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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第1節 アラサー警備員、異国を巡る ~人情編~
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第37話 簒奪宣言 ~第一波~

前回のお話……カチコミ開始

(真 ゜Д゜)ヒャッハー!

(ル ゜Д゜)イエーイ!

 俺の魔擲弾(グレネード)

 ローリエの〈炎槍(フレイムジャベリン)〉。

 そしてエイルの爆裂式魔鋳矢〈《ニトライト・サジッタ》〉。

 我がパーティが持ちうる最大火力を余すところなくぶち込んだ結果、カロベロ・ファミリーの本拠地たる屋敷は半壊状態と化し、今も構成員の多くが消火活動に追われていた。

 そんな中、屋敷を守るために別の兵隊共が外に出てきたのだが、奴らも事態を正確には把握出来ていないのだろう。

 敵は何処から攻撃してきたんだと騒ぎ立てながら、襲撃者(おれたち)を探している。

 門のすぐ近くにいるんだけどなぁと若干呆れつつも、心優しい俺はちゃんと自分達の居場所を教えてあげるのだ。

 ボルトアクションライフルの銃口を空へと向けて引き金を引けば、撃ち出された弾丸が空高く飛んでいき、強烈な銃声が鼓膜を震わせる。

 当然、その銃声は離れた場所に立つ構成員共の耳にも届き、無数の視線が一斉にこちらへ向けられる。

 憎き襲撃者を発見した構成員共の戦意と敵意が膨れ上がり……すぐに霧散してしまった。

 代わりに困惑するような気配が伝わってきたが、それも致し方あるまい。

 何しろこちらにはボスの娘であるルビーがいるのだから。


「さぁさぁ、お嬢様。折角なんで一言どうぞ」


「ねぇ、なんか楽しんでない?」


「失敬な。大真面目だっつうの」


 ジト目で俺を見やるルビーだったが、やがて諦めたように深々と息を吐き、その表情をキリリと改めた。

 そして挑むような眼差しを未だ困惑している構成員共に向け……。


「どうせあんた達は納得も理解もしないだろうから、単刀直入に言わせてもらうわ。カロベロ・ファミリーは今日を以って解散! 新しい組織……の名前はまだ決めてないけど、次のボスはあたしよ!」


『……』


 ルビーの発言内容に理解が及ばないのだろう。

 反応がないというよりも、どのように反応すればいいのかが分からないといった感じだ。


「居ないと思うけど従う者は今すぐ道を開けて、あたしに協力しなさい! そうじゃない奴はさっさとこの街から出ていきなさい! ってかぶっちゃけあんた達みたいなセコいことしか出来ない小悪党とかマジでいらないから! あと全員臭いのよ! 風呂入れ!!」


『ハァァアアアアアアアアアアッッ!?』


 困惑から一転して怒号が迸る。


「舐めてんのかゴラァ!」


「ボスの娘だからって調子乗ってんじゃねぇぞクソアマがぁ!」


「くっ、臭くねぇわ!」


 どうやら風呂に入っていないのは事実らしい……ってんなこたぁどうだっていいわ。

 そんな構成員共の罵声など何処吹く風と言わんばかりにルビーは手を腰に当て、堂々と胸を張っている。

 心なしか、表情もスッキリしたように見える。


「言いたいことは言えたかよ?」


「勿論。新しい組織に不潔な男なんて不要よ」


「え、そこ重要?」


 今気にすることではなかろうに。

 自信満々に言い切るルビーに対して、もっと他に重要なことがあるのではと遠慮気味にツッコんでみたところ「馬鹿を言うな」と何故かミシェルに注意された。


「大事なことではないか。何を言っているのだ、マスミよ」


「そうですよ。清潔感は大切です」


「お風呂に入らないなんてぇ、人生の半分をぉ、損してるの~」


「……なんなんだよチクショウ」


 女性陣が寄って集って俺を―――言葉で―――責めてくる。

 そんなに間違ったことを言ったか?

