第18話 路上決闘 ~不穏な展開~
前回のお話……戦闘狂爆発
(ブ ゜Д゜)ハッハッハー
(ロ ゜Д゜)ヤババ…
※今回短いです。
ブルアンと名乗る大男がローリエを捕らえようと右手を伸ばす。
対するローリエは迫る相手の手首に手刀を落とし、難無く捌いてみせた。
続けて伸ばされた左手を掻い潜るようにして躱したローリエはそのままブルアンの懐へ潜り込み、力強い踏み込みと共にボディーブローを放った。
「はぁ!」
「ぐおっ!?」
至近距離から腹のど真ん中を打ち抜かれた巨躯がくの字に折れ曲がるも、そんなことはお構いなしとばかりにブルアンは眼前のローリエを羽交い絞めにしようとする。
今度こそ捕まってしまうかと思われたが、間一髪のところでローリエはブルアンの間合いから離脱。
跳ねるように地面を蹴りながら後退し、5メートル近くも下がったところでようやく足を止めた。
「カハハハ、本当にすばっしこい奴だなぁ。全然捕まらねぇじゃねぇかよ」
「……貴方こそ呆れた打たれ強さですね。いい加減倒れていただければわたしも助かるんですけど」
「おいおい、馬鹿言うんじゃねぇよ。こんなに楽しい喧嘩は久し振りなんだ。寝てたら勿体ねぇだろ?」
向かい合う両者の表情はあまりにも対照的だった。
歯を剥き出しにして笑うブルアンに対してローリエはずっと厳しい表情を浮かべている。
ローリエを捕まえようとブルアンがその野太い腕を伸ばす。
迫る手を躱し、あるいは捌いたローリエがブルアンに攻撃を加え、そして捕まる前に離脱する。
先程からこれの繰り返し。
一騎討ちが開始されてから既に十分近く経過しているが、ブルアンはローリエに攻撃を当てるどころか、未だ彼女の身体に触れることすら出来ていない。
反対にローリエは既に何発もの打撃をブルアンに打ち込んでおり、戦闘を優位に進めている。
危なげな様子は一切見られないのだが……。
「不味いな」
「不味いの~」
俺と一緒に一騎打ちを見守っていたミシェルとエイルが同時に口を開く。
そして俺も彼女達と同意見だった。
『何故じゃ? どう見てもローリエの方が押しておるではないか』
あの男は触れることすら出来ておらぬぞと胸ポケットから顔を出したニースが不思議そうな声を上げる。
確かに一見するとローリエの方が圧倒的に優位だ。
彼女の動きにブルアンは全くついていくことが出来ず、攻撃を喰らい続けている。
あまりにも一方的な展開。
普通ならばローリエの勝利を疑うことはないだろう。
「確かにローリエの方が攻めている。だがあのブルアンという男……」
「ローリエちゃんの攻撃がぁ、全然効いてないの~」
そう、ブルアンはローリエから喰らった攻撃を全く意に介していないのだ。
どれだけ蹴られようと殴られようと奴は痛がる素振りすら見せず、平然と動き続けている。
出血もしているし、何度か地面に膝を突いたり、倒れたりする場面もあったので、エイルが言うようにノーダメージという訳ではないのだろうが、その度にブルアンは凶悪な笑みを浮かべながら立ち上がるのだ。
最初の不意打ち―――後頭部へのハイキック―――に耐えた時点で相当な打たれ強さだと思ってはいたが、ここまで来るとハッキリ言って異常だ。
ローリエもその異常性に気付いているからか、厳しい表情を崩さない。
これが格闘技の試合ならば彼女の勝利は間違いなかっただろう。
だが今行われているのはルールによって守られた試合ではなく、路上での一騎打ち―――喧嘩だ。
レフェリーも居ないければ、テクニカルノックアウトも判定勝ちも存在しない。
どちらかが戦闘不能になる以外の決着は有り得ないのだ。
しかも対戦相手も観客も犯罪上等の悪党共。
このまま黙って―――騒いでいるけど―――観戦してくれるという保証は何処にもない。
「何とかして止めたいところだけど……」
そのための手段が思い付かない。
もしも一騎討ちに割り込んだ場合、折角の喧嘩を邪魔されたとブルアンが怒り狂うのは必然。
手が付けられないくらいに暴れ回るのは目に見えている。
ならば皆が夢中になって観戦している今の内に周りの構成員を全員片付けるか?
……無理だな。
隠密行動に長けたエイルならば何人かは無力化出来るだろうけど、バレずに全員なんて流石に不可能だ。
ローリエを巻き込まず、敵だけを識別して広範囲を攻撃出来るような都合の良い魔術なんて……。
「ある訳ないの~」
「ですよねー」
俺が言うまでもなく、あったらとっくに使っている筈だ。
この間に接近したローリエが鋭いフックでブルアンのこめかみを打ち抜いたが、やはりブルアンが倒れることはない。
返す刀で大きく横薙ぎに腕を振るうが、ローリエは軽やかな宙返りで難無く躱してみせた。
「そもそもあのブルアンって奴は何でパンチもキックも使わないんだ?」
「それは分かり兼ねるが……」
乱入時にミシェルを殴り飛ばした一発を除けば、ブルアンはローリエに対して打撃を一切使っていない。
基本的に腕を伸ばして捕まえようとするか、タックルを仕掛けて組み付こうとするかの二択のみ。
頑なに打撃を使わない理由は不明だが、おかげで均衡が保たれているとも言える。
この均衡が崩れてしまう前に何か手を打たなければと焦りが募る。
もういっそのこと魔力弾による狙撃でブルアンを殺っちまうかと危険な思考に陥り掛けた俺の耳に……。
「お困りみたいだなぁ、マスミ」
微妙に聞き覚えのある男の声が届いた。
はて誰だったかしらんと首を捻っていると「うわっ、貴様何処から湧いて出たのだ!?」とミシェルが驚きの声を上げた。
いつの間に接近していたのか、俺達のすぐ近くに立っている一人の男。
長い黒褐色の髪。左目に当てられた黒い革の眼帯。黒のダスターコートと見事なまでの全身黒尽くめ。
胡散臭さ全開。だけど見覚えのあるその男は……。
「ジョッシュさん?」
「よぉ、さっきぶり」
闇ギルドで別れた筈のジョッシュさんの姿がそこにあった。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は1/25(月)頃を予定しております。




