第38話 戦闘狂再び ~第二波・第三波~
前回のお話……第一波撃退
(ル ゜Д゜)臭ぇんだよ!
(構 ゜Д゜)臭くねぇわ!
敵の第一波を退けて間もなく、屋敷の中から第二波が出てきた。
第一波と同様、百人を下回らない程の人数。
それらの構成員共が現れた勢いのまま、一挙に俺達の元へと迫ってくる……ようなことはなかった。
現在の庭園―――多くの仲間達が倒れ伏している惨状に誰もが驚愕し、その足を止めてしまったのだ。
俺にとっては有難い限りなので、今の内に弾丸の再装填を終えさせてもらう。
ついでに空間収納から人数分の投石紐を取り出して護衛全員に配る。
あとは大量の石を地面の上に積めば準備完了。
いざ……。
「投石開始ィィイイイッ!」
合図と共に護衛達が各々の投石紐を大きく振り、構成員共目掛けて石を飛ばす。
なんといっても的は百人以上もの団体様だ。
碌に狙いを付けずとも真っ直ぐ飛ばすことさえ出来れば、まず外れる心配はない。
「狙いなんて気にすんな! じゃんじゃん投げまくれ!」
「あたしの部下なんですけど?」
ルビーからのクレームは黙殺させてもらう。
投石の雨が構成員共の頭上に降り注ぐ。
多くの構成員が自身の腕や手にした得物を盾代わりにして投石を防ぎ、当たり所の悪かった一部の者はそれだけでダウンしてしまう。
投石を掻い潜って前に出てこようとする者もいたが、第一波の成れの果て―――倒れて積み重なった仲間達の身体が障害物となり、進行の足を鈍らせた。
これが屋敷に突入せず、この場に留まった理由。
進行方向に障害物があった場合、人は基本的に回避や迂回を選択する。
その障害物が自分達の仲間とあっては、下手に蹴り飛ばすことも出来まい。
少数ならばいざ知らず、百人を越える大人数では速やかな移動も儘ならない。
この間にも投石は続いている上に障害物を越えた先にはミシェルとローリエが待ち構えている。
回避を選ばず、無情にも仲間達の屍―――別に死んではいない―――を踏み越えていくという者も散見されたものの、そんな奴らは俺とエイルの良い的にしかならない。
結果、第二波は驚く程速やかに鎮圧されることとなった。
こちらに被害は一切無く、目の前には無数の屍―――何度も言うが死んでない―――が広がるのみ。
うむ、順調なり。
「なんか……簡単過ぎて怖いんだけど」
「そうか?」
簡単と言えば確かにその通りかもしれんが、だからといって別段大したことを成したとも思わない。
奴らは訓練された兵士ではなく、所詮は数と暴力に物を言わせてきただけの悪党共だ。
個々の実力など高が知れているし、連携の一つでも取れるならまだしも各々が好き放題に暴れるだけ。
そんな奴らに負ける道理などあるものか。
蜘蛛とか骨とか犬とか小鬼とかの大群を相手にしている方が遥かに命懸けだったわ。
遠距離攻撃の使えるナザリドが現在であれば、ここまで簡単にはいかなかっただろうけど、奴は既に戦えるような状態ではない。
腰を据えてお話しをした結果、どうも心がバッキバキにへし折れてしまったらしいので、今更俺達と敵対するような気概もないだろう。
まったく、ちょっとお話しした程度で折れてしまうような惰弱メンタルでどうする。
そんなことでは世間の荒波を乗り越えられんぞ。
「へし折ったのあんただけどね」
「とんと記憶にございませんな」
このような軽口を叩き合う余裕すらある。
まぁ、所詮ここまでは前哨戦に過ぎない。
そろそろ奴も出てくる頃合いだろうと思っていた矢先……。
「オイオイオイオイッ、こいつぁいったいどうなってんだぁ!」
予想通りに奴が現れた。
常人離れした体躯を有する大男。
その体格に見合うだけの腕力と異常なまでの打たれ強さを兼ね備えた戦闘狂―――ブルアンが第三波となる部下達を引き連れて現れたのだ。
「あれでナザリドと同じ幹部だってんだから、この組織も大概だわな」
『暴力集団としてはこの上なく正しいようにも思えるが?』
「言われてみりゃそうだな」
