第1話 反攻の兆し
テッサルタ王国編の第三節(最終節)を開始します
(`・ω・´)ゞ
王都ドレスナム。
国の中心地でありながら、そこには華やかさも賑やかさもなく、只々陰鬱な空気だけが漂っていた。
侍女として王城への奉公に出たまま、行方知れずとなってしまった四十名もの娘達。
人の心を失っているとしか思えない理不尽極まる国王の勅命。
反発した民に対する容赦無い仕打ち。
民に慕われていた王太子は一部の兵士や城下町からの避難民を引き連れて王都を去り、国王に代わって実権を握った第二王子は更なる理不尽を強いた。
比例するように治安は悪化し、外を出歩く民の数も日に日に少なくなっていく。
王都での商売から手を引く商会も跡を絶たず、最近では物の流通にまで影響が出始め、徐々に、だが確実に物価は上がり続けていた。
城下町に暮らす民といえども、全員が裕福な訳ではない。
その日暮らしの者達からすれば、物価の上昇は文字通りの死活問題なのだ。
国に守られるべき民の生活が、肝心の国自体に脅かされている。
最早テッサルタ王国は、本来あるべき国家としての機能すらも失いつつある状況だった。
誰もが明日に希望を抱くことが出来ず、無為に日々を過ごしていく中、ある時から奇妙な噂が流れ始めた。
貧しい生活を送っている民に無償で食料を提供している一団が居る、と。
その一団は全員が顔を隠しており、一見すると正体不明の怪しい集団にしか見えなかったが、実際に彼らから援助を受けた民には関係のないことだった。
こんなご時世になんと情け深いことだろう。
本当に有り難い限りであると、食料を受け取った民は皆感謝し、同時に疑問を抱いた。
何故、自分達のためにここまでしてくれるのかと。
その問いに対する答えは……。
―――それが使命だから。
実に単純明快ながらも、やはり首を捻ってしまうような内容だった。
一団は最後まで素顔を晒すことはなかったものの、自らの正体については語ってくれた。
―――我々はエリオルム王太子殿下に仕える者である。
―――現在、殿下は王都を離れているが、決して国や民を見捨てた訳ではない。
―――必ずやこの国に潜む悪を駆逐し、かつての平穏な生活を取り戻してみせる。
―――今は殿下を信じて耐えてほしい。
荒唐無稽な話だ。
語られた内容が真実である保証など何処にもなかったが、援助を受けた民はその話を疑うことなく信じた。
第二王子らの横暴に疲れ果てていたのも勿論あるだろうが、それ以上にエリオルム王太子の存在が大きかった。
身分も立場も関係なく、誰に対しても分け隔てなく接するエリオルム王太子は、城下町で暮らす全ての民から慕われていた。
―――王太子殿下が国を救うために尽力して下さっている。
―――自分達は見捨てられてなどいなかった。
―――ならば諦める訳にはいかない。
―――あの御方の力にならなければ。
今尚、王都ドレスナムには暗く沈んだ空気が立ち込めている。
だが国家に裏切られ、絶望していた筈の国民は奮起した。
エリオルム王太子という最後の希望のために。
今、反攻の兆しが現れようとしていた。
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