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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第2節 アラサー警備員、異国を巡る ~無情編~
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第25話 王都潜入 〜寂しい城下町〜

前回のお話……正面から王都潜入

(真 ゜Д゜)堂々と!

(ジ ゜Д゜)何か違う気が…

 ジェイム=ラーフとロアナと共に身分を偽り、堂々と正面から王都に潜入した俺だったが……。


「此処が王都?」


「はい、テッサルタ王国王都ドレスナムです」


「成程。流石は王都と言うだけあって、立派な建物が多いですねぇ」


「確かに多いけど、それにしたってこれは……」


 呑気な感想を口にするジェイム=ラーフとは対照的に、俺は初めて目にする王都の光景に困惑していた。

 王都ドレスナム。

 国の中心地に相応しい堅牢な城塞によって守護された都の中は区画整理が徹底されていた。

 城下町と言うのだろうか。

 整然と立ち並ぶ建物は、そのどれもが一般的な住居よりも遥かに大きく、豪華なものばかり。

 現代日本の様式とは異なるものの、ネーテなどと比べてかなり近代的な造りのものが散見された。

 門から続く主街道は大人十人が横並びに歩いても尚余裕が有る程に広く、石畳が隙間無く綺麗に敷き詰められている。

 更には交通や輸送のためであろう幾つもの細い水路―――都市運河も張り巡らされていた。

 何よりも目立つのは美しい白亜の城―――テッサルタ王国の中枢たる王城ヴァンナッシュ城。

 門を抜けてすぐの所からでも、その威容を目にすることが出来た。

 元の世界では決してお目に掛かることの出来ない光景。

 本来ならもっと興奮し、心が躍る筈なのだが……。


「人……少な過ぎだろ」


 これまで見てきたどの都市よりも立派な町並みであるにも関わらず、往来を行き交う人の数は余りにも少なかった。

 エルベも相当人通りが少なく、陰気な印象は強かったけど、この城下町はアレよりも更に酷いかもしれない。

 避難民が出ている時点で、ある程度予想はしていたけど、まさかここまで活気が感じられないとは……。


「別に賑やかなのを期待してた訳じゃないけど、こいつはまた随分と寂しい感じだねぇ」


 俺の隣に並んだロアナが「これが今の国の現実です」と感情の読めない声で説明してくれた。


「国王陛下の勅命が下されて以降、城の内外を問わず、数多くの民が王都を去りました。王家に対して反感を抱いた貴族も自治領に引き籠ったままです。今の王都に残っているのは、王家へ協力すると決めた者。逃げたくとも逃げられなかった者。そして……全てを諦めた者だけです」


「諦めねぇ。まあ国王乱心じゃ、色々諦めたくもなるわな」


 一応、周りに聞かれないよう声量を抑えつつ、横目で隣に立つロアナの様子を窺ってみる。

 果たしてフードの下に隠された彼女の瞳に、今の城下町はどのように映っているのだろう。

 傍から見た限り―――顔は見えないけど―――では、ロアナが城下町の光景に何かしら感情を動かされている様子はなかった。


「取り敢えず移動しませんか? 幾ら人通りが少ないとはいえ、いつまでも門の前に(たむろ)しているのも迷惑でしょうし」


 この格好では悪目立ちし兼ねませんと言って両手を広げるジェイム=ラーフ。

 フードを目深に被って顔を隠した三人組。

 確かにこれ以上ない程怪しいな。

 一応、身分を偽って潜入しているのだから、目立つ訳にはいかない。

 ジェイム=ラーフの意見に従い、一先ず街道の端を歩いて移動することにした。


「入門する時に言ってたザッハ商会ってのは、実在する商会なんだよな?」


「はい、王都を中心に手広く商売をしている大手の商会です」


「大手か。そんなところの名前を勝手に使って大丈夫か? あの書類って偽造だろ? 調べられたらバレるんじゃ……」


「確かに書類は偽造したものですが、使われている証印自体は本物です。仮に調査をされたとしても早々バレる心配はありません」


 そもそも今は調査をしているだけの余裕もないでしょうしと何でもないことのように言ってのけるロアナ。

 書類は偽造で証印は本物?

 そんな物をどうやって手配したのやら。

 避難民の中にザッハ商会の関係者でも居たのか?


「知りたいですか?」


「……」


 無言で首を横に振れば、ロアナは「そうですか」と微妙に残念そうな声を漏らした。

 世の中には知らなくていいこともあるのだ。

 藪蛇になりそうなので、これ以上込み入ったことを訊ねるのは止めておこう。

 そして彼女の密偵としての実力は本物らしい。

 敵ならば恐ろしいが、味方なら実に心強い……そう前向きに捉えておこう。


「それでマスミさん、今後はどのようにされるおつもりで? こうも人出が少ないと聞き込みで情報を集めるのは難しいと思いますよ?」


「ギルドがまともに機能してるんだったら、そっちに行くんだけどなぁ。流石に最新の情報は持ってないよな?」


「可能な限りの収集に努めてはみましたが、あまり殿下のお傍を離れる訳にもいかず、それ程確度の高い情報は……」


「いや、仕方ないさ」


 逆にそんな状態にも関わらず、どうやって彼女は情報を集めたのだろう。


「知らないなら知ってる奴から聞けばいいだけだ。何の問題もない」


「聞くって誰にですか? マスミさん、城下町に知り合いでも居るんですか?」


「そんなの居る訳ねぇじゃん。こちとら王都に来たのだって今日が初めてなのに」


 ではいったいどうやってと怪訝そうにジェイム=ラーフは首を傾げた。

 ロアナも気になるのか、口を挟まずに黙って耳を傾けている。

 別段、何か特殊なことをする訳ではない。

 というか王都行きを決めた時から、おそらくあそこ(・・・)に頼る他ないだろうなぁと考えていたのだ。


「これから行くのは、金さえ積めば大概の仕事は引き受けてくるって場所さ。合法非合法を問わず、な」


「そんな都合の良いものが―――」


「有るんだなぁ、これが」


 と言って、俺は懐から折り畳まれた一枚の便箋を取り出すと共に目的地の名を告げた。


「闇ギルドって知ってるか?」

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は12/10(金)を予定しております。

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