第4話 若手パーティの奮闘劇 〜依頼の誘い〜
前回のお話……先輩からの奢り
(ト ゜Д゜)お食べー
(セ ゜Д゜)ピリ辛
―――side:セント―――
カヌスの卵の納品依頼を終えてから三日。
ロビーの掲示板に貼り出された依頼票を眺めていた時、俺達は再びトルムさんから声を掛けられた。
その理由は……。
「護衛の依頼っすか?」
「そそ。一緒にどうかなって」
まさかの依頼への誘いだった。
テーブルを挟んで向かい側に座るトルムさんは「たまには後輩の面倒も見なきゃね」と妙に楽しげだった。
ちなみにトルムさんの隣には、同じパーティの紅一点で魔術師でもあるヴィオネさんが居た。
美人なんだけど表情があんまり動かないし、喋り方も途切れ途切れで淡々としてるからイマイチ何考えてるのか分からないんだよなぁ、この人。
「……ムニムニ」
「にゃあぁぁ」
まあ、テーブル越しにニナの頭に手を伸ばして、指で揉むように猫耳を触っているから、多分機嫌は良いんだと思う。
ニナもちょっと気持ちよさそうにしてる。
懐いてない相手には絶対に触らせないもんな。
「ちなみに護衛の対象は?」
「ま、よくある商人の護衛ってヤツだね。荷を積んだ馬車を隣街まで運ぶ間、野盗や魔物から守るのが俺らの仕事」
「誘ってもらえるのは有り難いんですけど、なんで俺達なんすか? 正直トルムさん達だけで護衛は充分な気が……ってかローグさんとディーンさんはどうしたんですか?」
「あー、それはねぇ……」
途端にトルムさんは表情を曇らせ、バツが悪そうに頭を掻いた。
ヴィオネさんもニナの猫耳を触るのを止めて居住まいを正した
あれ、俺なんか変なこと言ったかな?
「実はジュナの姉御の白銀級昇格が正式に決まったんだけどね」
「スゲッ、おめでとうございます!」
「うん、今度会ったら本人に直接言ってあげて。んで発表されたのが二日前で、当然というか恒例というか、そのまま打ち上げになったんだけど……」
「お祭り、どんちゃ、ん騒ぎ」
「ローグさんとディーンさんの昇格が決まった時も凄かったらしいですからね」
俺は参加してないけど、本当に朝まで呑み明かして大変だったってマスミさんから聞いた。
きっと今回も大騒ぎだったんだろうなぁなんて思っていると、トルムさんは「そう、大騒ぎの大盛り上がりだったんだよ」と深い溜息を吐いた。
「盛り上がり過ぎて……一晩じゃ終わらなかったんだよ」
「は?」
「夜が明けて、朝になっても、昼になっても呑み続け、気付けば、二晩明けて、いた」
「二晩って……え、もしかして今朝まで呑んでたんですか?」
「そう、呑んでたんだ。どうなったと思う?」
「どうなったって言われても……」
そんなのベロベロに酔い潰れるに決まってるじゃん。
いやまあ普通だったら二日も呑んでられないし、その前にとっくに潰れてなきゃおかしいんだけど、それにしたって呑み過ぎじゃね?
下手したら死んじまうよ。
「半分、正解」
「殆ど死人みたいな状態で寝込んでるよ。当分の間は使い物にならないから、ほっといて俺らだけで仕事しようって話になった訳」
「それで俺達に声掛けてくれたんすね?」
「そゆこと。ごめんねぇ、くだらない理由で」
「あ、いえ。そんなことは……」
ないと最後まで言い切ることが出来なかった。
だって本当にくだらない理由だったから。
呑んでいた時間と量は異常だけど、実態はただ酔い潰れているだけだもんな。
それだけ嬉しかったってことなのかな?
「かもね。ま、ジュナの姐さんもウチのリーダーらと同じで、何年も苦労してようやく白銀級に昇格した人だから、その分だけ喜びも大きかったのかもね」
「おかげで、ドナートはずっと、看病してる」
「病気じゃないけどね。それで依頼の方はどうかな? 一応、ミランダも一緒なんだけど」
「俺達は大丈夫です。ニナもいいよな?」
「うん」
「ねぇ、私には聞かないの?」
一人だけ意見を求められなかったイルナが不満そうにしていたけど、無視することにした。
多分、意見を求めたところで文句しか言わないと思うから。
「んじゃ手続きは俺の方でやっておくから、セントくん達は普通に旅の準備だけしといて。食料は幾らか用意してもらえる筈だから、そこまで買い込まなくても大丈夫。明日の昼前に東門の前に集合ね」
「分かりました。ありがとうございます。色々と気に掛けてくれて」
「いいのいいの。後輩の面倒見るのも先輩の務めだし、それに……そろそろ経験しておくべきだと思ったからさ」
「経験?」
護衛の依頼をってこと?
訊ねてみたけど、トルムさんは「いや、気にしなくていいよ」と答えてくれなかった。
その時に浮かべていたトルムさんの表情がなんだか申し訳無さそうに見えたのは、俺の見間違えかな?
それ以上は質問を重ねることも出来ず、そのまま解散することになった。
明けて翌日。
俺達が集合場所の東門前に到着した頃には、先輩達も依頼主である商人もとっくに集まっていた。
門の近くには複数の馬車が停めてあったが、その内の一台を目にした瞬間、俺は息を呑んだ。
「トルムさん、アレ……なんなんすか?」
「何って言われてもねぇ」
「……なんであんなのが乗せられてるんすか?」
「そりゃアレが商品だからに決まってるじゃん」
雨除けの幌が付けられた大きめの荷馬車。
その荷車に乗せられていたのは―――。
「今回の依頼人は……奴隷商だよ」
―――沢山の子供達だった。
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