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第10話 呑み過ぎてしまった、そんな朝に ~悩める乙女~

前回のお話……(真/・ω・)/お風呂はーいろ

「うっ、んん……」


 強烈な違和感と不快感に目を覚ます。


「んん、んっ……朝か?」


 眩いばかりの陽光が窓から射し込み、室内を明るく照らしていた。

 違和感と不快感の正体はこれか。

 同時にその明るさから朝というには少し……かなり遅い時間だと気付いた。


「……すっかり寝過ごしてしまったな」


 私とローリエが常宿として利用している水鳥亭。

 その二階にある二人用の宿泊部屋。

 ネーテの街に居る間、私達はいつも此処で寝起きしている。

 一人部屋よりも広く、ベッドが二台置かれている以外は他の部屋と造りに変わりはない。


「起きなければ」


 いつまでも寝てる訳にはいかない。

 そう思って身体を起こそうとしたのだが、私は再びベッドに倒れ込んでしまった。


「頭が……痛い」


 これが二日酔いというものか。

 話には聞いていたが、ここまで辛いものだとは思わなかった。

 昨夜は羽目を外し過ぎたな。

 途中から記憶が曖昧になっている。

 三人で卓を囲み、乾杯をしてから……。


「はしゃぎ過ぎた」


 少し思い出してきた。

 乾杯をしてからローリエと二人でガバガバと蜂蜜酒(ミード)を呑みまくったのだ。

 何の変哲もない蜂蜜酒(ミード)の筈なのに、普段よりずっと美味しく感じられて止まらなくなった。

 その後はマスミに絡んで……。


「は、恥ずかしい……!」


 なんという醜態。淑女にあるまじき行い。思い返すと顔から火が出そうだ。

 でも仕方ないではないか。

 首に下げたままだった認識票を手に取る。

 二枚一組の認識票。

 片方はこれまでと同じ魔石票。もう片方は昨日までの銅製ではなく、新たに発行された鉄製の認識票。

 そう、私とローリエは昇格して鉄級冒険者となったのだ。

 ギルドから一人前と認められた証だ。

 これで初級冒険者などと揶揄されることもない。

 これが喜ばずにいられようか。

 更にもう一つ。


「嬉しいことが重なることもあるのだな」


 マスミの試験合格。

 あの元白銀級冒険者だという凄腕の試験官を相手に見事合格をもぎ取ってみせたのだ。

 相変わらずこちらが予想も出来ないような立ち回りを見せてくれたが、そんなものは今更だな。

 だってマスミだし。

 ともかくマスミも晴れて冒険者となった。

 これで一緒に冒険が出来る。


「マスミにも早く昇格してもらわなければならんな」


 私とローリエが鉄級なのにマスミだけが銅級というのはバランスが悪い。

 うむ、そうと決まれば早く依頼を受けなければ。

 心配せずともマスミならすぐに鉄級に上がれるだろう。

 そのためにも……。


「この体調をどうにかしなければ」


 いつまでも酔いを引き摺っている訳にはいかない。

 頭痛に耐えながら身体を起こし、ベッドの横にあるテーブルの上に置かれた水差しとコップに手を伸ばす。

 覚束ない手取りでコップに水を注ぎ、ゆっくりと呷る。

 ぬるい水だが、二日酔いの辛さが幾分和らいだ気がする。

 隣のベッドではローリエが未だに眠っていた。


「ローリエ起きろ。朝だぞ」


 軽く揺すってみるが、起きる気配はなかった。


「わぅふふふ~、こんなにいっぱいしりあるばー食べれません~」


 実に幸せそうな夢を見ているようだ。

 なんだか起こすのが忍びなくなってきた。

 酒に弱い筈のローリエがこんなになるまで呑むなんて、彼女にとってもそれだけ嬉しい出来事だったということか。

 しかし何故ローリエは犬か猫のように丸まって眠るのだろう?

