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第5話 若手パーティの奮闘劇 ~人という名のモノ~

前回のお話……ドナドナ

(ト ゜Д゜)奴隷だよ

(セ ゜Д゜)!?

 ―――side:セント―――



 奴隷。

 人でありながら人とは認められず、道具として扱われる者達。

 人が本来当たり前のように持つ筈の自由も権利も与えられず、金銭によって売買される人の姿をした物。

 それが今、俺の前に居る。


「ど、奴隷?」


「そ、今回俺達が守るべき商品(・・)だよ」


「商品って、人じゃないっすか……!」


「そうだけど?」


 それがどうかしたのかと訝しむように訊ね返され、俺は次の言葉を発することが出来なくなった。

 なんでこの人は平然としていられるんだ。

 いや、トルムさんだけじゃない。

 ヴィオネさんもミランダさんも―――少なくとも―――表面上の態度に変化は見られなかったし、イルナですら特に気にしている様子はなかった。

 ニナに至ってはそもそも奴隷が何かを理解していないのだろう。

 俺とトルムさんの顔を何度か見比べた後、不思議そうに首を傾げていた。

 感情的になっているのは俺だけで、それが言い様のない疎外感をもたらした。


「護衛の皆さんはこれで全員ですかな?」


「これはルゴームさん、お待たせしてすみませんねぇ」


 感情の整理が付かず、俺が口を開くことが出来ずにいると、一人の男がこちらに近寄って来た。

 恰幅の良い体格と人の良さそうな笑みを浮かべた中年の男―――奴隷商。

 今回の俺達の依頼人にして現在の奴隷達の所有者(あるじ)


「何やら揉めているように見えましたが、大丈夫ですか?」


「いやぁ、お恥ずかしいところを見せちゃってすみません。ほら、この子達みんな若いでしょ? 初めて奴隷見たから驚いちゃったみたいで」


「ふぅむ、そうでしたか。しかしお嬢さん達はともかく、そちらの彼はどうにも穏やかな様子ではなさそうですが?」


 そう言って奴隷商の男は笑みを崩すことなく、視線だけを俺に向けてきた。

 ……悪い人には見えない。

 少なくとも外見や言動だけなら善良そのものだ。

 だけど人を物と同じように売買する奴隷商なのだと知ったその時から、俺は男に対して良い印象を抱けなくなっていた。

 知らず男を見る目は険しくなり、両の拳を強く握り締めていた。

 そんな俺の肩に「セントくん、いけませんよ」とミランダさんの手が置かれた。


「人それぞれ思うところはあるでしょう。ですが我々は依頼を請けてこの場に集まったのです。個人の感情は一旦忘れて下さい」


「ミランダさん、でも……ッ」


「少なくとも今の貴方は冒険者失格です。依頼主を前にして許されるような態度ではありません」


 常と同じ丁寧な口調ながらも、彼女の厳しい眼差しと声のおかげで少しだけ冷静になることが出来た。


「……すみません、でした」


「あー、ルゴームさんすみません。道中よく言って聞かせますんで、勘弁してやって下さい」


「教育、徹底」


「ホッホッホッ、構いませんよ」


 トルムさんとヴィオネさんが揃って依頼主に頭を下げたけど、当の本人は全く気にしていなかった。


「何しろ私は奴隷商。人の命を売り買いして商いをする者です。嫌われるのには慣れておりますし、彼のような若者なら尚更でしょう」


 むしろ石を投げられなかっただけマシな方ですよと言って、奴隷商の男は鷹揚に笑った。

 あっさり許されちゃったけど、なんか調子狂うな。

 最悪、依頼から外されることも覚悟していただけにこの反応は予想外だ。

 どう返事をしたらいいかも分からずにいると、「ふぅむ、そういえば自己紹介もまだでしたな」と奴隷商の男は勝手に話を進め出した。


「トルムさん達と面識はありますが、そちらの皆さんとは今回が初めてになりますね。私の名はルゴーム=メルトール。メルトール商会の会頭を務めております」


 以後お見知りおきをと丁寧な挨拶をする奴隷商―――ルゴームに対して俺は「……セントです」とボソボソと返すことしか出来なかった。

 そんな俺に気を悪くした様子もなく、ルゴームは一つ頷くと「そちらのお嬢さん方は?」とニナとイルナにも名を訊ねた。


「……ニナ」


「イルナでぇす」


「セントさん、ニナさん、イルナさんですな。どうぞよろしくお願いします。さて、それでは依頼の話をしましょうか」


 ルゴームは奴隷の子供達が乗せられた荷馬車を「こちらが今回皆さんに守っていただく商品になります」と手で示した。

 商品という物言いにまたも反射的に拳を強く握ってしまったが、さっきミランダさんに諫められたおかげで声を上げるまでには至らなかった。

 貫頭衣に身を包み、荷馬車の中で大人しくしている子供達。

 多少年齢にバラつきはあるけど、ほとんどの子がニナと同じ十二、三歳くらいに見える。

 一番上でも十五歳(成人)に届いているとは思えない。

 多くは人間だけど、何人か獣人や小人族(リリパット)も混じっていた。


「目的地は隣街のカロム。そこで行われる奴隷市にこの子達を出品する予定です。通常なら三日もあれば到着する距離ですが、今回は荷が多く、馬の脚も普段より遅くなると思いますので、到着には更なる日数を要するものと考えております」


「ですねぇ。とはいえそこまで極端に遅くなることはないでしょうし、精々一日二日ってところじゃないですか?」


「ええ、私も同じ計算です。我が商会にも専属の護衛はおりますが、何分彼らは魔物相手の戦いには慣れておりません。もしもの時は……」


「任せて下さい。それが俺らの仕事ですんで。こっちの彼らも経験不足なところはありますけど、腕が立つのは確かです。そんじょそこらの魔物に後れを取ったりはしませんよ」


 安心して下さいと言ってトルムさんが自身の胸をトンッと叩けば、ルゴームは「ホッホッホッ、頼もしい限りですな」と満足そうに頷き、出発を宣言しようとした。

 だが―――。


「それでは時間も惜しいのでそろそろ出発しましょうか。皆さん、道中の護衛はよろしくお願い―――」


「していいんですかい、旦那ぁ?」


 ―――(しゃが)れた男の声がそれを遮った。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は4/3(月)頃を予定しております。

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