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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第3節 アラサー警備員、異国を巡る 〜激情編〜
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第13話 王都攻略 〜別働隊〜

前回のお話……王子様の演説

(王子 ゜Д゜)行ってきます!

(民衆 ゜Д゜)行ってらっしゃい!

 国王と第二王子一派による現政権を打倒し、黒幕たる邪神教団〈金央の瞳〉が幹部エルビラ=グシオムの身柄を取り押さえ、違法召喚を阻止する。

 以上が王都攻略の絶対条件なのだが、ここまでやり遂げたとしても全てが解決する訳ではない。

 何しろエリオルム王子には〈金央の瞳〉の企みに加担した連中を処罰し、傾き掛けた国の経済を立て直すという重大な役割が残っている。

 本来ならその辺りのことまで俺が気に掛けてやる義理などないのだが、どうせ乗り掛かった船だ。

 中途半端に手を貸して寝覚めの悪い思いをするよりも、今の内に手を打ち、全部終わったら後腐れなくこの国を去れる状態にしておこうと判断したのだ。

 早めのアフターフォローとでも思っておこう。

 そのための第一段階として人心掌握―――予め国民を味方につけておくことにした。

 今現在、国民からの王家に対する忠誠心や信頼は皆無と言っていい。

 苦しい生活を余儀なくされている上に、人を人とも思わないような暴挙を繰り返しているのだから当然だ。

 そんな中で行われた現政権打倒の演説。

 旗頭となっているのは、この国で最も国民に慕われているエリオルム王子。

 暴走する国王(ちちおや)を止めるために王都へ帰還した王太子(むすこ)。正義は我にあり。

 結果は大成功。事前に種を蒔いておいた―――エリオルム王子名義の食糧支援―――甲斐があったというもの。

 民衆からの声援に背中を押され、王子一行は敵の本拠地たるヴァンナッシュ城へと向かった。

 王城サイドとて一枚岩ではない。

 現に宮崎啓太と共にいた兵士は全員が俺達に協力している。

 少しでも国王らの行いに疑問や不信感を抱いている者なら、国民の支持を一心に集めた今の王子と敵対することに躊躇いを覚えるだろう。

 勿論、それだけで全ての障害を排除するのは難しいだろうけど、格段に危険が減る筈だ。

 ゼル爺やフレット達に加え、ウチの女性陣や長瀬さんも一行の護衛についているのだ。

 これだけの戦力。余程の強敵が相手でもない限り、皆が遅れを取ることはあるまい。

 ついでに強敵と呼べるような人物がほとんど残っていないことも把握済み。

 まず間違いなく王子一行は王城へ辿り着けるだろう。

 正面から堂々と入城を果たし、国王や第二王子らを拘束。場合によっては即座に処断する。

 そしてその間に……。


「ボク達はこっそり城に潜入して、〈異邦人(エトランジェ)〉を外へ連れ出すって訳だね」


 先導するアーリィの言葉にそういうこったと頷きを返す。

 正面から王城に乗り込む王子一行―――本隊から離れて独自に行動する別働隊。

 俺、アーリィ、ジェイム=ラーフ、アウィル=ラーフの四人は本隊が敵の目を引き付けている隙に王城へ潜入。

 軟禁されているという残る三人の日本人と安藤さんを救出し、安全な場所まで避難させる。

 ありきたりな作戦かもしれないけど、限られた戦力で実行可能な作戦の中では、これが最も確実性が高い。

 何しろ本隊の先頭に立つのはエリオルム王子。

 無視など出来る筈もなく、否が応でも意識と戦力を向けなければならない。

 とはいえ、こちらものんびりしてはいられない。


「冷静に考えりゃ別働隊なんてすぐに思い付くからな。警戒されてても不思議じゃない」


「だからこうして急いでる訳ですけどね」


 並んで走る俺とジェイム=ラーフの後ろでは、何やらアウィル=ラーフが「また地下かよ」と若干げんなりしたように息を吐いていた。

 何か地下に嫌な思い出でもあるのだろうか?

 現在の俺達は、アーリィの案内で王城へ通じる地下道を進行している。

 坑道のように掘り進めながら造ったのか、大人数人が並んで歩ける程の幅を有する歪な半円形の通路。

 崩落防止のためだろう。

 通路の側面や上部には、単管パイプのような細長い鋼管による補強が施されていた。

 必要最低限ではあるものの、一定間隔で照明―――おそらく魔石を利用したランプ―――が設けられていたので、ある程度は視界を確保することも出来た。

 個人的には地下壕のような印象を受けるけど……。


「まさかこれ、王子の言ってた秘密の抜け道とやらじゃないよな?」


「お、よく知ってるね。王族と側近だけが使える緊急用の脱出路だよ。割りと迷路状になっててね。ボク達は城下町……途中の脇道みたいな所から潜り込んだけど、王都の外にまで続いてる道も有るよ」


「アーリィが知ってる時点で、もう秘密でもなんでもないんじゃ……」


『そもそも何故知っておるのじゃ?』


「そりゃまあアーリィだし?」


 この国の中で、果たして彼女が知らないことなどあるのだろうか。

 抜け道然り。アーリィなら王城の内部構造だけではなく、そこで起居する者達の正確な人数や行動パターン、趣味嗜好から人に言えない恥ずかしい秘密まで、全て把握していても不思議ではない。

 何なら今日のロアナの下着の色まで知っていたとしても俺は驚か―――。


「知ってるよ?」


 ―――マジで!?


「そ、それは聞いても大丈夫な情報なのか?」


「えー、別に教えてもいいけど、流石に無料(タダ)って訳には……あ、でもそこのアウィルだっけ? 彼女のパンツの色だったら、特別に無料(タダ)でもいいよ」


「それは別にいいや。どうせ黒だろうし」


「正解。よく分かったね」


「おいッ、どうせってどういう意味だ! あとなんで知ってんだテメェら!?」


 やはり黒だったか。

 正解したのに全然嬉しくないな。

 先程まで若干げんなりしていた筈のアウィル=ラーフだが、今度は急にギャアギャアと騒ぎ始めた。

 反響するので大声を出すのは止めてほしい。


「喧しい阿婆擦れだな」


「だからイジるの止めて下さいってば。あとで苦労するの私なんですよ?」


 だってイジり易いんだもの。

 これから敵の本拠地へ潜入しようというのに、全然緊張感が感じられなかった。

 実際、胸ポケットから顔を覗かせたニースも『緊張感がないのぅ』と呆れている。


「ま、緊張しまくってガチガチになってるよかマシだろ」


『それはそうかもしれぬが、雰囲気だけでももう少し……む?』


 何か物申そうとするニースだったが、途中で怪訝そうに眉を顰めると、視線を地下道の奥へと向けた。


「ニース?」


『微かじゃが、魔力の気配を感じた』


 用心するのじゃとニースが警戒を促した直後、不充分な照明だけでは見通すことの叶わない一本道の遥か先で光が瞬いた。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は6/27(月)頃を予定しております。

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