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第12話 若手パーティの奮闘劇 ~夜の天幕~

前回のお話……イルナも苦労していた

(セ´;ω;`)ブワッ

(イ ゜Д゜)えぇ…

 ―――side:セント―――



 天幕の襲撃。

 その話をトルムさんから聞いた俺達は、宿の部屋から最低限の装備だけを持ち出し、彼に先導される形でルゴームの天幕に急いだ。

 最悪、そのまま戦闘に突入することも覚悟していたのだが、結果的にそんな心配は無用だった。


「……トルムか。今更ノコノコ何しに来やがった?」


「一応、応援に来たつもりなんだけど、必要無さそうね。流石」


「フンッ、こんな連中に勝ったところで何の自慢にもなりゃしねぇ」


 天幕の前にはジドを始めとした護衛が集まっており、そいつらに囲まれる形で、数人の男達が地面に寝かされていた。

 きっとこの男達が襲撃犯だろう。

 逃走防止のために全員が縄で手足を縛られていた。


「こいつらビメルって奴の部下かな? 護衛には見えないけど」


「腕に自身のあるチンピラ程度の実力だ。とても護衛なんて呼べるもんじゃねぇ」


 その辺りはこれから聞き出すところだと言って、ジドは野太い指の骨をパキパキと鳴らしてみせた。

 他の護衛もどうやって痛め付けてやろうかと楽しそうに笑っていた。

 これじゃどっちが悪者なんだか分かりゃしない。

 襲撃犯の男達も顔を青ざめさせていたけど、その内の一人が「ま、待ってくれ!」と声を上げた。


「オ、オレらは騙されたんだ!」


「人様の天幕に勝手に押し入るような真似しといて騙されたもクソもあるか。どうせつくんだったらもっとマシな嘘つけ」


「嘘じゃねぇ! 本当なんだ! こ、此処の天幕の中にある奴隷だったら好きにしていいって唆されただけなんだよぉ!」


「……なんだと?」


 自分達は騙されただけなんだ。

 だから助けてくれと男の一人が必死に懇願すれば、ジドの瞳に剣呑な光が灯った。

 他の男共が同じようなことを言い出す中、ジドは目もくれず最初に口を開いた男の胸倉を掴み、片手で持ち上げた。

 ジドの目線と同じ高さにまで持ち上げられた男の足先が地面から離れる。


「答えろ。テメェを唆したってのは誰だ?」


「ぐぁっ、くっ、苦し……!」


「いいからさっさと答えろ!」


 締め上げられた男が苦しそうに身を(よじ)っても、ジドが胸倉から手を放すことはなかった。

 そんなジドと男の様子を他の護衛はニヤニヤと笑って見ているだけで、止めようともしなかった。


「おいっ、死んじまうだろ!」


「落ち着きなってジド。それじゃ聞けるもんも聞けなくなるよ?」


 俺がジドの手を押さえ、トルムさんが諭すように言い聞かせれば、ジドは露骨に舌打ちをしながらも男の胸倉から手を放した。

 手足を縛られている所為でまともに受け身も取れない男はケツを地面に強打した。

 凄ぇ痛そう……。


「ったく乱暴なんだから。おーい、大丈夫?」


「ぉぉぅぐ……ゲホッ、い、いってぇぇ……ッ」


「んー、こりゃ他に質問した方が早そうだね。おたくらを唆した奴は、ビメルって奴隷商で合ってる?」


 痛みに悶絶している男を放置し、残る襲撃犯の男共にトルムさんが質問した。

 男共は暫し顔を見合わせた後、その内の一人が自信無さげに口を開いた。


「名前は……分からねぇ。でも商人みたいには見えなかったぜ。腰に剣も佩いてたし」


「ふぅん、流石に本人じゃないか」


「どうせ野郎の手下に決まってる」


「まぁ、タイミング的に考えてもビメルで間違い無いだろうけど、とはいえ証拠が無いしなぁ。問い詰めたところで知らぬ存ぜぬだろうし……」


 うーんとトルムさんが悩ましそうに唸りを漏らすと、「やはりこうなりましたか」という何処か呆れを含んだ声が聞こえてきた。


「ビメルのことですから、何か仕出かすとは思っていましたが……嬉しくない予想ばかり当たりますね」


 やれやれと(かぶり)を振ったのは、天幕の主たるルゴーム。

 後ろにはヴィオネさんとミランダさんが控えている。

 どうやら彼女達に守られながら此処まで来たらしい。


「ルゴームさんにはお見通しだったみたいですね」


「まあ、彼の性格はよく知っていますから」


 何かしら嫌がらせをしてくるだろうと予め予想していたルゴームは、自身の警護を俺やトルムさん達に任せ、ジドを含めた護衛全員を天幕に残しておいた。

 予想は見事的中し、襲撃者―――実態は単なるチンピラ―――は一人残らず取り押さえられる結果となった。


「旦那、あのクソ野郎に落とし前をつけてやりましょうぜ。舐めた真似しやがったことを後悔させてやる」


「いけません。それでは相手の思う壺です」


 今すぐにでも過激な手段に訴え出そうなジドだったが、ルゴームは冷静にジドの意見を却下した。


「ビメルは狡賢い男です。もしも我々が同じように彼の天幕に押し入ろうものなら、恥ずかしげもなくこちらを非難することでしょう。その上で堂々と官憲に訴えるでしょうね。何もしていないのに襲われたと」


「先に手を出してきたのは向こうですぜ」


「だとしてもトルムさんが言った通り証拠がありません。彼らの証言だけでは不充分ですし、けしかけた相手を探したところで素直に認める筈がありません。まったく、頭は悪くないのですから、少しは商売に活かせばいいものを。嘆かわしい限りです」


「……ならこのまま泣き寝入るするんですか?」


 思わず口を開いた途端、ジドから凄い目で睨まれた。

 多分、余計な口を挟むなとか思ってるんだろうな。

 無視されなくなったのは良いけど……いや、あんな睨まれるんだったら無視されたままの方が良かったかも。

 そんな部下とは対照的にルゴームの方は気を悪くした様子もなく、「ホッホッホッ、まさかそんなことはしませんよ」と鷹揚に笑ってみせた。


「ちょっとした嫌がらせ程度であれば目を瞑ってもよかったのですが、流石に今回の件は看過出来ません。ビメルには少々お仕置きが必要なようですね」


「でもどうやって……」


「何も暴力に訴えるだけが解決ではありません。商人には商人のやり方があるということを教えて上げましょう」


 柔和な笑みを浮かべたまま強気な発言をするルゴーム。

 その瞳の奥には、まるでこれから戦いに臨むかのような強い光が灯っていた。

 そうしてこの夜、官憲に引き渡すこともなく男達を―――次やったら半殺しにするとジドが脅した上で―――解放した後、引き続き護衛だけを天幕に残し、俺達とルゴームは宿に戻った。

 商人らしいやり方って言ってたけど、いったい何をするつもりなんだ?

 そんな俺の疑問は、翌日にあっさりと解消された。


「ビメル、貴方の店で売られている奴隷は、私が全て買い取ります」


 全く予想しない形で……。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は5/22(月)頃を予定しております。

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