第12話 王都攻略 〜王太子参る〜
前回のお話……隈さえ無ければ
(真 ゜Д゜)惜しい
(仁 ゜Д゜)???
王都ドレスナム。城下町の一角に位置する広場。
そこはつい昨日、兵士と民衆の集団がぶつかり合うという騒動の起きた場所でもある。
そして現在、広場には兵士達の代わりに昨日とは異なる第三の集団の姿があった。
集団を遠巻きに眺めているだけの民衆だったが、その先頭に立つ人物を目にした瞬間、誰もが息を呑んだ。
涼し気な淡い青の髪と濃褐色の瞳。
貴公子然とした端正な顔立ち。
彼の容姿を知らぬ者など、この国には一人として存在しないだろう。
有り得ない。何故あの御方が此処に居るんだ。
民衆の間に動揺が広がり、ざわめきが大きくなってきた時、「静まれぇ!」という喝声が広場に響き渡った。
「テッサルタ王国第一王子、エリオルム・キューズ=テッサルタ王太子殿下の御言葉である! 傾聴せよ!」
集団の先頭に立つ人物―――エリオルム王子を守るように傍に控えた老騎士ゼル爺が再び上げた大喝により、今度こそざわめきはピタリと止んだ。
誰もが緊張の面持ちで注目する中、一歩前に出たエリオルム王子は、「まず、僕は皆に謝らなければいけません」と切り出した。
「今、王都に蔓延している悪意。全ての元凶はこの国に入り込んだ邪神教団による悪しき企みと、その企みに加担した我が父……現国王です」
静まり返った広場に響くエリオルム王子の声。
民衆は誰一人口を挟むことなく、彼が語る言葉に耳を傾けていた。
「父は自らの野望を実現させるために邪神教団と手を結び、その結果として多くの民の命が犠牲となりました。そして僕は父の行いに気付きながらも、それを正すことが出来ず、争うだけの勇気も持てず……王都から逃げ出しました」
『……』
「避難民の保護など建前に過ぎません。僕は怖くなって逃げただけなんです……!」
端正な顔を苦しそうに歪め、これが僕の犯した罪です悔恨の言葉を吐き出すエリオルム王子の傍にそっとロアナが寄り添った。
彼の言葉を受け、民衆の中から突然泣き出す者が少なからず出てきた。
きっと犠牲になった民―――召喚の生贄にされた者達の家族に違いあるまい。
「……こうして王都に帰って来たのは他でもありません。父の暴走を止めるためです。一度逃げ出した男が今更何をと思われるかもしれませんが、今度こそ僕は王族としての責務……自分の罪と向き合います」
毅然と顔を上げたエリオルム王子は、視線を王城の方へと向け……。
「これより城へ向かい、父の身柄を……いえ、父だけではありません。此度の企てに加担した全員の身柄を拘束します。全てを終えた後は、僕も共に裁かれましょう。だから―――」
―――もう少しだけ待っていて下さい。
エリオルム王子の口から語られた謝罪と告白。そして覚悟。
それらは静かに、だが確かに民衆の中へと浸透していき、目に見える形となって現れた。
集まった民衆の一人が「エリオルム王太子殿下万歳!」と拳を天に突き上げれば、他の者達も次々と声を上げた。
「王太子殿下バンザーイ!」
「お帰りなさいませ、エリオルム様」
「どうか我々を導いて下さい!」
「この国には貴方様が必要です!」
民衆はエリオルム王子の帰還を喜び、讃えこそすれども、彼のことを非難するような者は一人も居なかった。
まさか歓迎してもらえるとは思っていなかったのだろう。
エリオルム王子は微かに目を潤ませながら、絞り出すように「……ありがとうございます」と呟いた。
「本当に大した人気だよ」
離れた所で様子を窺っていた俺は、そのような感想を漏らすことしか出来なかった。
ここまでぶっちゃけた―――逃げ出したことを正直に告白した時は流石に驚くような気配が伝わってきた―――のだから、多少は場が荒れることも想定していたのだが、そのような事態に発展する恐れはなさそうだ。
全ては人徳の為せる業か。
『マスミとは大違いじゃ』
「ほっとけ。俺にだってちょっとくらいはある……筈」
断言出来ない自分が情けなかった。
慰めるように優しく肩を叩いてくれる女性陣。
気遣いに泣けてくる。
そんな漫才染みたことをしている間にエリオルム王子一行は移動を開始してしまった。
「エリオルム王太子殿下がお通りになられる! 道を開けよ!」
サーベルを掲げたフレットの声に応じ、集まっていた民衆の波が左右へと割れ、その間をエリオルム王子を先頭にした集団が悠然と歩いていく。
これで民衆を味方に付けることには成功。
作戦の第一段階は終了である。
「んじゃあっちはこのまま城へ向かってもらうとして、みんなも王子の護衛よろしく」
「それは構わんが、マスミの方は本当に大丈夫なのか?」
「たった数人で王城へ忍び込むだなんて、やっぱり危険過ぎると思うんですけど……」
「マスミくんはぁ、割りと頻繁に無茶するからぁ、とっても心配なの〜」
ミシェル、ローリエ、エイルの三人が心配で堪りませんと言わんばかりに眉根を下げ、こちらを覗き込んでくる。
そんな頻繁に無茶な真似ってしてたかな?
心配しているのかいないのか、ユフィーだけは「無事なお帰りをお待ちしております」と常と変わらぬ態度だったが。
そんなウチの女性陣を他所に……。
「マスミのことなら心配いらないよ。ボクがちゃんとエスコートするからさ」
お任せあれと自信満々に胸元をポンと叩くアーリィ。
弾みでエイルに匹敵する爆乳がポヨンと揺れる。
思わず拝みたくなってしまったのは内緒だ。
彼女は俺に同行してもらい、王城への潜入を手伝ってもらう予定だ。
他に潜入するメンバーが誰なのかといえば……。
「同行出来ない皆さんに代わり、私がマスミさんをお守りしますので、どうかご安心を」
「貴様が一番信用ならん」
「マスミさんの身に何かあったら、貴方達殺しますからね?」
「あ? なんだやんのかコラ?」
ミシェルとローリエに睨み付けられながらも不敵な笑みを浮かべる―――見えないけどきっと浮かべてる―――ジェイム=ラーフとベール越しにメンチを切るアウィル=ラーフ。
俺、アーリィ、そしてダブル宣教官。
以上四名が王城への潜入メンバーとなる。
『不安な人選じゃのぅ』
「言ってくれるな」
自覚はあるから。
そろそろこちらも行動を開始しようかと思った矢先、長瀬さんが「あのぉ」と遠慮がちに声を掛けてきた。
「どしたの、長瀬さん?」
「すみません。本来なら私がやるべきなのに、結局深見さんに押し付けるような形になっちゃって……」
「別に押し付けられただなんて思ってないよ。それに言っちゃ悪いけど、長瀬さんには向いてないと思うし」
運動苦手でしょと訊ねれば、「恥ずかしながら学生時代の体育の成績は常に一でした」と正直に運動音痴を告白する長瀬さん。
彼女の体力はユフィーをも下回るのだ。
少人数での潜入など任せられる筈もない。
「今回に限っちゃ、俺の方が適任だろうし、長瀬さんはウチのメンバーと一緒に王子の護衛に専念しておくれ」
「……分かりました。必ず王子を王城まで送り届けます」
「良い返事だ。みんなも準備はいいな?」
それじゃあと俺は周りに集まった仲間達と協力者らの顔を順に見回し、宣言した。
「王都攻略の開始だ」
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次回更新は6/20(月)頃を予定しております。