腕っぷしさえあれば誰でも成り上がれる。
実に分かり易い構造なのは結構だが、現代日本においてはヤクザもインテリの時代だって聞いたことが有るような無いような……どっちでもいいか。
ブルアンは一通り庭園の有り様を眺めた後、俺達の姿を視界に捉え、ニンマリと迫力のある笑みを浮かべた。
「何処の馬鹿共がカチコんで来たのかと思って来てみりゃ、やっぱりテメェらかよ。ハッハー、そんなにオレに会いたかったのかよ? しかもお嬢まで一緒じゃねぇか」
マジでどういうこったぁと何が面白いのか、銅鑼声でゲラゲラと笑うブルアン。
俺からすればお前の感性こそどういうこったよ。
何も笑える要素なんて無いだろうに。
「相変わらず馬鹿デカい声だな」
あとテンションの高さも鬱陶しい。
ヤレヤレと嘆息しつつ、ブルアンの後ろに控えた構成員共に目を向けた。
こちらもやはり結構な人数だが、先の第一波や第二波と比べれば明らかに少ない。
ルビーから聞いたカロベロ・ファミリーの戦力は四百人以上五百人未満。
今庭園に転がっている連中。
昨日までの嫌がらせゲリラで潰した奴ら。
開幕の集中砲火によって少なくない数が戦闘不能に陥っている筈だから、おそらくはこれが最後の増援。
「正念場だな」
「マスミさん、彼の相手はわたしが」
「ああ、他に適任も居ないだろうし頼むよ」
全身から闘志を滾らせたローリエが「任せて下さい」と両の拳を打ち付ける。
そんなローリエの隣に並び立ったミシェルが「ならば私の相手はあいつだな」と僅かに目を細めた。
彼女が見詰める先―――ブルアンや他の構成員共から少し離れた位置に立つ一人の男。
碌に手入れをしてなさそうなボサボサの頭髪と無精髭。あまり清潔感のない衣服。
やる気の無さそうな顔付きが示す年齢は四十代程度だろうか。
何も知らなければ、何故うらぶれた中年がこの場に居合わせているのだと大いに驚いたかもしれないが……。
「あれも幹部なんだよな?」
「ええ、最古参の幹部ウーゴ。見た目はただの中年オヤジだけど……恐るべき剣の使い手よ」
ルビーの言う通りに中年オヤジ―――ウーゴの手には鞘に納まった鍔無しの剣が握られていた。
ブルアンとは対照的な痩躯。
とても武芸を嗜んだ人間の身体とは思えない。
果たしてあんなにひょろっとした男がまともに剣を振るえるのか……なんて疑問は的外れなのだろう。
その程度の実力であれば、ミシェルがここまで警戒心を露にする筈もない。
生憎、俺の眼力では相手の実力を見抜くことなど出来ないので、彼女に直接問い掛けてみた。
「どうだ?」
「……底が読めんのでなんとも言えんな。だがまぁ、あの大男を相手取るのに比べれば―――」
どうということもなかろうと気負った様子もなく言ってのけるミシェル。
実に頼もしいお言葉である。
「それじゃ幹部の相手はミシェルとローリエにお任せするとして、残りのザコ共は俺達で片付けるとしますか」
「かしこまり~」
エイルはナザリドとの戦いで使用した新魔術〈疾走者〉のダメージがまだ残っているので、後方での援護に専念してもらう。
「ユフィ―もすぐに法術使えるように準備しといてくれ。二人がヤバいと思ったら、俺の判断なんて待たなくてもいいから」
「承知致しました」
今回の勝利条件は二つ。
ボスの身柄確保と幹部の撃破。
前者に関しては、あくまでもルビーが組織を掌握するために必要な条件。
今この場の戦いに限定するならば幹部―――組織の最大戦力たるブルアンとウーゴを撃破することが唯一の勝利条件となる。
それが一番難しいような気もするんだけど……。
「まぁ、ウチのミシェルさんとローリエさんならなんとかしてくれるでしょ。なぁ?」
そのように軽い調子で俺が同意を求めれば、二人も口元に笑みを作り―――。
「「勿論!」」
―――力強く応じ、揃って前へと駆け出した。
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次回更新は5/5(水)頃を予定しております。




