第21話 姦しい四人 ~女性陣と宣教官~
前回のお話……ジェイム=ラーフと仲良くトーク?
(真 ゜Д゜)なんで?
(ジ ゜Д゜)うまうま
―――side:ミシェル―――
『ウーッ』
私、ローリエ、エイルの三人は、目元を黒いベールで隠した女―――アウィル=ラーフを睨み付けていた。
同じようにアウィル=ラーフも歯を剥き出しにし、並んで立つ私達を唸りながら睨み付けてくる。
火にかけた鍋を挟んで向かい合う私達とアウィル=ラーフ。
何故このような状況に陥っているのかといえば、それは私達が朝食の準備をしている最中……。
「どうも皆さん、おはようございます」
ゼフィル教の宣教官・ジェイム=ラーフが親し気に朝の挨拶をしてきたのだ。
アウィル=ラーフも一緒だったが、こちらは私達の方に視線を向ける―――そもそも隠している―――ことすらなく、大口を開けて欠伸をしていた。
はしたない女め。
「……何をしに来た?」
「あははは、そんなに嫌そうな顔をしなくてもいいじゃありませんか。まあ、嫌われても仕方ないとは思いますけど」
「自覚があるのなら、いちいち口に出すな」
人を食ったような態度や物言いも気に食わん。
それは私だけではなくローリエやエイルも同様で、多少の差はあれども二人も私と同じく嫌そうに顔を顰めていた。
「歓迎の雰囲気じゃありませんねぇ」
「喧しい。無駄口を叩くな」
「追い返されないだけでも感謝して下さい」
「それでぇ、結局何しにきたの~?」
ふざけた用件だったら張り倒してやるからな。
その意思を隠すことなく視線に乗せてぶつけてやるも、ジェイム=ラーフに響いた様子はなく、「マスミさんと少し話しておきたかっただけですよ」と言って肩を竦めた。
「マスミに話だと?」
「ええ。昨日の提案についての答えをまだ聞けていませんし、戦った怪物……悪魔の件も話せずじまいでしたから」
昨夜、この男は私達……というよりマスミに対して協力を提案してきた。
結局フレット殿に注意されたり、タケト=ニシムラの介入があった所為で有耶無耶になっていたが、私は協力することに断固反対だ。
一度戦ったからというだけではなく、根本的にこの胡散臭い男が信用出来ないのだ。
何よりもこの男は、マスミに対して異常な執着を持っている。
こんな危険な輩を彼に近付かせる訳にはいかない。
「話すことなどない。帰れ」
「いえ、私はマスミさんに話を……」
「うるさい。いいから帰れ」
「これ以上、マスミさんに関わらないで下さい」
「そっとしてあげて~」
マスミはまだテントの中で眠っている。
本人に自覚はないかもしれんが、今のマスミは自分で考えるよりも遥かに消耗している。
肉体的にではなく精神的に。
当然だ。折角出会ったニホンジンが悪魔に変貌し、あんな惨い最後を目の当たりにしてしまったのだから、ショックを受けていない筈がない。
せめて今だけはゆっくりと休ませて上げたい。
ローリエとエイルも私と同じ気持ちでいる。
だから……。
『帰れ、この邪教徒』
自然と口を揃えた私達が拒絶の言葉を口にすれば、ジェイム=ラーフは処置無しと言わんばかりにゆるゆると頭を振った。
そうしてジェイム=ラーフが黙り込めば……。
「あ? なんだやんのかコラ」
今度はアウィル=ラーフが噛み付いてきた。
はしたない上に口の悪い女め。
どうやら邪教徒呼ばわりされたことに腹を立てているようだが、知ったことではない。
事実、ゼフィル教に対する世間一般の認識は邪教扱いなのだから、別に私達の発言が間違っている訳ではない。
黒のベール越しにこちらを睨み付けてくるアウィル=ラーフを私達も負けじと睨み返す。
ジェイム=ラーフのことは気に食わんが、この女はもっと気に食わん。
かつてマスミがアウィル=アーフと戦った際、彼はこの女のナイフに左手を刺されているのだ。
傷自体はユフィ―の法術によって既に完治しているものの、重症を負ったことに変わりはない。
絶対に許さん……!
「なんだ? やってほしいのか? だったらやってやろうか?」
「そろそろ貴方方の顔も見飽きたところです」
「阿婆擦れさ~ん」
エイルの阿婆擦れ発言を受けて、アウィル=ラーフは「テメッ、アタシは阿婆擦れじゃねぇ!」と更に語気を強めた。
「まだ乙女だっつってんだろうがよ!」
「嘘を吐くな! 貴様のような乙女がこの世に居てたまるか! はしたない上に口も悪く、おまけに破廉恥な女め!」
「嘘じゃ……って誰が破廉恥だコラァ!」
「何処からどう見ても破廉恥じゃないですか! なんですかその見せ付けるような服は! 隠す気あるんですか! 脚もそんなに丸出しで恥ずかしくないんですか!」
「これが教団衣なんだからしょうがねぇだろ! アタシがデザインした訳じゃねぇ! ってかそれを言ったらテメェらんとこのエルフの方がよっぽど丸出しだろうが!」
「エイルはいいんだ! 半分痴女みたいなものなんだから!」
「違うよ~?」
「そうです! エイルさんは見られて悦ぶタイプだから問題ないんです!」
「だから違うよ~?」
エイルがやんわりと否定してくる傍らで何故かアウィル=ラーフは「えっ、何その性癖。怖い……」と若干引いていた。
これには然しものエイルも気分を害したようで、ムッとした表情を浮かべた後、「蜘蛛のお口に手を入れてぇ、ニヤニヤしてるような変態さんにはぁ、言われたくないの~」と言い返した。
「ニ、ニヤニヤなんてしてねぇわ!」
「絶対してました~」
ネーテの森で対峙した時、アウィル=アーフは配下の巨大蜘蛛ネフィラ・クラバタに魔薬と呼ばれる危険な薬物を与え、意図的に暴走させたことがある。
その方法が蜘蛛の口腔内に直接手を突っ込んで呑み込ませるというかなりアレなやり方だったのだが……。
「確かに笑っていたな」
「悪そうに笑ってましたね」
理由はともかく笑っていたのは事実だ。
「所詮は変態教団の一味か」
「魔物大好きですもんね」
「うるせぇな関係ねぇだろ! 他人の趣味にケチ付けんじゃねぇよ! ってかマスミやあの頭のおかしい神官とつるんでる時点でテメェらも大概だろうが!」
「貴様それはどういう意味だ! 私達をユフィーと同列に語るな殺すぞ! あとマスミを馬鹿にするな! 私の未来の旦那様だぞ!?」
「聞き捨てなりません! 変態はユフィーさん一人だけで、わたし達は至ってまともです! あとわたし達の未来の旦那様です!」
「みんな家族~」
最早、口喧嘩なのかどうかも怪しくなってきた。
そして自分が何を口走っているのかも分からなくなってきた。
だがここで引き下がる訳にはいかない。
だってこの女……私達もユフィーと同じ変態だと言ったのだぞ?
あの生臭変態神官の同類だと?
死んでも許さん……!
何としてでも先のふざけた発言を撤回させてやる。
こうして私達とアウィル=ラーフの口論は更に白熱―――語彙力だけはどんどん貧弱に―――していった。
途中、マスミの姿が視界に映ったような気がしたものの、眼前の敵に意識のほとんどを割いていた私達は彼に反応することもなく……。
『ウーッ』
完全に語彙力を失ったまま、睨み合いを続けるのだった。
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次回更新は11/20(土)頃を予定しております。




