第18話 猛攻 ~真紅の一閃~
前回のお話……ユフィー大活躍
(ユ ゜Д゜)あとは任せた(ガクッ)
銃口より撃ち出された鋼色の擲弾―――〈魔擲弾〉が身動きの取れない悪魔の胴体に着弾し、強烈な衝撃と音を伴って爆発した。
『ァァァアアアアアッ!?』
『―――!?』
如何に並外れた防御力を誇る悪魔であろうとも、〈魔擲弾〉の直撃を喰らって無傷とはいかず、苦痛の叫びを上げた。
巻き込まれた殺刃蟷螂も同じような叫びを上げたことに罪悪感を覚えたものの、恨むならそこの悪魔とお前の主を恨んでくれと心中で漏らし、二発目の〈魔擲弾〉を発射するために魔力を込め直す。
その間に詠唱を終えたローリエとエイルが魔術を放つ。
「〈炎槍〉!」
「〈風砲〉!」
燃え盛る炎の槍と荒ぶる風の砲弾。
二つの魔術が競い合うように宙を疾り、悪魔へと襲い掛かる。
漆黒の表皮に突き刺さった炎の槍が爆発を起こし、爆風をも呑み込んだ風の砲弾が剥き出しの傷口を押し広げ、圧し潰す。
『ギィィィイイイイイイッ!?』
立て続けの攻撃に絶叫を上げる悪魔だったが、先に限界を迎えたのは殺刃蟷螂の方だった。
噛み付く力を失った大顎が外れ、悪魔の身体を拘束していた三本の前肢までもがズルズルとずり落ちていく。
拘束から解放された悪魔は殺刃蟷螂を突き飛ばし、横倒しになった蟷螂の頭部を踏み潰そうとするも、そうさせじと食蟻熊獣が背後から悪魔を羽交い締めにした。
更に食蟻熊獣は悪魔の首に巻き付けていた舌を一度引っ込めると、直ぐ様吐き出し、今度は首と言わず顔中に巻き付け始めた。
再び拘束され、更には視界まで奪われた悪魔に俺は二発目の〈魔擲弾〉を、ローリエとエイルもそれぞれの魔術を撃ち放つ。
「くたばれぇ!」
「〈炎槍〉!」
「〈風砲〉!」
ありったけの火力を悪魔に集中する。
三度目の〈魔擲弾〉と魔術を喰らわせた後には、殺刃蟷螂に続いて食蟻熊獣も力尽き、物言わぬ骸と化したものの、悪魔の方も甚大なダメージを負っていた。
漆黒の皮膚はあちこちが焼け爛れた無惨な状態と化しており、再生が追い付かない所為もあってか、塞がり切らなかった無数の傷口からは、血液と思しき暗紫色の体液が止め処なく流れている。
右目は潰れ、左腕も肘から先が千切れ掛けていた。
攻撃に巻き込まれた二匹の魔物も力尽き、ようやく身体の自由を取り戻せたというのに悪魔が襲い掛かってくる様子はなく、ただ立ち尽くしたまま、残る左目に憎悪の感情を乗せて睨み付けてくるのみだった。
まともに動けるだけの余力が残されていないのやもしれんが、額に出現した第三の目だけは、まるで別の生き物のようにギョロギョロと頻りに動きまくっている。
物凄く不気味で気持ち悪いし、第三の目がいったい何なのか非常に気になるところではあるものの、まずは悪魔本体を倒すことが最優先だ。
「おっしゃあ、もう一押しだ!」
「はい!」
「押せ押せなの!」
こちらも決して余裕はないが、ここを攻め切れば俺達の勝ちだ。
今が勝負所と気合を入れ直し、残り少なくなってきた魔力で再び〈魔擲弾〉を精製しようとした時、悪魔はやはり一歩も動かないまま、右腕だけを高く掲げた。
辛うじて負傷の少なかった右腕。まさかと思った時には、またもや悪魔の口から『■■◆◆■■■◆▲▲■』という呪文が唱えられた。
開かれた掌に魔力が集まり、見覚えのある魔方陣が形成された。
こいつ、魔術で俺達を纏めて吹き飛ばすつもりだな。
ユフィーがまだ気絶しているため、先の〈火球〉クラスの攻撃を防ぐ手段はもうない。
あんな攻撃を喰らったら全滅は必須。
だったら……。
「撃たれる前に撃つだけだ!」
少しでも〈魔擲弾〉の精製を早めるため、より意識して魔力を操作する。
魔方陣の上に火の玉が生み出されるのを目にしたミシェルが「見す見す撃たせるものか!」と前に出て悪魔に斬り掛かろうとしたが、それよりも僅かに早く……。
「任せよ」
とゼル爺が老人とは思えない速度で駆け出した。
走りながら手元の剣に魔力を流し込んでいるのか、剣身から強い光が溢れ出す。
〈魔力付与〉?
いや、違う。あの技はローグさん達も使っていた……。
「ぬぅぅぅ……かぁぁあああああッ!」
裂帛の気合と共に逆袈裟に振るわれたゼル爺の剣から一条の閃光―――〈魔力放出〉が放たれる。
先輩達が放つものとは比べ物にならない練度と質、そして速度。
集束された魔力は光の斬撃と化し、巨大化しつつある〈火球〉―――それを支える悪魔の右腕に直撃した。
青白い魔力と漆黒の魔力がバチバチと音を立て、火花のような粒子となって飛び散る。
数瞬の拮抗の末、〈魔力放出〉の刃は悪魔の右腕を斬り飛ばした。
『ァァアアアアアアアア―――ッッ!?』
激痛に苦しむ悪魔の絶叫を遮るように完成間近であった魔術が術者自身に牙を剥く。
悪魔の頭上で〈火球〉が大爆発を起こしたのだ。
度重なる攻撃によって蓄積されたダメージ。
更にはゼル爺の〈魔力放出〉で片腕を失い、自らの魔術の暴発にまで巻き込まれ、満身創痍と化す悪魔。
決着を付けるなら今しかない。
「ここで決める!」
自身と愛剣から魔力を漲らせたミシェルが、今度こそ悪魔に向かって駆け出す。
瞬く間に彼我の距離を走破した彼女は地面を蹴って跳躍し、悪魔の首に〈ロッソ・フラメール〉を叩き込んだ。
赤熱する刃は漆黒の皮膚を、肉を難無く裂き、一息で太い首の半ばにまで到達し……ピタリと停止した。
おそらくは首の中心部―――頸椎を断つことが出来なかったのだ。
ミシェルの剣技と〈ロッソ・フラメール〉を以ってしても、悪魔の首を落とすことは叶わなかった。
ならばもう一度〈魔擲弾〉を喰らわせてやるべく、魔力の充填を終えた突撃銃の銃口を悪魔に向けようとした時……。
「舐めるなぁぁああああああッ!」
ミシェルが吼えた。
全身から噴出する魔力は勢いを増し、剣身を覆う光は更に強く、そして熱く輝いた。
頚椎に止められていた筈の刃がより深く食い込んでいき、悪魔の額にある金色の眼が見開かれる。
やはり本体とは別に意思を持っているかのような反応。
怒りか悲しみか、あるいは恐れか。その瞳に如何なる感情が宿っていたのかは、誰にも分からない。
だがミシェルの剣が止まることはなかった。
「ハァァアアアアアアッッ!!」
―――真紅の一閃。
振り抜かれた赤き灼熱の刃は、遂に悪魔の首を斬り落とした。
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次回更新は11/5(金)頃を予定しております。




