上げられずにいると……。


「無理に割り切らなくたっていいんだよ」


 まるで諭すように落ち着いた声音が聞こえた。

 反射的に顔を上げれば、卓に頬杖を突いたトルムさんがさっきとは違う穏やかな目で俺のことを見ていた。


「割り切れないってことは、君にとって絶対に曲げちゃいけないものなんだよ。信念ってヤツだね。それを無理に曲げてまで嫌な依頼を請ける必要はないと思うよ?」


「なんかさっきと言ってること違いません?」


「あはは、かもね。でも本当に大事なことなんだよ。自分の中で確固たる何か(・・)を持つっていうのは」


「それはなんとなく分かる気がします」


 ある意味ジドが良い例かもしれない。

 あいつには何があってもルゴームを守るっていう意志がある。

 だからあそこまで戦うことが出来るし、態度も堂々としてるんだ。


「利口的とは言えないけど、君はそもそも利害や損得で動くような性格じゃないんだ。変に賢しい振りなんてする必要ないんだよ」


 自分に嘘ついたってつまんないでしょと言って笑うトルムさんに釣られて俺も笑みを返した。


「セントくんはその歳でもう目標を見付けてるし、信念も持ってる。それさえ忘れなければ君はもっと強くなれる。もっと成長出来る筈だ」


「成長してる実感はあんまり無いんですけど……」


「前にも言ったでしょ。美味いメシが食えるのは成長の証。そしてこいつ(・・・)はその成長が周りからも認められた証だよ」


 そう言ってトルムさんは俺の首に掛かっている認識票―――真新しい鉄の認識票を指差した。

 今回の護衛依頼を達成したことで、俺とニナは鉄級への昇格が認められた。

 随分時間は掛かったけど、ようやく最底辺のランクから抜け出すことが出来た。


「もっと自信持ちな。君はもう立派な冒険者なんだから」


「……はい、ありがとうございます」


 こうして誰かに認められて、言葉を貰えたことでやっと実感が湧いてきた。

 そして少しだけ誇らしい気持ちになった。

 マスミさん、俺鉄級に昇格しました。

 ちゃんと約束を守りましたよ。


「胸を張って報告出来るね」


「はい……!」


「試すようなこと言ってごめんね。さ、小難しい話はここまでにして食おっか。昇格祝いに今日は俺の奢り」


 太っ腹なことを言ってくれるトルムさんにゴチになりますと返した俺は、彼のオススメ―――ピリ辛の鶏肉料理に手を伸ばした。

 まず最初に感じたのは香辛料の効いたソースがピリリと舌を刺激する感覚。

 その後すぐにしっかり火の通った鶏肉の旨味と脂がソースと混ざり、口の中いっぱいに広がった。

 同じ料理の筈なのに初めて口にした時よりもずっと美味しく感じられる。

 あっという間に一皿平らげてしまった俺は、同じ料理と一緒に珍しく酒も注文した。

 また途中で寝ちゃうかもしれないけど、たまにはそんな日があってもいいか。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は6/19(月)頃を予定しております。

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