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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第2節 アラサー警備員、異国を巡る ~無情編~
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第9話 会いたくなかった奴ら ~宣教官再び~

前回のお話……真澄くんマジギレ&ジェイム=ラーフ再び

(真 ゜Д゜)道連れじゃー!

(ジ ゜Д゜)おひさー

「これはこれはマスミさん、ようやくお会い出来ました。どうもお久し振りですねぇ」


 ユフィーを除いた女性陣から向けられる敵意と警戒の視線に臆した風もなく、物凄くフレンドリーな態度で手を振ってくる一人の男。

 魔物を至上の存在として崇拝する邪教・ゼフィル教団に所属する宣教官―――ジェイム=ラーフ。

 出会った時と同じようにフードを目深に被っているため、その表情を窺い知ることは出来ないものの、すこぶる機嫌が良さそうなので、多分笑顔だと思う。


「ジェイム=ラーフ。なんでお前が此処に……」


「それは勿論、マスミさんにお会いするためですよ」


 と全然嬉しくない返答をくれるジェイム=ラーフ。

 どうもこの男は、俺に対して妙な執着を持っているようなので、嘘か本当かの判断に困る。

 でもまあ取り敢えず……。


「そうか分かった。じゃあ死ね」


 発言と同時に空間収納からデイビット印のボルトアクション・ライフルを取り出し、素早くハンドルを操作して、躊躇うことなく引き金を引いた。

 しかし、そこは敵も然る者。

 完全に不意を突いたにも関わらず、驚くべき反応速度―――「うひゃほッ!?」と奇妙な悲鳴を上げてはいたが―――で弾丸を回避してみせた。チッ。

 響き渡る発砲音に難民キャンプがざわつき、仲間達は揃って耳を押さえた。すまん。


「ちょっ、いきなり何するんですか! 躱せなかったら私死んでましたよ!?」


「いや、死んでほしかったんだけど」


 と言いつつ、ハンドルを操作して次弾の装填を行っておく。

 隙を見て、もう一発お見舞いしてやる。


「まさか出会い頭に殺され掛けるとは……私、マスミさんの恨みを買うようなことしましたっけ?」


「逆になんで恨まれてないと思ったんだ?」


 一度は殺し合いを演じた間柄だというのを忘れてはいけない。

 そうでなくともゼフィル教に良い印象など持っていないというのに。


「そこはほら、実際に戦ったのは私じゃなくて巨大蛇(フェルデランス)ですし」


「俺、お前に向けてガッツリ発砲してんだけど?」


 結構な出血量だったと記憶しているのだが、あれはノーカウントなのか?

