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第23話 餞別のボルトアクション ~出立前日~

前回のお話……隣国行き決定

(真 ゜Д゜)行ってきます

(絵 ゜Д゜)なにー!?

「いやぁ、やっぱりあんた大したもんだよ。まさかこの短期間で本当に完成させちゃうなんて」


「君のアドバイスがあればこそだ。動作確認も終えてはいるが、念のために君の方でも確認を頼む。私では気付けないような不備があるかもしれないからね」


「勿論。今から試射するのが楽しみだよ」


 俺は今、デイビットの研究室を訪れていた。

 ギルド経由でデイビットから俺宛に手紙が届き、渡したい物があるから研究室に来いと呼び出されたのだ。

 彼が俺に渡したい物とはいったい……そんなことは考えるまでもなかった。

 新作の銃が完成したからに他ならない。


「新型機構を組み上げるよりも弾丸の形成に手間取ってしまってね」


 久し振りに胸が熱くなったよと満足げに頷くデイビット。

 どうやら彼は越えるべき壁が高ければ高い程に燃えてくるタイプらしい。


「まあ、こいつに今までの実包は使えないからなぁ」


 俺が提供した地球産の銃器に関する情報。

 その情報を基にデイビットが完成させた新たな銃―――ボルトアクションライフル。

 我が愛銃たるエアライフル(静音)にも用いられているボルトアクション方式。

 取り付けられたボルトハンドルを手動で操作することにより、弾薬の排出と装填を行う機構。

 歩兵の主力火器が自動小銃に取って代わるまでの間、約百年もの長きに渡って歩兵銃の代表を務めた。

 その信頼性の高さから現在でも多くの銃器―――特に狙撃銃(スナイパーライフル)―――にこの方式は取り入れられている。

 デイビットから聞いた話が正しければ、今俺の手に握られているライフルこそが、この世界で初めてボルトアクションを採用した銃器ということになる。

 世界初……なんと心踊る響きだろう。


「装弾数は六発。最大射程も約三倍にまで伸びた。これならば実戦にも投入することが可能だろう」


「銃だけならね。あとはこいつを扱える兵士を育てないと」


「そこが頭の痛いところなのだよ。銃なら幾らでも造れる自信はあるのだが……」


 流石に人を鍛えることは出来ないと悩ましげに唸るデイビット。

 所詮は銃も道具。使うのは人なのだ。

 どれだけ優れた性能を有していようとも、肝心の使い手にそれを活かせるだけの技量が備わっていないことには何の意味もない。


「まあそれはいい。私は技術者であって軍人ではないからね。銃を完成させた後のことまで責任など持てん。それよりも間に合ってよかった。出立は明日だったかな?」


「一応ね。届け物の依頼をこなすついでにそのまま一、二ヶ月くらいはブラブラするつもり」


 出立とはいったい何処に行くつもりなのかという疑問の声―――何処かの誰かがきっと気にしている筈―――にお答えしよう。

 明日、俺と仲間達は隣国のテッサルタ王国に向けて出発する予定なのだ。

 名目はギルドの依頼―――国境を越えた先にある街への届け物―――のためとなっているが、実際はかの国で日本帰還に繋がる手掛かりを探すためだ。

 異世界で生きていく覚悟を決め、その意思を仲間達、そして俺と同じ日本人である篠宮絵里と八木坂菜津乃に告げた日から既に一ヶ月が経過している。

 この一ヶ月間はテッサルタ王国へ向かうための準備期間。

 依頼をこなして金を貯め、物資を買い集め、ひたすら訓練に時間を費やした。


「しかし、何故また急にテッサルタ王国に行こうなどと考えたんだい?」


「急にって訳じゃないけど、ちょっと個人的に調べたいことがあってね」


 一ヶ月前のあの日、俺は絵里と菜津乃が日本に帰還するための手助けをすると約束したが、その時点では双方帰還に繋がる情報を一切有していなかった。

 ネーテに到着するまでの道中でも、それらしき情報は全く集められなかったという話だ。

 闇雲に調査したところで徒労に終わるのは目に見えている。

 ならば現状、調べるべきはただ一つ。

 不完全な召喚術により、絵理と菜津乃を含めた十一人もの日本人をこの世界に招いたテッサルタ王国をおいて他にはない。


「ふむ、調べ物をするような面白い国ではなかったと記憶しているのだが」


「面白いかどうかは関係ないんだけど……ってもしかして行ったことある?」


「ない」


「ないんかい」


 完全に行ったことがあるような口振りだったくせに。

 変な期待を持たせるなよ。


「行ったことはないが、我が国とそれ程良好な関係ではないということは知っている」


隣国(おとなり)なのに?」


「隣国だからといって必ずしも友好国とは限らんよ」


 アンデルト王国とテッサルタ王国。

 デイビット曰く、最低限の交易くらいは両国間でもあるそうだが、言ってしまえばその程度の関係でしかないらしい。

 なんだか現代の人間関係に似ていると思うのは俺だけだろうか。

 仕事中、業務に関係のある会話はするけど、それ以外では一切言葉を交わさない。

 プライベートの付き合いなど以っての(ほか)……みたいな。


「治安についても我が国程には良くないと聞く。まあ、君なら心配する必要もないとは思うが、それでも充分に気を付け給え。流石に私もたった一人の友を失いたくはないからね」


「俺的にはこの国も大して治安が良いとは思えないけど……」


 そしてお前の友達って俺だけかよ。

 いや、そもそも俺ら友達だったの?

 そこまで親睦を深めた覚えはないのだが……。

 正直、俺の中ではただの取引相手というか協力者のつもりだった。


「なんかごめんな?」


「何故謝るのかね?」


 両手を合わせて軽く謝罪する俺を見て、デイビットが怪訝そうな表情を浮かべる。

 まさか友人扱いしてくれているとは思っていなかったから、少々申し訳なく感じてしまう。

 今後はもう少し友好的な付き合いを心掛けよう。


「とはいえ、今言ったことは私がまだ軍に所属していた頃に聞いた話だ。今は情勢が変わっているかもしれないから鵜呑みにはしないでくれよ」


「だといいんだけどねぇ」


「そもそもあんな面白みのない国のことなどどうでもいい。道中、魔物と出くわすこともあるだろう。存分に撃ちまくって銃の性能を確かめてくれ給え。重要なのはそれだけだ」


「あんたはそれで……いいんだろうなぁ」


 当然だともと腕を組んで自信満々に頷くデイビット。

 その様に苦笑いが漏れる。ブレないねぇ。


「まあいいか。あんたからの餞別、有り難く使わせてもらうよ。感想は帰って来てからということで」


「うむ、良い土産話が聞けることを願っているよ」


 では私は次の銃の製作に取り掛かるとしようと挨拶もそこそこにデイビットは作業台に向き直った。

 何かしらの作業に取り掛かるデイビットの背中に向けて―――当然こっちを見ていない―――軽く手を振ったところで思い出した。

 そういえば初めて彼の家を訪問した際にも同じやり取りをしたな。

 そのことに笑みを深めつつ、俺はデイビットの家を後にした。

お読みいただきありがとうございます。


次回更新は10/20(火)頃を予定しております。

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