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迷える異界の異邦人(エトランジェ) ~ アラサー警備員、異世界に立つ ~  作者: 新ナンブ
第9章 第1節 アラサー警備員、異国を巡る ~人情編~
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第31話 カロベロ・ファミリー撲滅作戦 ~大物釣れた~

前回のお話……嫌がらせ作戦開始

(真o゜∀゜)=○)´3`)∴

(ロo゜∀゜)=○)´3`)∴

 ―――side:エイル―――



 威勢の良い叫びを上げながら殴り掛かってきた相手の手首を掴み……。


「よ~いしょ」


 その勢いと力を利用して投げ飛ばしたの。

 受け身に失敗し、地面に腰を強かに打ち付けた相手―――カロベロ・ファミリーの構成員は「うばぉ!?」と変な悲鳴を上げたの。

 そして腰とお尻を押さえながらジタバタと藻掻いているの。

 とっても痛そうだけど……。


「自業自得なのでぇ、同情はしませ~ん」


「んがっ、この……くっ、そ、アマァ……ッ!」


「女の子にぃ、そんなこと言ったらぁ、いけませ~ん」


 という訳でお仕置きで~すと告げた後、お尻を強めに蹴ってみたら「はふぉん!?」というもっと変な声が上がったの。

 お尻を押さえながら悶絶している姿は変わらないのに、さっきと様子が違うように見えるのは何故?

 ちょっと気持ち悪いの。


「死ねやオラァ!」


「『弾けろ(■■■)……吹き荒べ(■■■■)』―――〈風撃(ゲイルブロウ)〉!」


 振り向き様、背後から襲い掛かろうとした別の構成員に向けて―――手加減した―――魔術を放ったの。

 圧縮された風の砲弾をお腹に喰らった構成員は、「ギィァァアアアッ!?」と野太い悲鳴を上げながら吹き飛ばされ、近くの建物の壁に激突。

 そのままズルズルと崩れ落ちて動かなく……よく見ると時折痙攣しているから多分生きてはいるの。

 問題ないの。


「エイル、こちらは片付いたぞ」


「ミシェルちゃぁん、お疲れ様~」


 風圧で外れてしまったフードを被り直しながら返事をすれば、わたしが着ているのと同じ黒い外套姿のミシェルちゃんが「うむ」と頷いてくれたの。

 フードですっぽり顔を覆っているから分からないけど、なんとなく満足げな表情を浮かべている気がするの。

 彼女の足元に倒れている構成員の数は三人。

 わたしの分も合わせれば五人の構成員を倒したことになるの。

 カロベロ・ファミリー撲滅作戦―――別名嫌がらせゲリラを開始してから五日目。

 今日もせっせとお仕事に励んだ結果なの。


「終わったのなら早く移動しよう。如何に裏通りとはいえ、人目に付いては事だ」


「そうだね~。それじゃあ撤収~」


 倒した構成員はそのままにわたしとミシェルちゃんはこの場から移動することにしたの。

 すっかり夜も更けている所為か、裏通りから大通りに出ても人気はそんなに多くなかったの。

 昼間も大して多くないけど。


「今日はこれくらいにして帰るか。マスミとローリエも戻っている頃合いであろう」


「うん、お腹も空いてきたし~」


 今日の晩御飯は何かなぁとミシェルちゃんと並んで通りを歩いている時、特殊な気配―――魔力を感じたの。

 こんな街中でどうして?

