第3話 避けようと思った時にこそトラブルはやって来る
前回のお話……トラブルの予感
(謎 ゜Д゜)うるあー
(真 ゜Д゜)勘弁してほしい…
―――side:ミシェル―――
「ちゃっちゃと報告済ませてくるよ」
そう言って、マスミは受付のカウンターに向かった。
私とローリエはロビーに設置されている背もたれのないベンチに並んで座り、手続きが終わるのを待つことにした。
しかしこのギルド……。
「嫌な感じだな」
「ええ、あまり長居はしたくありませんね」
ジロジロと無遠慮にこちらを眺めている冒険者達。
そこに好意的なものは一切含まれておらず、奇異なものでも見るように、あるいは値踏みするかのように何対もの視線が私とローリエに注がれている。
はっきり言って不愉快だ。
何か文句でもあるのかと問い詰めてやりたいところだが、そうすると私達が女性だとバレてしまう。
「短気を起こしちゃ駄目ですよ?」
「分かってる」
今は下手に騒ぎを起こすべきではない。
無視だ無視。あんな奴らは路傍の石とでも思え。
自分自身にそう言い聞かせつつ、マスミが戻ってくるのを待とうとしたのだが……。
「おい、お前ら」
先に冒険者の方が来てしまった。
近寄ってきた五人の男達は、まるで逃げ道を塞ぐようにベンチに座る私とローリエを取り囲んだ。
昼間から酒盛りでもしていたのか、一人残らず酒精で顔を真っ赤に染めている。
「お前らこの街の奴じゃねぇだろ。何処から来やがった」
酒臭い息を吐きながら、リーダー格らしき体格の良い男が質問をしてきた。
咄嗟にネーテと答えそうになったが、ローリエがさりげなく首を横に振っているのが見えたおかげで、堪えることが出来た。
そうだ。声を出したらバレてしまう。
なんとかこの場をやり過ごさなければと思い、私とローリエは顔を伏せたまま無言を貫く。
無論、相手もそれで納得してくれるような輩ではない。
「おいッ、聞こえてんだろ。なんとか言えや」
無視をされたことに腹を立てた男が段々と声を荒げ、怒りを露にしていく。
いいから何処かに行け。私達に構わないでくれ。
そんな願いが通じる筈もなく、遂には周りの取り巻き共まで騒ぎ始めた。
「兄貴が訊いてんだろうが!」
「無視してんじゃねぇよ!」
喋ったら面倒なことになりそうだからと口を開かず黙っていたのに、喋らなくても面倒なことになってしまった。
これはもう駄目だな。
マスミには悪いが、私達は一度ギルドの外に出た方がよさそうだ。
ローリエも同じ考えに至ったのだろう。
私達はお互いに小さく頷き合った後、座っていたベンチから腰を上げ、この場から離れようとしたのだが……。
「まだ話は終わってねぇぞ!」
立ち上がった私を突き飛ばそうと取り巻きの一人が腕を伸ばしてくる。
反射的に身体を捻ることでその手を回避することには成功したものの、咄嗟のことで加減が出来なかった。
勢い良く身体を動かした反動で顔を隠すために被っていたフードが、パサッという軽い音と共に外れてしまったのだ。
フードが外れた瞬間、隣から「あっ」とローリエの驚く声が聞こえた。
そしてそれ以上に劇的な反応を見せたのが目の前の男達。
全員が目を見開き、驚愕の表情を浮かべているのだが……私ってそんなに驚かれるような顔をしているか?
「テ、テメェ女だったのか……!?」
「……だったらどうした」
「女の分際で舐めた口を利くんじゃねぇ!」
驚愕の表情を一変させ、怒りを露にする男達。
その急激な変化に付いて行けない私とローリエは困惑するばかりだった。
「女が男に逆らうんじゃねぇよ!」
「落ち着け。何をそんなに―――」
「うるせぇ!」
先程とは別の取り巻きが今度はローリエに向けて手を伸ばすが、その手はあっさりと叩き落とされ、触れることすら叶わなかった。
手を叩かれた男は「テメェ……ッッ」と食い殺さんばかりの目でこちらを睨み付けてくるが、生憎と酔っ払いに睨まれた程度で臆するような私達ではない。
フードを跳ね上げ、素顔を露にしたローリエは一方的に騒ぐ男達に怒鳴り返した。
「いい加減にして下さい! さっきからいったい何なんですか貴方達は!?」
「おいッ、酔っ払うにしても限度があるぞ。少しは頭を冷やせ!」
「このくそアマ共がぁ!」
「この街のルールを知らねぇのか!?」
「知らん!」
つい先程着いたばかりの街のルールなど知る訳なかろう。
無論、そんなことを知る由もない男達は、更に激昂して大声を上げた。
……もうこいつら殴ってもいいかな?
「女は黙って男の言うことに従ってりゃいいんだよ!」
女は男の命令に黙って従う。
それがこの街のルールだと喚き散らす男達。
全く理解出来ない。
本気で言っているのか?
「訳の分からんことを言うな!」
「貴方達は女性を何だと思ってるんですか!」
「口答えするんじゃねぇ!」
「女なんざ所詮は男の奴隷に過ぎねぇんだよ。口で言っても分からねぇってんなら―――」
身体に直接教えてやるよ!
そう叫ぶリーダー格の男が拳を振り上げるのを見て、私も即座に迎撃の構えを取る。
素直に殴られてやるつもりなど毛頭ない。
この酔っ払いめ。我が拳でその腐った性根を叩き直してくれるわと右の拳を強く握り込む。
カウンターを狙う私目掛けて、男が拳を打ち下ろそうとした瞬間―――。
「俺の女にちょっかい出してんじゃねぇよ」
―――背後から接近したマスミが男の頭を殴り付けた。
顔面から倒れる男。
兄貴兄貴と騒ぐ取り巻き。
そして私は……。
「……ちょっとキュンときた」
「真面目にやって下さい」
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次回更新は11/15(日)を予定しております。