 寝相が悪いのとは違う。

 むしろこの姿勢から動かないのだから、ある意味ではとんでもなく寝相が良いとも言える。

 昔からこの妙な寝相だけは変わらんな。

 そういえば……。


「私はいつの間に部屋に戻ってきたのだ?」


 酔ってマスミに絡んで……そこから先が思い出せない。

 マスミが部屋まで運んでくれたのか?

 あとこの舌に残っている肉の味はいったい何なのだろう?


「……マスミに聞くとするか」


 本当は自分の醜態なんて知りたくもない。

 だが何かやらかしてしまった可能性も有り得るので、聞かない訳にもいかない。

 何しろ記憶がないのだから。

 マスミや女将らに迷惑を掛けたとしたら、流石に一言くらいは謝っておかなければ。

 未だ治まらない鈍痛に顔を顰めながら洗面台の前に立ち、身嗜みを整えていく。

 寝乱れた格好のまま人前に立つ訳にはいかないからな。

 淑女の端くれとして、これ以上の失態を犯すわけにはいかん。そう、いかんのだ。

 部屋の洗面台には鏡が備え付けられていないので、自前の手鏡や櫛を使う。

 まずは乱れた髪の毛を整えるため、櫛を入れてゆっくりと梳く。

 普段、紐で纏められている私の髪は、(ほど)けば腰に届く程の長さがある。

 この長さを毎日整えるのは非常に面倒なのだが、雑にやるとローリエに叱られる。

 ならば少しでも手間が掛からないように髪を短くしようとしたらもっと怒られた。

 ローリエ曰く―――。


「折角綺麗な髪なのに勿体無いじゃないですか!」


 ―――とのことだが、果たしてそういう問題だろうか?

 私からすれば、この赤茶色の髪はどうにも中途半端に思えて仕方ないのだが。

 我が髪ながら赤か茶色かはっきりしろと言いたくなる。

 個人的には鮮やかな赤の方が好みだ。


「こんなものか」


 他に乱れがないかを手鏡で確認する。

 よし、ちゃんと整えられているな。

 整え終えた髪を後頭部の高い位置で紐を使って纏め、あとは自然と垂らしておく。

 髪が長かろうともこうしておけば大分動き易くなる。

 何故かマスミはこの髪型を見て「ポニテ、ポニテ」と連呼していたが、ポニテって何だろう?


「マスミはこの髪型が好きなのかな?」


 だとしたらちょっと嬉しい……って、いやいや待て待て、私は何を考えている?

 仮にマスミが私の髪型を好きだったとして、何故それで私が喜ぶ必要があるのだ?

 どういうことだ?

 むむむ……分からん。


「おのれマスミめ。居ない時にまで私を悩ませるとは」


 もう起きているのか、それともまだ部屋で寝ているのかも分からないマスミに向かって恨み言を吐く。

 彼と出会ってからまだ数日しか経っていないのに、この僅かな期間で私もローリエも相当振り回されてきた。

 イイ年した大人のくせにへらへらと笑いながら、人のことを揶揄って遊ぶ男。

 殿方としてどうかと思う。

 なんだか一言物申してやりたくなってきた。

 彼に助けられたのも事実だが、それとこれとは話が別だ。


「よし、マスミに文句を言ってやる。まだ寝てたら叩き起こしてやろう」


 あと頭痛が治まらないから薬も用意させよう。

 マスミの奴、よく分からない道具を色々と持っていたからな。きっと鎮痛剤くらいは有るだろう。

 手早く化粧を施し―――といっても薄化粧とすら呼べない程度―――手持ちの香水を軽くふって、準備完了。


「覚悟しろよ、マスミ」


 そう小さく宣言した私は、自分が微かに笑っていることにも気付かないまま、マスミが寝泊まりしている部屋へと向かうことにした。


「わふ〜、知らない味ですぅ」


 ―――ローリエを放置したまま。

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