 この男の俺に対する大らかさが逆に怖い。

 銃口はジェイム=ラーフに固定したまま、聴覚のダメージから復活しつつある女性陣に訊ねてみた。


「なぁ、なんでこいつが居る訳?」


「ぃッッ……知らん。私達が焚き火を囲っているところにいきなり現れたのだ。マスミは居るか、とな」


「そろそろ食事の準備でもしようかと話し合っていたところだったんですけど……」


「帰れ帰れ~」


「……何方(どなた)でございますか?」


「お前はしばらく口を開くな」


 一人だけ不思議そうに首を傾げているユフィーを一旦黙らせた後、ライフルの銃口をジェイム=ラーフの額に向けて構え直す。


「おい、今度は何を企んでやがる。正直に応えれば撃たない……こともないかもしれない」


「それもう撃つって言ってるようなものでは?」


 なんて緊張感に欠ける問答を繰り広げていると「おい、ジェイム。そんなとこで何やってんだよ」という不機嫌そうな女の声が割り込んできた。

 何処かで聞いたことのある声。

 いやそんなまさかと思いながらも目を向けてみれば、悪い意味で見覚えのある姿がそこにはあった。


「ったく、遊んでんじゃねぇよ。こんな辛気臭ぇ所さっさと離れようぜ」


 扇情的なデザインをした漆黒の法衣。

 目隠しのように口元から上を覆っている黒のベール。

 全身黒尽くめなその女の正体とは……。


「アウィル=ラーフ」


「あ? 誰だテメェ、なんでアタシの名を―――」


 知ってるんだと言い掛けたところで、ようやく俺が誰なのかに気付いたアウィル=ラーフがベールの下で目を見開いた……ような気がした。


「テ、テメェ……マスミか! なんで此処にいやがる!?」


「こっちの台詞だ馬鹿野郎」


「丁度良い。この間の借り、今この場で返して―――」


「よし死ね」


 俺はライフルの標的をジェイム=ラーフからアウィル=ラーフへと即座に切り替え、今まさに肩を怒らせながら近付いてこようとした奴に向けて、やはり躊躇わずに発砲した。

 今度は予め予想していたのか、ユフィ―以外のメンバーは全員耳を塞ぎ、聴覚へのダメージを未然に防いでいた。

 そして肝心のアウィル=ラーフだが、こちらも驚異的な反応―――「にぎゃぁッ!?」という悲鳴付き―――で弾丸を辛うじて回避してみせた。チッ。

 再び響いた発砲音がキャンプ内に更なる混乱をもたらす。許せ。


「ちょっ、おま……頭おかしいだろッ!?」


「お前らにだけは言われたくねぇよ」


 潔く死んでおけばいいものを。

 忌々しい奴らめ。


「お前らが躱した所為で、貴重な弾丸(タマ)が二発も無駄になったじゃないか。弁償しろ。ついでに死ね」


「知らねぇよ! テメェが勝手に撃ったんだろうが! あとついでに死ねってどういう意味だ!」


 拳を振り回しながら喚き立てるアウィル=ラーフ。

 まったく喧しい女だ。

 どうする。もう一発撃ち込んでみるか?

 でも単発だとまた躱される可能性があるし、弾丸(タマ)も勿体ないし……。


「うーむ」


「うーむ……じゃねぇよ! テメェ何無視してんだコラぁ!」


「うるさい黙れ。この阿婆擦れ」


「あばッ……また言ったな!? アタシは阿婆擦れじゃねぇ!」


 むしろまだ乙女だぁ! と聞いてもいない処女宣言(カミングアウト)をされてしまった。

 そのなりで処女と言われても説得力はない。

 今にも暴れ出しそうだったが、背後に回ったジェイム=ラーフに羽交い締めにされているため、精々脚をバタつかせることしか出来ずにいた。

 実に悔しそうである。


「おいジェイムッ、離せ! なんで邪魔すんだ!?」


「少しは落ち着きなさい。貴方はすぐ頭に血が上るんですから。マスミさんも面白がってあんまりイジらないで下さいよ」


「別に面白がってはいないし、イジってるつもりもないぞ。ただ事実を述べているだけであって……」


「だから事実じゃねぇっつってんだろうが!」


 相変わらず煽り耐性皆無だな。

 きっとジェイム=ラーフが抑えていなければ、今頃はこちらに飛び掛かってきただろう。


「マスミ? なんか普通に会話しているけど、相手は敵だからな? どちらとも殺し合ったからな?」


「あと敵とはいえ、あんまり女性に対して阿婆擦れって連呼するのは止めてあげて下さい。なんだかこっちまで心苦しくなってきました」


「それとぉ、撃つなら撃つってぇ、先に言って~」


「耳が、まだ耳がキーンって……!」


 何とも言えない微妙な表情を浮かべた女性陣―――ユフィーだけはまだ耳を押さえて蹲っている―――から注意されてしまった。何故だ。


「んで、今度はどんな悪さするつもりだ? またぞろ魔物大好きの布教活動でもしようってのか?」


「そうですねぇ。普段だったらそうするところなんですけど……今回は別件です。テッサルタ王国に来たのは、ちょっとした調査のためです」


「ふーん、魔物の生態調査でもしに来たのか?」


「あはは、それはそれで面白そうですけど、残念ながら違います。なんでもこの国、相当危険なことに手を染めているという噂があるんですよ。下手すれば大陸中の国家を敵に回し兼ねない程に危険な、ね」


