第22話 残る者と帰る者
前回のお話……真澄はヘタレ
(ミ ゜Д゜)ヘタレ
(真 ゜Д゜)……(何も言い返せない)
「深見さん、なんだか眠そうですけど……」
「ちょっと、いやかなり寝不足でね」
「目の下すっごいクマ。ウケるぅ」
「ほっとけ」
ミシェルの夜這い未遂から一夜明け、俺達は再び絵理と菜津乃の女子高生コンビと対面していた。
場所は昨日と同じ水鳥亭唯一の四人部屋。
今回もアルナウトとフェイムの蜥蜴人兄妹に同席してもらっている。
本来、当事者ではない彼らに同席してもらう必要はないのだが、絵理と菜津乃を保護してここまで連れて来てくれたのだ。
二人にだって知る権利くらいはあるだろう。
ちなみに俺が寝不足の理由は、単純に朝まで眠れなかったから。
ミシェルに夜這いを仕掛けられた時、俺自身にそのつもりはなくとも身体は実に正直なもので、しっかりと男らしい反応を示していた。
ある意味、俺もまだまだ若いという証拠である。
幸いミシェルには気付かれなかったものの、ユフィーが俺の身体の一点を食い入るような目で凝視していたのが気になって仕方なかった。
バレてないよな?
そんな訳で女性陣を部屋から追い出した後も俺は碌に眠ることが出来ず、悶々とした気持ちを抱えたまま朝まで過ごす羽目になったのだ。
心なしか、前日の酒も抜け切っていないように感じる。
そんな睡眠不足で体調不良な俺とは正反対に女性陣は軒並み顔色が良く、中でもミシェルの顔色は群を抜いて良かった
相当良質な睡眠が取れたのか、驚く程にお肌ツヤツヤなのである。
そもそもミシェルの所為で俺は睡眠不足になったというのに、当のあいつはがっつり寝てるってどういうことだよ。
お前も少しは意識しやがれ。
「大丈夫。寝不足なのは事実だけど、ちゃんと頭は回ってるから」
どうにも心配そうに俺を見ている絵里に向けてヒラヒラと手を振り、問題無いことをアピールしておく。
この話し合いが終わったら、存分に寝かせてもらうつもりだから。
何しろ俺の中では既に結論が出ているのだ。
なので目蓋が重力に負けてしまう前に、さっさと終わらせるとしよう。
「あー、篠宮さん?」
「絵里で構いません」
「そう? んじゃ遠慮なく絵理ちゃんって呼ばせてもらおうかね」
ちゃん付けで呼んだ瞬間、ミシェルとローリエの目付きが鋭くなり、菜津乃の口から「キモ……」という嫌悪感丸出しの呟きが漏れた。
本人に許可を得た上で呼んだだけなのに……。
ゴホンゴホンと咳払いをしてから話を切り出す。
「昨日の話。俺が君達に同行するかどうかって件だけど、俺なりに考えさせてもらったよ。それでまあその……折角の申し出なんだけど―――」
お断りさせてもらうよと最後まで告げるよりも早く、「ごめんなさい!」と絵理が勢いよく頭を下げてきた。
綺麗に切り揃えられた彼女の黒髪がバサッと音を立てて翻り、思わず身を仰け反らせてしまった。
いったい何事だ?
「その、昨日は深見さんの気持ちも考えずに、わたしってば自分の都合ばかりを話して……皆さんにも失礼なことを言ってしまいましたし、本当にごめんなさい」
「昨日はエリも冷静ではありませんでした。きっと自分達以外のニホンジンに会えて舞い上がってしまったのでしょうね」
申し訳なさそうに項垂れている絵理を慰めるためか、傍に寄ったフェイムが彼女の背中を優しく擦る。
アレって舞い上がってたの?
