第3話 道を歩けば
お話書くって難しい。
でも楽しいです。
「だから俺は、可愛い女の子が困っている姿を見るのが好きなだけなの。見てるだけで手は出さない無害な男だって何度も言ってるだろうが」
「それのどこが無害だ! 有害そのものではないか!」
―――ガラガラゴロゴロ。
「あ、あははは、わたしなら気にしてませんから、大丈夫ですよ。ちょっと恥ずかしかったですけど」
「ほれ、ローリエちゃんもこう言ってるんだから」
「貴様が馴れ馴れしくローリエちゃんとか言うな!」
―――ガラガラゴロゴロ。
「そんなに怒鳴るなってミシェルちゃん。折角の美人が台無しだぞ?」
「喧しい! 気安く私の名を呼ぶなッ! あとちゃん付けするなぁ!」
「おっ、落ち着いて下さいミシェル」
―――ガラガラゴロゴロ。
「そもそもだ。何故貴様は私達に付いてくるのだ。何処へなりとも行きたいところへ行けばいいだろう。やはり変態か?」
「んー、どっか行きたくても此処が何処なのかも分からんしなぁ。あと何度も変態言うな」
―――ガラガラゴロゴロ。
「分からないって、じゃああんな森の中で何をなさっていたんですか?」
「気付いたら森の中にいたのよねぇ……って言ったら信じる?」
「ふざけているのか?」
「真面目に答えてるんだけどなぁ」
―――ガラガラゴロゴロ。
「ところで、本気でそれを持っていくつもりか?」
「歩き難くありません?」
「俺の貴重な財産だからな」
―――ガラガラゴロゴロ。
どうも、前回ぶん殴られてそのまま気絶した深見真澄です。
なんとか無事に目を覚ますことが出来ました。
ちょっと着陸っていうか、墜落の仕方が悪かった所為か、しばらく白目で全身痙攣していたようですが……。
まあ、身体の何処にも異常はなかったので結果オーライでしょう。
有り得ない程に顔面が痛かったのはご愛嬌。
ちなみに盛大に吹き出した鼻血については、俺が気絶している間にローリエが苦労して拭いてくれたらしい。優しい。
服に広がっている赤いシミの範囲から彼女の苦労の程が窺い知れる。
自業自得とはいえ、まさかいきなり殴られるとは思わなかった。
セクハラするのも命懸けだな。
いや、そもそもセクハラなんてするつもりはなかったんだけど。
自分は冷静だと思っていたのだが、謎の現象と訳の分からん状況に引き摺られて俺自身も気付かない内におかしなテンションになっていたようだ。反省。
多少血が抜けたことで、ある程度の落ち着きも取り戻せた。まさに怪我の功名。
起きてからすぐに二人に謝罪した後、簡単な自己紹介も済ませた。
その結果、分かったことが幾つかある。
まず俺を殴った女剣士の名前がミシェル。
男勝りな言葉遣いや凛々しい外見に反して、随分と可愛らしい名前である。
本人も気にしているのか、自分の名を口にする際はちょっと恥ずかしそうにしていた。
相方の心優しき少女―――ここ重要―――のローリエとコンビを組み、冒険者として活動しているとのこと。
冒険者―――異世界もののラノベなんかだと依頼を請けて魔物や悪党の討伐、素材採取、果てはゴミ拾いやおつかいをもこなす何でも屋という認識だが、概ね間違ってはいないとのこと。
この辺りにやって来たのも魔物討伐の依頼を請けたからだそうだ。
依頼を出した村へ向かう途中、簡単な調査をしてから行こうと森に入ったところ、ゴブリン―――やっぱりゴブリンだった―――に襲われている俺を偶然発見して助けに入った。
結果、行く当てもない異世界初心者たる俺は、彼女らに同行させてもらうことにしたという訳だ。
現在は彼女達の本来の目的地である依頼先の村を目指して移動中となる。
―――ガラガラゴロゴロ。
「私は同行を許可した覚えなどないぞ」
「そんなこと言いなさんな。旅は道連れよ」
ちなみにさっきからガラガラゴロゴロいってる音の正体だが、ガラガラの方は俺が引き摺っている二輪のキャリーカート。
出発前に近くの茂みの中を漁ってみたところ、車から降ろしていなかった荷物の数々が出てくるわ出てくるわ。
折り畳み式のテントや寝袋。
水の入ったポリタンク。
灯油の入った携行缶。
非常用の防災バッグ等々。
とてもではないが、このカートがなければ運べなかっただろう。
残念なことに車そのものは見付からなかった。無念。
そしてゴロゴロの方は一本だけ残っていたタイヤ。
今の俺は片手で荷物を積んだキャリーカートを引き摺り、逆の手でタイヤを転がし、背中にはガンケースやらを括りつけたバックパックを背負いながら移動している。
ぶっちゃけ重い。
現代日本のようにきちんと舗装された道ではないので、この大荷物では非常に歩き難い。
体力にはそれなりに自信があったけど、正直キツイ。
全身汗だくである。
だが置いていくという選択はなかった。
二人に告げた通り、これらは今の俺に残された唯一の財産なのだ。
差し迫った危機がある訳でもなし。誰が捨てるものか。
でもやっぱりキツイものはキツイので、軽口でも叩かないとやっていられなかった。
「そういえば討伐の依頼って言ってたけど、いったい何を討伐すんの?」
「もう見ただろう。ゴブリンだ」
ゴブリン。子鬼とも呼ばれる下級の魔物。
人間の子供程度の大きさで、個々の戦闘能力は高くない。
知能も低いが、妙なところでズル賢さを発揮する。
口に入るものならなんでも食うし、何処にでも巣を作る。
最大の脅威はその繁殖力と成長速度。
僅か数日で妊娠・出産し、十日も経てば大人の個体―――といっても小さい―――と変わらない程度にまで成長する。
ただ、オスに比べてメスの個体が圧倒的に少ないため、他種族の女性を連れ去っては、繁殖の道具にしているらしい。
異世界ファンタジー定番の設定そのままだな。
実際に聞くと胸糞悪いだけだが。
「参考までに聞くけど、男は捕まった場合どうなるんかね?」
「殺されて餌にされるか、あるいは拷問にされるのがオチだろうな」
「……そっすか」
聞かなきゃよかった。
「あっ、見えてきましたよ」
気分が沈んで更に足取りも重くなった俺とは対照的に、ローリエが弾んだ声を上げる。
示された方向に視線を向ければ、目的地らしい村が見えてきた。
木造の家屋や畑、家畜らしき動物。
村人の姿もチラホラ確認出来る。
これでも視力は良い方なので、遠目でもはっきりと視認することが出来た。
村の周囲を柵で囲っているのは外敵対策だろうか。
パッと見た限りの印象としては、長閑な田舎の村落といったところだ。
「予定よりも到着が遅れてしまったな。まったく、それもこれも全部貴様の所為だ」
「だから悪かったってば、そんなに怒るなよ」
ブツブツと文句を言うミシェルに軽く謝りつつも、視線は村に向けたまま歩く。
ゴブリンとの遭遇を除けば道中大きな問題はなかったものの、果たしてこの先はどうなることやら。
「……まあ、なるようにしかならんか」
異世界初の人里には、どんな人達が暮らしているのか。
自然と頬が緩んでくる。
さてさて、異文化ならぬ異世界コミュニーションといきましょうかね。
お読みいただきありがとうございます。