「……へぇ」


 言われた瞬間、ドキリと心臓が跳ねたのは、きっと俺だけではあるまい。

 ゼフィル教団は違法召喚の事実を既に掴んでいる。

 何故、どうやって、何のために……疑問は多々あれども、それらは全部後回しだ。

 内心の動揺を悟られないようポーカーフェイスに努めたが、俄に張り詰めてしまった空気まで誤魔化すことは出来ず、ジェイム=ラーフは口元を緩めた。


「おや? やはり皆さんの目的もそれ(・・)でしたか」


「何も言ってないんですけど……」


「ふふ、言わなくったって分かりますよ」


「ジェイム! テメェ何をベラベラと勝手に喋ってやがる! それはアタシらのにん―――」


「はいはい、貴方はちょっと黙ってて下さいねぇ」


 そう言って、ジェイム=ラーフは羽交い絞めを維持したまま器用にアウィル=ラーフの口を塞いでみせた。

 今更ながら扱いが物凄く雑である。知らんけど。


「もしよろしければなんですけど、協力しませんか?」


「協力だと?」


「ええ。どうやら目的は同じようですし、今回に限っては協力し合えると思うんですよ」


 どうでしょうと口元を緩めたまま、予想外な提案をしてくるジェイム=ラーフに対して警戒よりも困惑の方が先立ってしまう。

 相方がそのような提案をするなどと知る由もなかったアウィル=ラーフが、口を塞がれたまま「モガーッ!」と声を張り上げる。

 多分、ふざけるなぁとか言ってるんだろうな。


「……何が狙いだ?」


「別に言葉通りで深い意味はありませんよ。少なくともこうして勘繰り合ったり、いがみ合ったりするよりは余程建設的だと思っただけです。それにマスミさんのことだから、気になって仕方ないんじゃありません? どうしてゼフィル教団(わたしたち)が召喚のことなんか調べるんだって」


「お前……ッ!」


 ジェイム=ラーフが召喚とはっきり口にした瞬間、ミシェルとエイルはそれぞれの得物に手を伸ばし、ローリエは胸の前で両の拳を構えた。

 こちらの戦意に充てられたアウィル=ラーフが拘束を解こうと激しく身体を(よじ)るが、肝心のジェイム=ラーフは相方を解放するどころか、笑みを浮かべたまま構えようとすらしなかった。

 明らかに俺達の……俺の反応を愉しんでやがる。


「悪い提案ではないと思うんですけどねぇ。それに……この場で争っても誰も得しませんよ?」


「……取り敢えず話だけは聞いてやる」


「マスミ!?」


「本気ですか!?」


 俺が提案を受け入れるなんて思ってもみなかったのだろう。

 まるで非難するようにミシェルとローリエが驚愕の声を上げた。


「二人とも落ち着け。この場で争えば、間違いなく避難民にも被害が出る。そうなったら俺達はただの犯罪者だ。邪教徒呼ばわりされてるこいつらは気にも止めないだろうけど」


「よくお分かりで」


「うるせぇ黙ってろ。俺もこのままでいいとは思っちゃいないが、今だけは(こら)えてくれ。頼む」


「……ミシェルちゃん、ローリエちゃん。マスミくんの言う通りなの。関係ない人達を巻き込む訳にはいかないの」


 そう言ってエイルが弓を下ろせば、二十秒程の時間を要したものの、ミシェルとローリエ―――如何にも渋々といった様子―――も構えを解いてくれた。

 そちらにありがとうと返した後、改めてジェイム=ラーフに向き直り、未だ目にしたことのないフードの奥を睨み付けた。


「協力を持ち掛けてきたのはそっちだ。まずはお前らの目的を教えろ。話はそれを聞いてからだ」


「構いませんよ」


 でもその前にとジェイム=ラーフが横を向いたので、釣られてそちらに目を向けてみれば……。


「その前に私の質問に答えてくれるか? いったいこれはどういった状況なんだ?」


 部下の兵士達を引き連れたフレットが呆れた顔でそこに立っていた。

 そういえば立て続けの発砲によって、避難民らに無用な不安を与えてしまっていたのだった。

 そのことを思い出した俺は両手を合わせて素直にすまんと謝ったのだが、残念ながらフレットの表情が晴れることはなく、「謝る前に説明してくれ」と深々と溜め息を吐かれてしまった。

 本当にすまんかった。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は9/6(月)頃を予定しております。

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