 わたし程魔力に鋭敏ではないミシェルちゃんも何かしら不穏なものを感じ取ったのか、足を止めて「なんだ?」と怪訝そうにしているの。

 そんな疑問を抱いている間にも魔力は徐々に大きくなっていく。

 まるで魔術を組み上げているみたいに……それに気付いた瞬間、わたしは叫んでいたの。


「ミシェルちゃんッ、跳んで!」


 ほぼ同時に地面を蹴り、それぞれ左右に跳んだ直後、わたしとミシェルちゃんの間を強力な魔力の塊―――圧縮された風の砲弾が通過したの。


「な!? 今のはエイルの……」


「〈風撃(ゲイルブロウ)〉なの」


 何者かが魔術でわたし達を攻撃してきた。

 わたしが最も得意とする風系統の攻性魔術―――〈風撃(ゲイルブロウ)〉で。

 標的であるわたし達を捉えることの出来なかった風の砲弾は速度を一切緩めることなく、射線上にあった屋台に命中し、粉々に粉砕したの。

 偶然にも屋台の傍を離れていたのか、店主らしき男の人が「うひゃあ!?」と悲鳴を上げて腰を抜かしてしまったの。

 人通りが少なかったことも幸いしてか、屋台が壊された以外に被害は出なかったの。

 突然の事態に驚いた数少ない通行人達が逃げ惑う中……。


「ほぅ、思った以上に勘は良いのだな」


 涼やかさの中に感心するような響きを含んだ声が耳に届いた。

 声の方に振り向けば、細長い木の杖―――ワンドを携えた人物が殊更ゆっくりとした歩調で、こちらに近付いてくるのが見えたの。

 わたし達とは対照的な真っ白な外套。

 フードを目深に被っている所為で表情までは窺えないけど、ワンドを握る手は女性と見紛うばかりに細いの。

 背は高め。ローグくんと同じくらいはあるかも。


「今の魔術ぅ、貴方だよね~?」


 わたしからの問い掛けに対して、如何にも魔術師然とした外套の人は、「ああ、私だ」と悪びれた様子もなく頷いたの。

 中性的な声だけど、きっと男の人だよね。


「こんな街中でぇ、危険な魔術を使うだなんてぇ、どうかしてるの~。当たったらぁ、怪我じゃ済まないの~」


「いや、その危険な魔術をほんの少し前にエイルも人に向けて放っていた気が……」


「お黙り下さ~い」


 遠慮気味にツッコミを入れてくるミシェルちゃんの前に人差し指を立ててお口を閉じてもらったの。

 わたしはちゃんと手加減したもん。


「貴様らだな、最近街を騒がせている賊というのは」


「なんのこと~?」


「惚けるな。現に何人もの同胞を手に掛けているではないか」


「殺してないよ~?」


「問答は不要。我が同胞をいたずらに傷付け、命を奪った罪を贖ってもらう」


「だからぁ、殺してないってば~」


 全然話を聞いてくれないの。

 ミシェルちゃんが「悪党といえども仲間意識は持っているようだな」と鼻を鳴らしても、特に怒った様子も見せなかったの。


「口の減らん小娘だ。後悔しても知らんぞ」


「随分と腕に自信があるようだが、たった一人で我々の相手をするつもりか?」


 とミシェルちゃんが言うのを待っていたかのように外套の魔術師の後方から、カロベロ・ファミリーの構成員達がゾロゾロと現れたの。


「誰が一人だと言った?」


 淡々と告げる魔術師とは裏腹に彼の背後に控えた十人の部下は、「ナザリドの兄貴、アイツらとっととぶち殺してやりましょうよ!」と興奮し切った様子。

 応じるようにミシェルちゃんも僅かに腰を落とすのが横目に見えたの。

 きっと外套の下では愛剣の柄が既に握られている筈。


「有象無象を幾ら揃えたところで相手になどならん」


「……本当に口の減らん小娘だ」


 ナザリドと呼ばれた魔術師は若干の呆れを含んだ息を吐いた後、手にしたワンドを掲げてみせたの。

 ワンドの先端には緑色に輝く大振りの宝石―――おそらく魔石―――が嵌め込まれているの。


「このナザリド=クラオト、貴様ら如き賊に遅れを取る程腑抜けてはいない」


「部下の前だからってぇ、カッコつけなくてもいいよ~?」


「生憎そうもいかなくてな。仮にも幹部の一人である以上、部下の前で不様な姿は晒せん」


「幹部……」


 嫌がらせゲリラによって、カロベロ・ファミリーは少なくない兵隊を失っている。

 下っ端の構成員だけでは埒が明かないと判断したボスは、より強力な戦力を投入する可能性が高い。

 その投入された戦力を倒すことが出来れば組織に大きなダメージを与えられる。

 そろそろ大物が釣れるかもしれないとマスミくんはちょっと楽しげに語っていたけど……。


「狼藉もここまでだ。我らに牙を剥いたことを後悔するがいい」


 ―――マスミくん、大物釣れたよ。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は3/30(火)頃を予定しております。

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