 あとエイルは自分が風呂に入りたいだけだろう。


「女三人寄ればなんとやらだな」


『所詮、口で女子(おなご)には勝てぬよ』


 まさしくその通りである。

 姦しくなかったユフィ―がコテンと首を傾け、「入浴せずに致す場合もあるのではございませんか? 野外とか?」とぶっ飛び過ぎた意見を口にしたのは、聞かなかったことにしておこう。

 どうやら奴の辞書に自重とかコンプライアンスといった単語は記載されていないようだ。


「オイッ、こんな時に何をふざけている!」


 以前に腕試しでノックアウトしたことのある若い護衛に怒鳴られた。

 言い出しっぺはお前んとこのお嬢様なんだが……。


「まぁまぁ、緊張でガチガチになってるよりはマシだろ?」


 と言って適当に宥めている内に構成員共の怒りのボルテージは最高潮まで高まっていく。

 そして誰かが「やっちまえ!」と叫んだ直後―――。


『オオオオオオオオオオッッ!!』


 ―――更なる怒号を伴って弾けた。

 百人を下らない構成員共が津波のように押し寄せてくる様は中々に壮観であるものの、それらを悠長に眺めている場合ではない。


「エイル!」


「〈風撃(ゲイルブロウ)〉!」


 既に詠唱を終えていたエイルが得意の風魔術を放つ。

 先頭を走っていた数人の構成員が〈風撃(ゲイルブロウ)〉の直撃を喰らい、後続の連中を巻き込むように吹き飛ばれていく。

 出鼻を挫かれ、押し寄せてくる集団の波の勢いが僅かに弱まる。


「次だ! ぶん投げろ!」


 続けて俺の声を合図に、ルビーの護衛達が手にしていた物を集団に向けて投げ付ける。

 彼らが投げ付けている―――俺が事前に配っておいた―――のは、非常に割れ易い安硝子で作られた試験管。

 その中には赤黒い粉末が入っている。

 次々と投じられていく試験管が構成員の身体に当たり、あるいは地面に落ちて割れ、中の粉末が飛散する。

 その粉末を吸い込んだ連中が……。


『ギャアアアアアアアアアア―――ッッ!?』


 絶叫した。

 粉末の正体は磨り潰した唐辛子と胡椒の混合物。

 以前にネーテの森で遭遇した大型の魔犬ヘルハウンドやその配下の魔物相手に使用した即席の催涙弾である。

 今回は卵の殻の代わりに割れ易い試験管を利用させてもらった。

 粘膜に直接ダメージを負った構成員がその場に倒れ、ギャアギャアと苦しみながらのたうち回る。

 流石に全員に喰らわせるだけの量は用意出来なかったものの、それでもかなりの人数が行動不能となり、後続の連中も突如として苦しみ始めた仲間の姿に腰が引けている。

 馬鹿め。足を止めたな。


「ミシェル! ローリエ! 出番だ!」


「任せろ!」


「はい!」


 俺の左右から飛び出したミシェルとローリエが構成員共の元へと向かう。

 途中、ローリエは隠蔽のペンダントを外し、雄叫びと共に獣人の姿を解放した。

 百獣を従わせる獅子の如き咆哮を浴びた構成員共の表情が凍り付き、何人かはそれだけで気を失ってしまった。


「セェァァアアアアッ!」


「ワゥゥァァアアアッ!」


 突っ込んだミシェルとローリエが片っ端から構成員を斬り伏せ、殴り倒していき、二人が討ち漏らした分や背後に回り込もうとした奴は、俺とエイルがそれぞれライフルと弓で仕留めていく。


「あんた達も負けてらんないわよ! ぶっ飛ばしてやんなさい!」


 遅れて発せられたルビーの指示に従い、ユンを含めた数名のみを残して護衛達も前へと出る。

 前線で暴れるミシェルやローリエを無視して出てきた構成員を単独ではなく、二、三人ずつのグループで相手取るという堅実だが効果的な連携によって、ルビーへの接近を許さなかった。

 折角の数の優位を生かせないのであれば、如何に大人数を揃えたところで意味はない。

 ましてや敵の多くは戦意を削られ、最早烏合の衆と化している。

 そんな奴らに負ける道理などなく、俺が新たに装填した分も含めて計十二発の弾丸を撃ち終える頃には、立っている構成員は一人として存在しなかった。


「まずは第一波終了と」


 幾らか魔力を消耗した程度でこちらに大きな損耗は無し。

 護衛達からも脱落者は出ていない。

 まずは上々の滑り出しと言えるだろう。


「この後はどうするの? 屋敷に突入?」


「いや、このまま待機。どうせまたすぐに―――」


 第二派がやって来る。

 そのように俺がルビーに告げるのと増援の構成員が屋敷の中から出てくるのはほぼ同時だった。

 ざっと見た限りでは、第一波と同程度の規模。

 どうやら消火活動よりも俺達の迎撃を優先することに決めたらしい。


「さぁて、俺達とテメェら。先に息が切れるのはどっちなのかねぇ」


 そんな半ば挑発的な発言と共に俺はボルトハンドルを操作し、新たな弾丸をライフルの内部へと押し込んだ。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は4/30(金)頃を予定しております。

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