同じことを思ったのか、顔を見合わせたミシェルとローリエが「舞い上がっていたか?」「さあ?」と首を傾げ、それを見たエイルから「余計なこと言わな~い」とやんわり注意されていた。
相棒がしょんぼりしている隣では、菜津乃が如何にも興味なさげな表情で自身のスマホ―――派手にデコられている―――を弄っている。
どうせ電波なんて入らんだろうに。
手持ち無沙汰なのは分かるが、もっと興味持てや。
「お前さん、マジで俺のこととかどうでもいいんだな」
「は? 別にオッサンがどうなろうとあたしに関係ないし。荷物持ちが居たら楽だなぁって思っただけだし。マジで何言ってんの超キモいんですけど」
イケメンになってから出直せと吐き捨てた後、再びスマホの画面に向き直る菜津乃。
矢継ぎ早に繰り出された雑言に心が折れそうになった。
幾らなんでも口が悪過ぎる。
今時の女子高校生ってみんなこうなの?
「侮っていただいては困ります。大きさも重さも関係なし。荷物持ちにおいてマスミ様の右に出る方はいらっしゃいません」
「お前それ褒めてるつもりか?」
何故か誇らしげにしているユフィー。
多分、空間収納のことを言ってるんだろうけど、主の特技が荷物持ちって嬉しいか?
あともう少し言い方を考えろ。
……駄目だ。話が逸れてきた。
もう一度咳払いをし、改めて絵理に向き直る。
「絵理ちゃん、昨日の申し出だけど……悪いが君達に同行することは出来ない。俺はこの世界に残るつもりだから」
昨日は伝えることの出来なかった自分の気持ちを正直に打ち明ける。
ある程度は予想していたのか、絵理は残念そうにしながらも「そう、ですか……」と頷いてくれた。
「……深見さんは帰りたくないんですか?」
「帰りたくない訳じゃないよ。ただ……それ以上に大事なものがこの世界に出来たってだけ」
こうもハッキリと自分の気持ちを口にするのは流石に躊躇われる。
というかぶっちゃけ恥ずかしい。
きっと顔は赤くなっていることだろう。
そんな俺を慈愛の表情を浮かべた女性陣が微笑ましそうに見ている。
止めろ。こっち見るな。
「悪いね」
「いえ、無理強いは出来ませんから」
「ありがと。その代わりと言っちゃなんだけど、二人が日本に帰るためのお手伝いくらいはさせてもらうよ」
「お手伝い、ですか?」
不思議そうに訊ねてくる絵理に向かって「そそ、お手伝い」と返す。
彼女達が日本へ帰還出来るよう助力したい。
これについては女性陣からの了承も既に取り付けてある。
「どうせ今後も依頼であちこち行くだろうからさ。帰還の手掛かりになりそうな情報が得られたら二人にも教えるよ」
「ですが、そんなことをしても深見さんにメリットが……」
「メリットデメリットの話じゃなくてさ。お互い異世界に飛ばされた者同士、いがみ合うより仲良くした方が建設的だろ? それにこっちの世界じゃ珍しい日本人同士だ」
ご縁は大切にせんといかんだろとわざとおどけたように言えば、絵理も「それわたしが言った台詞ですよ」と沈んでいた表情を緩めてくれた。
するとこれまで黙っていたアルナウトが「うむ。丸く収まったようで何より」と愉快げに呵々と笑い、即座に妹から「兄さんは何もしてませんけどね」とツッコまれた。
「どうやら話は纏まったようだな」
「ええ。一時はどうなることかと思いましたけど、これで一安心ですね」
実は密かに緊張していたらしいミシェルとローリエが同時に安堵の息を吐き、エイルが「ずっと一緒なの~」と嬉しそうに抱き付いてきた。
うむ。今日も爆乳の感触は極上である。
「でもさぁ、手伝うって簡単に言うけど、当てもないのにどうやって調べるつもりな訳?」
「疑問はごもっともだけど安心しろ。当てならある」
「は? 昨日はないって言ってたじゃん。あんま適当なこと言わないでよ」
エイルを引き剥がしつつ、不機嫌そうにこちらを睨んでくる菜津乃に対して「昨日まではな」と答える。
「昨日までは確かに当てなんて何もなかったけど、今は違う。一つだけ手掛かりと呼べるものがある。そしてそれは―――」
―――二人のよく知っている場所だ。
そう告げた直後、絵里と菜津乃は表情を愕然とさせた。
俺の考えに思い至ったのだろう。
不安そうに「深見さん、それってまさか……」と声を震わせる絵里に頷きを返し、俺は手掛かりの正体を口にした。
「テッサルタ王国に行こうと思ってる」
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次回更新は10/15(木)頃を予定しております。




