第42話 それぞれの選択 〜安藤隆弘〜
前回のお話……安藤さん(現物)登場
(真 ゜Д゜)ちわー
(安 ゜Д゜)どもー
アーリィの手引きによって城外に避難した筈の安藤さんだったが、どうやら俺が回復に努めている内に戻って来たらしい。
そんな彼が見舞いのため、俺の部屋を訪れてくれた。
改めてお互いに自己紹介を終え、取り留めのない会話をして十分も経った頃だろうか。
唐突に安藤さんが「ありがとうございます」と言って、頭を下げてきた。
「深見さんが居なければ、今頃は私も悪魔にされていたかもしれません」
「そこはまぁ……お互い様じゃありません? 俺だって安藤さんの協力が無かったら、作戦自体上手くいってなかったかもしれませんし」
「でも結局は深見さんばかりが危険な目に遭って……」
「役割分担の結果なんですから、別に安藤さんの所為じゃありませんよ。むしろ俺の見積もりが甘かったんです。まさかあの女がここまで厄介な相手とは思ってもみませんでしたから」
実際、俺の認識が甘かったのは事実だ。
最大限の警戒をしていたつもりでも、結局まるで足りていなかった。
エルビラ=グシオムは二重三重と張り巡らせた罠でこちらの策をことごとく潰し、俺達を追い詰めた。
今思えば、勝利出来たのは単純に運が良かったからとしか思えない。
悪魔との戦いなど二度と御免である。
「なんにしてもこうしてお互い無事だった訳ですから、結果オーライってことにしましょうよ」
「深見さんがそれでいいのなら、私は構いませんが……」
「構いませんとも構いませんとも。むしろ俺の方こそすみません。結局エルビラから召喚に関して何も聞き出せませんでした」
「そんなことはありません。命懸けで戦って、私達を助けてくれたじゃありませんか」
これで文句なんか言ったら罰が当たります。
そう言って、安藤さんは穏やかな笑みを浮かべた。
気付けば俺もつられて笑みを浮かべていた。
「深見さんはこれからどうされるんですか?」
「取り敢えずまともに動けるようになったら、召喚に関する情報を集めるつもりです。あんまり期待は出来ませんけどね。その後は……まあボチボチ仲間達と一緒に帰りますかね。観光出来るような感じでもありませんし」
「確か隣国の辺境都市で主に活動されているんでしたっけ?」
「ですです。なんなら安藤さんも一緒に行きます?」
「私は……」
何かを言い掛けたところで、安藤さんは目を閉じた。
そのまま二十秒程黙考していただろうか。
目を開けた安藤さんからの返答は「この国に残ります」というものだった。
なんとなくだけど、そんな気はしていたので疑問を抱くことはなかった。
「一応理由を聞いても?」
「手紙でもお伝えした通り、私の目的は何としても日本に……家族の元に生きて帰ることです。そのためにも送還の手段を見付けなければいけません」
「確かに聞いてます」
「国の中枢に入れば、そういった情報も集まり易いと思うんです」
「この国そのものを利用して情報を集めるって訳ですか。見返りに安藤さんもテッサルタに協力すると」
「ええ、おそらく向こうもそれを望んでいると思いますから」
悪い選択ではないと思う。
組織立って調査した方が情報を集め易いし、バックに一国が付いていれば、色々と融通も利くだろう。
個人では到底知り得ない情報だって得られるかもしれない。
王国サイドとしても安藤さんを手元に置いておいた方が―――能力的にも立場的にも―――安心出来るだろうし、充分取引は成立するだろう。
「すみません。色々と気を回して下さったのに」
「それこそ気にしない下さいよ。立場が逆なら俺だって同じ選択をしたと思います」
彼が望むならネーテに連れて行くつもりだったけど、どうやらその必要は無くなったらしい。
安藤さんは子供ではなく、自ら考えて行動出来る大人であり、俺よりも人生経験を積んでいる先輩なのだ。
俺が余計な口を挟むことではないし、エリオルム王子なら彼を不当に扱う心配もないだろう。
「俺も協力しますよ。これでも冒険者ですから、あちこち色んな所に行きますし、もしかしたら思わぬ掘り出し情報とか得られるかも」
「本当にありがとうございます。深見さんは……この世界に残られるんですか?」
「そうですね。まあ、もし帰れるんだったら両親や知り合いに挨拶くらいはしますけど、骨はこっちの世界に埋めるつもりです」
「素敵なお仲間が沢山出来たんですね」
「有り難いことに俺なんかを慕ってくれてるみたいです。日本で暮らしてた時は、異性との縁なんてとんと無かったのに……」
不思議なもんですよと言って肩を竦めれば、安藤さんは「男女の出会いってそういうものですよ」と微笑んだ。
「安藤さんは奥さんとどちらで知り合ったんですか?」
「会社が同じなんです。といっても部署は別だから、接点なんて無かったんですけどね」
まさかの職場恋愛だった。
恋愛ドラマなんかでよくありそうなパターンである。
「お子さんもいらっしゃるんですよね? 女の子でしたっけ?」
「ええ、生まれたばかりの娘が一人。こんなことになっていなければ、きっと今頃は妻と二人で育児に悪戦苦闘していたと思います」
「安藤さんが戻るまで奥さん大変ですね」
「幸いウチの両親が近くに住んでいますから、そちらに期待するしかありませんね」
「俺独り身だからイマイチよく分かりませんけど、やっぱ子供が生まれた時って泣きました?」
「それはもう……感情が溢れ出して号泣しましたよ」
「男泣きですな」
「三十を過ぎてようやく授かった我が子ですから。あの子は私の宝物です」
家族の話題になった途端、安藤さんはこれまで以上に饒舌になり、まるで少年のように瞳をキラキラと輝かせた。
彼が如何に奥さんや娘さんのことを大切に想っているのかが伝わってくる。
「娘が一歳の誕生日を迎える前に絶対日本に帰ってみせます!」
「そりゃ責任重大だ。帰らなかったらパパさん一生恨まれちゃいますね」
鼻息を荒くする安藤さんを見て、俺は笑いながら頑張れパパさんと声援を送った。
年齢の近さやお互いの境遇もあってか、顔を合わせたばかりにも関わらず、俺と安藤さんはすぐに打ち解けた。
それから一時間以上も俺達は他愛の無い話題で盛り上がり、旧来からの友人のような気安いやり取りを楽しんだ。
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次回更新は1/23(月)頃を予定しております。




