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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第2節 アラサー警備員、異国を巡る ~無情編~
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第20話 語る二人 ~異邦人と宣教官~

前回のお話……悪魔戦から一夜明け

(女 ゜Д゜)ウーッ

(真 ゜Д゜)デジャヴ…

『ウーッ』


「……」


 まさか朝一から既視感(デジャヴ)に襲われるとは思わなかった。

 充分休んだつもりなんだけど、まだ疲れが残っているのかなぁ。

 やれやれ、歳は取りたくないなぁ……なんて現実逃避をしている場合ではないのだが。

 視線の先では鍋が火にかけられており、中のスープがグツグツと煮立っている。

 そして『ウーッ』と相手を威嚇するような唸り声を上げながら、鍋を挟んで睨み合っているウチの女性陣とアウィル=ラーフ。

 昨日も散々睨み合ってた筈なのに、よく飽きずに続けていられるものだと呆れる中、「お目覚めですか?」と声を掛けられた。

 見れば、少し離れた所で地面に腰を下ろし、我関せずのスタンスでいるジェイム=ラーフの姿があったので、そちらに向かう。


「よく眠れました?」


「どうだかな。あいつらいつから睨み合ってんだ?」


「さて、私達が来てすぐですから、かれこれ二十分以上はあのままかと」


 二十分程前、朝食の用意をしていた女性陣の元にジェイム=ラーフとアウィル=ラーフがやって来た。

 二人の姿を認めた女性陣は揃って嫌そうに顔を顰め、ついでに声も揃えて「帰れ、この邪教徒」と言って追い払おうとした。

 当然、そんな発言をされて短気なアウィル=ラーフが黙っていられる筈もなく、「あ? なんだやんのかコラ」と絡んでいった。

 喧嘩腰のアウィル=ラーフに触発された女性陣も……。


「なんだ? やってほしいのか? だったらやってやろうか?」


「そろそろ貴方方の顔も見飽きたところです」


「阿婆擦れさ~ん」


「テメッ、アタシは阿婆擦れじゃねぇ!」


 このようなやり取りの結果、ジェイム=ラーフを除いた全員が頭に血を上らせ、醜い言い争い―――低レベルな悪口の応酬―――を始めた。

 それでも最低限の理性は残っているのか、取っ組み合いにまで発展することはなく、今は膠着状態のまま『ウーッ』をしているとのこと。


「……本当によくもまあ飽きずに続けられるもんだよ」


 そう言って嘆息した後、俺は二人分の皿と匙を用意し、鍋からスープをよそった。

 この間、睨み合う女性陣らの視界の中に入っていた筈なのだが、特に何も言われることはなかった。

 もしかしたら気付いてすらいなかったのかもしれない。

 スープをよそった皿の一つをジェイム=ラーフに手渡し、ついでに黒パンも一個乗せてやる。


「おや、いただいてもよろしいので?」


「別にいいさ。話をしにきたんだろ? 情報料とでも思っとけ」


「そういうことでしたら遠慮なく」


 まだまだ睨み合いが終わりそうにない女性陣とアウィル=ラーフを他所に、俺とジェイム=ラーフは一足早く朝食をいただくことにした。

 カットした干し肉と野菜を煮込んだシンプルなスープ。

 味付けは塩と胡椒のみだが、干し肉の旨味と野菜の出汁も加わっているため、充分に美味い。

 胡椒も効いている所為か、胃の中から身体が温められる心地好さに思わずホッと息が出てしまう。

 隣では同じようにスープを啜ったジェイム=ラーフが「美味しいですねぇ」と口元を綻ばせていた。


「朝は温かい食事に限りますね。水と干し肉だけでもお腹は膨れますけど、やっぱり味気ないですからねぇ」


「〈転移(テレポート)〉の魔述巻物(スクロール)があるんだから、それでなんか食い物でも転移させりゃいいんじゃねぇの?」


「成程。その使い方は考えもしませんでした。とはいえ流石に無理ですかね。使用回数も限られていますし、出てくるのが食料だけっていうのはちょっと……」


「言ってみただけだから、そんな真面目に考えるなよ」


 本人が言う通り、使用回数の限られている魔述巻物(スクロール)の使い方としては非効率もいいところだし、あれだけ派手に光っておきながら、食量しか出てこないというのも確かに情けない。

 超高級絶品料理とかならあるいは……いや、やっぱり無いな。


「収納系の能力があるマスミさんが羨ましいですよ。大量の荷物を自力で持ち運びしなくて済むんですから、旅をするには打って付けの人材ですね」


「俺、お前に〈顕能(スキル)〉のこと話したっけ?」


「聞いてはいませんけど、実際にこの目で見てますからねぇ。セクトンでは大いに驚かされましたし、昨日も炊き出しなんてやってたじゃありませんか。とんでもない収納量ですね」


 流石に並ぶのは控えましたけどと言って、ジェイム=ラーフはスープを口に運んだ。

 相変わらずフードで顔を隠しているため、奴がどのような表情を浮かべているのか定かではないものの、唯一覗いている口元だけは薄く笑みの形を作っていた。

 食べ辛くないのだろうか?


「お前さ、なんでいっつもフード被ってる訳? なんかこだわりでもあるの?」


「人と顔を合わせるのが恥ずかしくて……」


「キモッ」


 間髪入れずに本音が漏れてしまった。

 流石にキモいと言われるのはショックだったのか、「酷くないですか?」と若干傷付いた様子のジェイム=ラーフ。


「ちょっと冗談を言ってみただけじゃありませんか」


「お前の冗談は分かり難いんだよ」


「真面目に言うと、ゼフィル教(わたしたち)も世間では邪教扱いされていますからね。あまり堂々と顔を晒して行動する訳にもいかないんですよ」


「身バレ防止って訳か。理由は分かったけど、アウィル=ラーフのベールはどうなんだ? 顔は隠せても却って目立ちそうな気がするんだけど」


「特に隠す手段は決められていませんからね。私は楽だからいつもフードを被っていますけど、女性の場合はアウィルのようにベールで顔を隠すって人は結構居ますよ?」


「え、マジで? 流行ってんの?」


「マジです。やっぱりお洒落には気を使いたいんでしょうねぇ」


「お洒落なのか、アレは……」


 睨み合いを続けるアウィル=ラーフの方にチラリと視線を飛ばす。

 口元から上を覆っている黒のベール。

 透けのある生地を使い、微妙にキラキラとしたラメっぽい模様が入っている点を考慮すれば、お洒落と言えないことも……いや、絶対違う。やっぱり怪しいだろ。

 あんなものが流行るって、アウィル=ラーフ含め、教団に所属している女性達の趣味を疑ってしまう。


「やっぱり変な集団」


「あははは、魔物好きの集まりですよ? 普通の人と同じ感性な訳ないじゃないですか」


「自分で言うな」


 軽くツッコんだ後、スープに浸した黒パンを一口齧る。

 モグモグと咀嚼している最中、ふと今更過ぎる疑問が浮かんできた。

 なんで殺し合いまでした仲の相手と普通に世間話をしたり、一緒に飯を食ったりしているのだろうと。


「……まあいいか」


「何か仰いました?」


「気にすんな。こっちの話だ」


 昨夜は協力して悪魔と戦ったからという訳でもないが、少なくとも現時点ではジェイム=ラーフらと争う理由はないのだ。

 ならば気にしたところで仕方ない。

 特に悩むこともなく結論を出した俺は、黒パンと一緒に浮かんだ疑問も胃の中へと収めたのだった。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は11/15(月)頃を予定しております。

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